王妃のお茶会
蓋を開けてみれば既に外堀は埋められた後だったなんて…。
私は呆然としながらアルバート殿下を見つめていた。
「も、もし私が王太子妃になる資質が無かった場合どうするつもりだったんですか…」
「いや?そこは是が非でもシアの底上げをするつもりだったよ?俺は女性としてもパートナーとしてもシア以外考えられなかったからね。」
ここまで言い切られると逆に気持ちが良いな…。普通どもったりするところじゃない?
「アル…?それにルシアさんも?」
私がアルバート殿下にげっそりしていた時透き通った穏やかな声が聞こえてきた。
藍色のドレスに身を包んだ美しい女性がこちらの方へやってきた。
プラチナブロンドの髪の毛をサイドに流し頭上には金色のティアラが輝いている。
瑞々しい美しさで私やアルバート殿下のお姉さんと名乗っても年齢的にも全然通じそうなこの上品な女性はこの国の女性のトップ、エリーシャ王妃殿下でアルバート殿下やエドワード殿下のお母様だ。
「ふふっここで2人がお茶会をしているということは婚約は恙なく完了したのね?」
宝石のようなブルーの目を嬉しそうに細めてふんわり微笑む。
その優し気な雰囲気に先ほどのげっそり感が抜け……ない!!再び新たな緊張が!!
「ルシアさん、顔をあげてちょうだい?」
「はい、お初にお目にかかります。ルシア・シュレーゼンと申します」
王妃様自身は優しいお方なのだろうが、この国でトップの女性であることには変わりない。
国王陛下とはまた別の緊張が走った。
「そんなに固くならないで?…アル、私はルシアさんと女性同士のお喋りを楽しみたいわ?」
「…晴れて婚約者となったばかりの若者の邪魔をなさるのですか?」
暗にアルバート殿下に席を外せと言う王妃様に対し、不満たらたらのアルバート殿下。
今日はもう疲れたのでお部屋で休むって…できませんよねー、はい…などと馬鹿みたいな現実逃避をしている私。…一体どうなるんだ。
「あら、アルは良いじゃない。学院でも一緒過ごす機会はあるのだし!私は初めてルシアさんとお会いしたのよ?少しで良いからお話したいじゃない!」
さすがのアルバート殿下も母親には頭が上がらないのだろう。「後で迎えにくるからね」その言葉を聞きながら王妃様のお部屋に移動する。
王妃様の部屋の1つに通された。
ここは王妃様の友人等親しい方と一緒にお茶する部屋だそうだ。…そんな所に私を通して良いのだろうか?
私に「おかけになって?」と着席を促す王妃様に言われるがまま着席し、その横でメイド達がお茶の準備している。
「今日は私が大好きなお茶の1つが手に入ったの。ルシアさんに是非飲んでいただきたくて」
綺麗な笑顔で王妃様が仰った。
お言葉に甘えて一口頂く。
「……!」
これは…!
目を見開いた私を見て王妃様はふふっと微笑んだ。
「気が付いたかしら?」
「…フリシティ産のローズティーですね」
「流石はシュレーゼン家のお嬢さんね?お茶を飲んだだけで産地まで分かるなんて」
「いえいえ、私も有名どころしか存じません。」
「最近ようやくフリシティの品が出回るようになったの。それもこれもシュレーゼン家のおかげですね」
「ありがたきお言葉でございます」
私がお辞儀すれば王妃様は不満そうな表情でこちらを見ている。何故。
「ルシアさん、あなたは将来私の娘になるのよ?そんなに固くならないで?…そうだ!私もシアちゃんって呼ぶわね!それならあなたも気負わずにいれるでしょう?」
まるで名案!とでもいう様に花が咲いたような笑みを浮かべる王妃様。その後驚きの話を聞かされる。
「実は既に私も陛下も『シアちゃん』って呼んでるのですけどね?私達娘がいないからシアちゃんが王宮に住むことをとても楽しみにしていたの」
「えええ!?」
まさか陛下にまでシアちゃんと呼ばれてるなんて…誰が想像するだろう。
「ハンバーガーもとても美味しかったわ」
「え…まさか…」
「えぇ、もちろん陛下と一緒に頂いたの。陛下もハンバーガーを開発したシアちゃんを褒めてらっしゃったわ」
「ひええ…恐れ多いです」
「もう!まだ固いわ!!」
王妃様は第一印象は儚げでとても穏やかなイメージだったが、今や茶目っ気たっぷりな可愛い一面もある方というのが分かった。
その後世間話に花を咲かせていたが、ふと王妃様が最初に会った時の様な慈しむような笑みを浮かべた。
「シアちゃん、次期王妃として色々悩むこともこれからたくさんあると思う。それはアルや陛下も踏み入れることが出来ない様な悩みも中にはあるかもしれないわ。その時は私を頼りなさい?私はあなたの母になるのだから」
私の手を握りとても優しい声色で言ってくれた。
「…あの質問よろしいですか?」
「何かしら?」
「私に何故そこまで良くしてくれるのですか?私と王妃様は今日初めてお会いしたのに、もしかしたら私は王妃様の期待に添えられる人物であるかも分からないのに…」
思わず視線を下に向けてしまった。
「…こらっ王妃教育の一環で例え自分にとって苦しい状況であろうとも下を向かず胸を張り前を向きなさい、と習ったでしょう?初歩も初歩よ!顔をあげなさい」
言葉で聞く限りは注意してるような雰囲気を感じそうだが声色は先ほどと変わらず優し気で。だから本気で怒ってる訳ではないということが分かった。
現に顔をあげると王妃様は先ほどと変わらず優しい笑みで私を見つめている。
「そうね、アルの選んだ子だから信じてるのよ…と言いたいところだけど、ただのお嫁さん選定ならそれでも良いけど王太子妃そして王妃となる子だから、それだけじゃだめだということはシアちゃんも分かってるわよね?だからその質問なのだろうけど…」
王妃様の問いに私は頷く。
「もちろん私は私独自のやり方であなたを知ることができたの。その結果あなたには王族の責務を全うできると判断したの。」
王妃様は笑顔のまま本日何度目かの驚きの事実を投下した。
「あなた付きのメイドにしたフィナはね、元々私付きのメイドだったのよ。フィナから王宮へ来てからのあなたの普段のお話をたまに聞いてたのよ。フィナはああ見えて人の見る目はある子だから、そんなあの子が楽しそうにシアちゃんの話をしていて、シアちゃんは信頼できる子だって確証を得たのよ。」
フィナが王妃様付きのメイドだったことにも驚いたけど知らない間に認められていたことにもびっくりした。




