サザンローナへ
高級感あふれる馬車が護衛の騎士に囲まれて街道を進んでいた。
そこには私とアルバート殿下、セリーヌとルーク様が乗っていた。
あの話し合いから2か月後の今日、グランバニアの学院で卒業式を終えてすぐに私達はサザンローナに向けて出発した。
ソフィアやリリアンヌには事前にセーラの正体は実は隣国の王女セリーヌだということを教えて(ソフィアは大層驚いていたがリリアンヌは至って冷静だった)卒業式の前日に私とアルバート殿下がサザンローナに半年間留学することを発表した際にセリーヌのことも一緒に発表した。
一応私達の留学はサザンローナと友好関係を築く為の留学ということになっている。
私達はサザンローナの王立学院の制服に身を包み、私は2年生、アルバート殿下は最高学年の4年生としてこれから半年間勉強することになっている。
問題のセリーヌのお兄さん達は3年生だ。私やセリーヌと1つ上だからね。
「サザンローナの学院は全寮制なの。…本当ならグランバニアの王太子殿下とその婚約者様を招待するわけだから全寮制でなければ王宮での滞在が正しい形なのだろうけど…」
「サザンローナでの寮生活も楽しみだから気にしないで?」
落ち込んでるセリーヌに声をかける。
「もし落ち着いたら王宮へ招待してね?セリーヌの王女様っぷりも見たいし」
私がそう冗談で言えばずっと落ち込んでいたセリーヌは「ふふふっ」と笑い出した。
その笑顔を見て私も内心一安心した。
普通の学生達は卒業式後の春休みを堪能してる頃、私達はその大部分をグランバニアからサザンローナの移動に費やしていた。
とは言え道中の旅は快適なもので、移動中の宿泊もその場所その場所を統治する領主に歓迎されてその土地その土地の有名なグルメを堪能させてもらった。
「このお肉は普通のお肉より甘味がありますね?餌が違うのですか?」
「おおお!シュレーゼン嬢!その通りでございます。」
「こちらのお野菜はほうれん草と何か別のお野菜と掛け合わせたものですか?」
「えぇ!フリシティ産のお野菜と交配させたものです」
「味付けがただ辛いだけでなく旨みもありとてもおいしいです」
「お褒めの言葉ありがとうございます!!」
自分の領地内や王都では食べたことがなかった料理に目を輝かせながら、色んな料理を堪能した。
時折食材や味付けに関して質問させてもらったりシェフから直々にお話を聞く機会を頂けたりした。
「サザンローナでの留学が終わったら共に色んな所の視察に行こう」
私が色々興味深げに見ていたことをアルバート殿下が見ていたらしくそう言ってくれた。
「…とは言ってもシアの一番の興味は食べ物に関してかな?」
「うっ……」
赤くなって俯いてる私を見てアルバート殿下やセリーヌ、ルーク様が笑っていた。
「あら…ようやく着いたわね」
馬車の中から関所のようなところが見えた。
「あの関所から向こう側がサザンローナよ。
王都までは更に1週間近くかかるけどね」
この関所の近くには小さな農村しかなく、私達が今夜泊まる宿はそこから更に進んだ場所にある。
関所を無事に通過した私達は少し休憩を取る為にその農村に立ち寄った。
ほんの少しの休憩ですぐに馬車に戻ろうとした。
その時、どこか見覚えのある青年が関所へ向かう馬車に乗り込もうとしていたのを目の端で捉えた。
「あ、あの!!」
「シア!?」
私はその人の元へ駆け出した。
アルバート殿下や私達の護衛の人もついて来てくれた。
私の声かけに気付いた青年が振り返って私達の方を見れば私達…というよりアルバート殿下の方を見て驚きの表情を見せてそしてすかさず頭を下げた。
「君は…」
アルバート殿下も青年に関して何かを思い出したような表情を浮かべた。
「頭をあげてくれ、君はグランバニア王国出身の者かな?」
「はい、まさかここで王太子殿下をお見かけするとは…私は殿下の言う様にグランバニア王国の者です。これから祖国に帰ろうかと思い、途中こちらの農村で休憩を取っておりました。」
ここの農村は関所も近いことから宿場町のような役目も担っているのかもしれない。
私達含め多くの人間がこの農村を休憩の場として利用してるようだった。
しかし、それよりも…
「あなたのご実家はもしや王都でパン屋さんを営んでいるのではないですか?」
私がハンバーガーのプレゼンをしたあの行きつけのパン屋。そこの部屋に飾られていた写真の息子さんと同じ顔の人物が今目の前にいるのだ。
「あなたは…うちをご存じなのですか?」
どうやら他人の空似ではないようだ。写真は数年前の物だったからか今の青年は写真で見るより大人になっていたから同じ人物かどうかは少し自信がなかったけども。
「えぇ…あなたの親御さんのお店のパンをよくご馳走になっていました。あなたのこともお母様から聞きました。たしかサザンローナで料理人の修行をなさっていると」
「…たしかに俺はサザンローナで料理人をやっておりました、が、辞めて実家に帰ろうとしておりました。」
…どうやらサザンローナで料理人としてやり切ったから家に帰る、というわけではなさそうだ。
「……あまり大きな声では言えませんが…」
声のトーンを少し抑えて私やアルバート殿下にしか聞こえない位の音量で囁いた。
「王宮の料理人が相次いで辞めた為、俺が師の代わりに急遽料理人として抜擢されて働いておりました。…しかし第一王子が新たな婚約者を迎えられてから、より状況が悪化し…王宮は第一王子を恐れて辞めていく方が後を絶ちません。それは料理人に限らず…です。」
…どうやらサザンローナでは私達が思ってるよりずっと深刻な状況になっているようだ。
故郷へ帰る青年を見送り、私達はサザンローナの現状に頭を抱えながら馬車へ戻った。




