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目覚め

「メル、お前の浅はかな行動で多くの人間に甚大な被害を及ぼした!!」

フレディック様の怒声で私は今の状況に目を向けた。


他の生徒達はメルを避けるように立っており、メルの周りには不自然な空間ができていた。

そしてそんな生徒達の目には憎しみや怒りといった感情がこもっているのにメル自身も気付いたのだろう。怯えたようにフレディック様に目を向ける。


だが一切許さないという揺るぎない思いを感じ取ってか、セドリック様に視線を動かした。


「メルよ…もう私は君に魅了されることはない。絶対だ。」


かつては妄信的にメルを慕っていたセドリック殿下をはじめとした側近達は今や憎しみの籠った目でメルを睨んでいた。




彼らはアイリーン様のご実家のお香や私の浄化の力が作用したことで魅了が解けたわけではない。

実は私達がお香を持ってサザンローナに入国する前にある出来事があったとセリーヌに聞かされていた。




それはセドリック殿下の元婚約者であったご令嬢が亡くなったという話だった。



彼女は自領で療養し一時は回復の兆しがあったのだが、元々体が丈夫ではなかったことに加え婚約者時代に蓄積した心労があまりにも大きく持ち直すことができなかった。


セリーヌは公爵経由でその話を聞き、セリーヌ自身彼女を実の姉の様に慕っていた為深く悲しんでいたが、同時に呆けている兄王子に怒りを覚え淑女としてはあるまじき怒声でセドリックに詰め寄ったそうだ。


「お兄様!?お義姉様が先日お亡くなりになったと公爵家からお話がありました。その事実を目の当たりにしてもまだメルという女に現を抜かしてるおつもりですか!!?」


「え…ラミナが…?」

この時セドリック殿下の虚ろだった目に力が戻ってきたらしい。

セリーヌの魂の叫びを聞いたからか、はたまた元婚約者のご令嬢に対する想いからかは知らないが、その時初めて本来のセドリック殿下に戻った。


セドリック殿下だけでない、その場に居合わせた側近達も目が覚めた様にハッとなり、特に以前元婚約者の家に押し掛けた騎士団長の子息は絶望した表情になった。


セドリック殿下と元婚約者のご令嬢はお互い燃え上がるような恋愛感情は抱いてはいなかった。だが恋愛感情はなくともお互いがお互いを支えて生きていこうという穏やかな愛情はあったし長年ともに過ごしてきて戦友のような間柄であった。

そんな彼女の訃報を聞いて目が覚めたセドリック殿下は同時に深く悲しみ後悔した。



どれだけ悲しもうとももう彼女は戻ってこない…もうすべてが遅いのだ。


自分の心の弱さ、自分のせいで招いた多くの犠牲と混乱。

もはや魅了の呪いを受けていたからという言い訳は通用しないことはセドリック殿下も分かっていた。


ならばせめて自分が迷惑をかけ今も多くの人間が振り回されてる元凶のメルを自分自身で断罪しようと心に決めフレディック様達と同じ壇上に立っていた。



メルを断罪することと自分のせいでどれだけの人間に迷惑をかけていたかちゃんと自分の目で見る為に。





この集会が始まる前、私やアルバート殿下が生徒会室に呼ばれそこにいたセリーヌやフレディック様、ルーク様だけでなく、なんとセドリック殿下やその側近達の姿もあって驚いたところに、セドリック殿下の謝罪と共にこういういきさつがあったという説明と共に、目が覚めたことと最後の始末をつけたいということを願い出てくれた。



これは私もアルバート殿下も嬉しい誤算だった。

遅いかもしれないけれど最後の最後に目を覚ましてくれて本当に良かった。私は自分から目覚めてくれることを期待していた為浄化の力で無理やり目覚めさせるのは最終手段でできれば使いたくなかった手法だったから。



「お前のしてきたことは学院の秩序を乱すだけに留まっていない。」

フレディック様は冷たい眼光でメルを睨んでいる。

本来ならばここもセドリック殿下が仕切るところなのだが彼自身ももはや自分にその権限はないと辞退している。



「ここから先は私が受け持とう」


その時男性にしては少し高めの声が聞こえてきた。


メルをはじめ他の生徒達がホールの後方へ振り返るとセドリック殿下やセリーヌと同じ黒髪でエメラルドのような目をした少年が立っていた。


まだあどけなさが残る少年だが堂々とした佇まいで知性と品格を感じさせられる少年だった。



「まさかここにいらっしゃるとは…セシル殿下。」

彼はセドリック殿下やセリーヌの弟君、セシル殿下だった。




「フレディック、ここまでの進行ご苦労だった。ここから先は学院の範疇から超えるものがある為、私が来た。」

冷静なよく通る声でセシル殿下が話す。


「まずは私の自己紹介からいこうかな?先程議会で王太子に任命されたセシル・サザンローナだ。

国王は療養に入った為ここから先は王太子の名において私が取り仕切ろう。」

壇上に登った彼は周りを見渡しながらそう宣言した。


彼の発言で生徒達は皆驚きの表情になった。

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