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「うん。そうしなさい! ねえ、仁。都に行ってみたいのなら、今度私と行ってみる?」


「おらが行ったら騒ぎになっちまうからいいんだあ」


「人化したらいい。上位の妖怪は皆できるわ。貴方もできるはず」


「人化?」


 それから仁骨の人化の特訓が始まった。

 仁骨は凄まじい妖気を持つが、それを操る術に長けていなかった。


「う~ん、まだ妖気が漏れているわね」


「難しいなあ。小春、そろそろ帰るのか?」


 仁骨は気付いていた。

 小春の怪我が治りかけていることを。


「……怪我が治ったらね。まだ体が重いの。私が居るうちに、しっかりと妖気の抑え方を覚えなさい」


 それからしばらく。

 小春の怪我が遂に治ってしまった。

 一方、仁骨はまだ人化を完全に習得していなかった。


「じゃあ、帰るわね」


「ああ。元気でな」


 そう言う仁骨の声はどこか寂しそうだった。


「そんな寂しそうな顔しないでよ。これが今生の別れじゃないんだから。また、顔を見に来るから。貴方が来てくれてもいいけどね。私は普段、近江に居るわ」


「近江……覚えておくぞお」


「ねえ、仁。もしあなたが良かったらいいんだけど……ううん、なんでもない。元気でね」


「ああ。気をつけていくんだよ」


 こうして、小春は洞窟から去った。

 それから仁骨の孤独な日々は再び、始まった。


「今までより、洞窟が広く感じるなあ……」


 と仁骨はぽつりと言った。


「けどお、いつか小春と一緒に都に行った時のために人化の練習をしねえとなあ」


 仁骨は一人でも人化の練習を続けた。

 そしてようやく妖気が漏れないレベルまで人化を覚えた。


「これで……小春と一緒に都に入れるなあ。もしかしたら、人郷にも行けるかもしれねえなあ」


 それからもずっと、仁骨は小春を待った。

 けど、小春が来ることはなかった。


「来ねえなあ……。やっぱり小春は冗談で言ったのかなあ。一度、人郷に行ってみるかあ? 今のおらなら……けど、小春が来るかもしれねえから。ここで待ってねえとなあ」


 仁骨はいつもの洞窟から動かずに、小春を待った。

 そんな時、洞窟に遂に人が訪れる。


「あれは……陰陽師かあ?」


 仁骨の前に現れたのは、一目でも分かる程良い狩衣を着た陰陽師・芦屋道満だった。

 あまり霊気を感じ取れない仁骨でも分かる程、凄まじい霊気。

 周囲を固める式神も、今まで仁骨が見たどの妖怪よりも凄まじい妖気を放っていた。


「お前が……がしゃどくろだな」


 道満はそう言った。


(この人は……強いなあ。今までの陰陽師のように、適当に追い返すことはきっとできねえなあ。周囲の式神もおらより強い……)


「何をしに来たんだあ? おらは人となんて争いたくねえよお。帰ってくれねえかあ?」


 仁骨はとりあえず敵意がないことを伝える。


「そうはいかない。お前に祓除依頼が出ている。巨大な骸骨が山に住み着いているってな。だが、事前に聞いていた情報と随分違うな。手当たり次第に人を襲うと聞いてやってきたが」


 道満は首を傾げる。

 見た目とは裏腹に温厚そうである。


「おらから人を襲ったことなんてねえよお。いつも襲われて逃げているんだ」


「道満、嘘はついてなさそうだけど、どうする? 僕が殺るかい?」


 黒曜が刀に手をかける。


「待て。俺も害がない妖怪まで祓いたい訳じゃない。だが、このまま放置もできないんだ。お前、俺の式神にならないか?」


 道満からの直接のスカウト。


(……この人の式神になれば、近江に行けるのか?)


 これが、道満の言葉を聞いた仁骨の最初の感想だった。


「一つお願いがあるんだ。ある女性に会いたい。その人の元へ連れて行ってくれるのなら、あんたの式神になるよ」


「いいだろう」


「ありがとう。今、人化するよお」


 仁骨はそう言って、人化する。


「ところで、その女はどこに居るんだ?」


「近江って聞いた。名前は小春っていうんだ」


「近江……範囲が広いな。とはいえ、約束だ。探そうか」


 こうして、仁骨は道満と共に、小春を探す旅に出た。


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