帰国
その後色々バタバタすることもあったがようやく本来の学生生活を送れるようになった。
と言ってもこちらの国に滞在できる期間は残りわずかとなってしまったけど。
元々半年の留学という約束の元サザンローナに来ている為、それも仕方ない。
私やアルバート殿下は学院で勉強を頑張っている傍ら休日には行ける範囲で観光に行ったりしていた。
セリーヌやルーク様、時にセシル殿下の案内で色々な観光スポットを見てまわり色んなものを食べたりした。
豚の串焼きを串に刺さったままの状態でかじって食べたり、搾りたてのフルーツジュースを公園のベンチで座って飲んだりしながらサザンローナを満喫していた。
グランバニアでお忍びで街にくり出していた時がとても懐かしく感じられる。
「ようやくゆっくり過ごせるようになったね」
アルバート殿下がにっこり笑いながら私の顔を覗き込んだ。
「とは言え留学期間も残りわずかだしその間全部を観光することは難しいから、見れなかったところはその内また来ることにしよう」
「その内?」
「王太子王太子妃としてこちらの国に視察に来たりすることもあるじゃないか。あとはそうだな…シアが新婚旅行でここに来たいって言えばその時にでも」
私の髪の毛を弄りながらアルバート殿下がそう答えた。
アルバート殿下とは後々結婚するわけで今や王妃教育まで受けてる身だが、いざアルバート殿下から今後の話、結婚後の話をされるととてもくすぐったく感じられる。
そんな私の心情に気付いてか、アルバート殿下は「かわいい」と私の髪の毛にキスを落とした。
授業が終わりいつも行くガゼボでサーシャ様とお茶を楽しんでいた。
今日はセリーヌも一緒だ。
「サーシャ様、サーシャ様のアドバイスのおかげでサザンローナで起こっていた混乱を終息させることができました。ありがとうございます。」
セリーヌにはざっくりとサーシャ様のことを話していた。前世うんぬんの話はアルバート殿下にしかしていないが。
そこはサーシャ様にも事前にお話している。
「セリーヌ殿下!!お顔をお上げください!!私は自分ができることをしたまでですわ。」
サーシャ様は焦りながらセリーヌの顔を上げさせた。
「セリーヌ殿下、しばらく大変な時期でございますでしょうが微力ではありますが私にできることがあればぜひ頼ってくださいませ」
そう言ってサーシャとセリーヌは握手を交わした。
元々セリーヌは交友関係は広い方だ。
性格は明るく性格もサバサバしている為、サザンローナでの友人も多い。
だが今こういった事態で1人でも多く信頼できる人間をセリーヌに紹介し、セリーヌの周りに頼れる人材を置きたかったという私の思惑だ。セリーヌはここに残るけど私は帰国しちゃうしね。近くにいれないから。
この紹介をきっかけに後にサーシャ様はセシル殿下の花嫁になる王太子妃様の筆頭侍女という大出世を果たす。
帰国の日、私とアルバート殿下の周りにはたくさんの人が詰めかけていた。
「ルシア!元気でね!また会いましょう?アルバート殿下にまた嫌なことをされたら家出してサザンローナに来ると良いわ!」
「わかったわ!」
「おいやめろ」
セリーヌの言葉に笑って頷けば焦った様なアルバート殿下が割って入る。
その光景に笑いが包まれた。
「クククッ完璧無欠の王子様は既に尻に敷かれてるな」
フレディック様は楽しそうにアルバート殿下を突いた。
フレディック様は今年で学院を卒業するが卒業後は宰相となるべく補佐から勉強しながら働くらしい。
アルバート殿下曰くフレディック様は元々優秀なのもあるが、『使えない大人は即刻切り捨てる』意向のあるセシル殿下の働きで恐らくすぐに宰相の座に就くだろうという話だった。
なんとそのセシル殿下もお見送りに来てくれていた。
「アルバート殿下、シュレーゼン嬢、この度は本当にありがとうございました。後日改めてお礼いたします」
今やかつてのセドリック殿下に負けず劣らずな堂々とした出で立ちのセシル殿下。
まだ幼さが残るにも関わらず受け答えも完璧で、これから大変ではあるもののサザンローナの将来も安泰だと思った。
それからサーシャ様やルーク様にも挨拶し、私達は馬車へ乗り込んだ。
「寂しいけれどみんなと次会う時が楽しみですね」
「そうだな、ところでシア?いつになったら俺のことを普通に『アルバート』と呼んでくれるんだい?」
「え」
「これから夫婦になるんだ。そろそろ敬称無しで呼んでくれても良いんだよ?」
「そ、そんないきなりおっしゃられても…」
「いきなりではないよね?街にくり出す時はちゃんとアルって呼んでくれるし」
なんか今日のアルバート殿下はグイグイくる。
一体何があったという目で見れば
「あのメルとか言う女、セドリック殿下の婚約者でもないのにセドリック様と呼び、婚約者のいる俺にさえアルバート様って呼んだんだぞ、シアにもまだ呼ばれたことないのに」
イライラした様子で当時を思い出しているようだ。
確かにメルの馴れ馴れしさはこちらがヒヤッとしていた。
「だからシアには『アルバート』と呼んでほしいと思ってね?」
満面の笑みで圧力をかけられれば「あ…アルバート様…」と答えずにはいられなかった。
「……まぁ今はそれでいいか」
やや不満顔のアルバート様を見て私の答えが満点ではないことを知った。
その後帰りの道中では誤って「アルバート殿下」と呼んでお仕置きという名でキスされたり膝の上に乗せられたり膝枕させられたりと恥ずかしい思いをすることをこの時の私は知らない。
お仕置きの最中にアルバート様が「グランバニアに着くまで時間はたっぷりあるからね?」と色気を含んだ笑みで迫ってくるもんだから私はたじたじになり、アルバート様呼びに矯正することに成功して「とても有意義な時間だった」とグランバニアに着く頃にはご満悦のアルバート様だった。




