動き出すメル
生徒会の仕事を手伝った翌日、私は昇降口で内履きに履き替えて教室の棟へ向かった。
いつもならアルバート殿下と共に登校しているのだが、アルバート殿下は今日は生徒会の仕事の補佐で先に登校していると昨日の時点で言っていた為、今日は私1人での登校だ。
まだそこまで急ぐ時間でもなかった為ゆっくり歩いていると前方から走ってくる人の気配を感じて脇に避けた。
「きゃっ!!」
私の脇の2,3メートル離れたところで女子生徒の比較的大きな悲鳴が聞こえた。
ピンク色の髪の毛の少女メルだった。
しかし何故か彼女は私の方を見て目を潤ませている。
「ひどいです…!いくら私が男爵家の娘だからと言ってこんなこと…!」
え…?今勝手に転んでなかった…?今の言い方じゃいかにも私とぶつかって怪我をしたような言い方だ。
そこまで考えてハッとサーシャ様が言っていたことを思い出した。
…なるほど…私がわざと彼女にぶつかって怪我を負わせた体でいきたいのね。
この前サーシャ様が言ってた『ヒドイン』がよくやる常套手段だ。
「ゲームというより小説ではよくある話なんですけど、サザンローナのこの現状がヒドインの話に似てるんです。あっヒドインといのはヒロインの性格の方が性悪でどっちがヒロインでどっちが悪役令嬢なのか分からないというような話の展開の時のヒロインを指すワードですね。
この場合ヒドインというのはメルですね。
メルも時に悲劇のヒロインぶって他の令嬢を傷つける事案もあったので注意が必要なんです。」
そうと分かればこの目の前にいる女にどんな対応をしようか考えた。
「なんで何も言わないんですか!?謝ってくれたらそれで良いです…!」
この女は何か言っている。何故何もしてないのに謝らなければならないのか。
かと言ってここで面倒だと謝ってしまえば自分が何か悪いことをしたと認めるような物。
そこで私がとった行動は
無視して自分の教室に行くことにした。
メルに背中を向けてる状態だからメルの様子はよく分からなかったがしばらく動く気配がなかった。
恐らく私がガン無視して教室に向かったことが想定の範囲外だったようで呆然としていたのだろう。
そして我に返ったであろうメルが立ち上がって「待ちなさいよ!!!」と後ろから追いかけてきた。
「ちょっと!!!怪我人放っておいて何ガン無視してんのよ!!!信じらんない!!!」
私の肩を思いきり掴んで大声で怒鳴り散らすメル。先程までの可憐な雰囲気は捨て去っている。
「……随分元気の良い怪我人ですこと?」
私の言葉であからさまに動揺しだすメル。
…つまらない…随分早く猫を取っ払ったわね。
「それに一言申し上げると、あなたが転んだときのあなたと私の距離、数メートルありましたよ?どうやって私があなたを転ばせることができるのかしら?」
メルの表情がカアアっと赤くなる。
今は人がごった返してる朝の時間。
当然私達の周りにも生徒はいて一部始終を見ていた人間も少なくないだろう。
そんな中でこの様な返り討ちに会えば流石のメルも羞恥心を持っただろう…これで懲りるかは分からないが…。
いや、懲りないだろう。だってメルは…
「こ、こんな冷徹な人!アルバート殿下に相応しくありませんわ!!」
やはり私の読みは当たったか。
アルバート殿下が隠し攻略対象の時点でメルに狙われる可能性はあったし、現に前回アルバート殿下を見るメルの目が獲物を狙う目だったから早かれ遅かれ私に突っかかってくると思っていた。
「ではどんな方がアルバート殿下に相応しいというのですか?」
「そ、それは…、少なくとも私はアルバート殿下に寄り添えます!!」
「ほおおお、それは素晴らしいわ?セドリック殿下やその側近の方だけでなくアルバート殿下にも寄り添えるのね?参考にしたいわ?一体どんな手を使って寄り添ってるの?」
こういう女は下手に敵対するのはタブーだ。無駄に異性の味方を増やす手腕に長けているから。
ならば色んな角度から質問攻めにして答えづらい返答の話に持っていくのも1つの手…あくまで冷静に。
「どんな手って…それではいかにも私が何か悪いことをしてるみたいじゃないですか!?」
そこはちゃんと嫌味として通じてたんだー。
「おい、朝から何を騒いでるんだ?」
私達の前方からフレディック様が険しい表情で歩いてきた。
「またあなたか?あなたはいつも騒ぎの渦中にあるが反省はしているのか?」
強面のフレディック様がひと睨みすればたちまち竦みあがるメル。
どうやらメルはフレディック様が苦手の様だ。
バタバタと淑女らしからぬ猛ダッシュで立ち去った時、フレディック様の方へ向き直った。
「助けていただきありがとうございます。」
「いやいや、アルバートがルシア嬢が到着するのが遅いと心配してな?ちょうど職員室にも用があったから俺が様子をみてくると言って来てみたらあの状況だったよ。
本当はアルバートが探したがってたがメルは俺を苦手としてるからな、俺の方が都合良かったってのもある。」
「アルバート殿下が…フレディック様もありがとうございます。」
苦い顔をしながら先程メルが走り去った方角を見るフレディック様。
いつかはメルがこちらに突撃してくるとは考えていたが流石に彼女の対応は疲れる。
だが彼女と接触したことで思わぬ発見もした。
私はフレディック様と共にアルバート殿下が待つ生徒会室へ向かった。




