用意周到な我が息子(国王陛下視点)
完璧な淑女の笑みを浮かべていたルシア嬢だが次期王太子妃なのだとこの婚約で実感すればいくら余裕そうな彼女でも心労は計り知れないものだろう…そう思いアルバートとお茶をすることを勧めて2人が退出することを許可した。
目の前には私の息子の婚約者となったルシア嬢の父親、シュレーゼン伯爵が座っている。
「いや、シュレーゼン『侯爵』か」
「ははっありがたき幸せ」
そう言いシュレーゼン侯爵は私にお辞儀した。
この婚約の儀を行う少し前、シュレーゼン伯爵を早めに王宮へ呼び出していた。
「この度飢饉に見舞われたフリシティへの援助等…功績を認めシュレーゼン伯爵においては『侯爵』に陞爵する!」
私は新たな侯爵、シュレーゼン侯爵に賞状を授与した。
その時のことを思い出したのだろう。
「しかし…王太子殿下におかれましては素晴らしい手腕でございました。私どもの領地にお越しになられた際、我が領地が農業や畜産で豊かになったことを着目し今飢饉に見舞われているフリシティの援助を求めてこられた。」
シュレーゼン侯爵は遠くを見るような目でアルバートがシュレーゼン領へ視察に行った時のことを思い出していたようだった。
「ははっまさかそれもルシア嬢を『婚約者』へ据え置く為の布石とはな…我が息子ながら恐れ入った」
元々アルバートの婚約者候補はきな臭い貴族の娘をあてがっていた。
だからその内真の婚約者を内定させねばならなかったわけだが、以前そのことにつきアルバートと話していたら「私に考えがございますので、お任せいただけないでしょうか?その代わり報告義務は怠りません」と申していたので一先ずそっとしていた。
だがいくら一存してるとは言え息子が万が一間違いを犯していた時、対処に遅れると良くはないと思い何気に影を使っていた。
その時アルバートと仲良くしていたのがルシア嬢だったわけだが、彼女は素行も悪くなく学院での成績も優秀と聞く。だがしかし『魔力無し』であることに少し不安を覚えていた。
アルバート自身もそこを他貴族につつかれて婚約者の弱点とするのを恐れたのだろう。
そこで彼が考えたのは実家であるシュレーゼン家の爵位を上げることだった。今の爵位でも全然王家に嫁いでも問題ない爵位ではあるが、後顧の憂いを極力減らす為にそこから動き出した。
ちょうどアルバートの側近候補のクリスがフリシティから帰ってきたこととフリシティの現状を報告すると共にアルバートが私に言ってきた。
「現在サザンローナが何やら胡散臭い状況になっているようです。そこでフリシティとの関係をより強化するため現在飢饉に見舞われているフリシティを援助したいと考えております。私がシュレーゼン領へ視察へ行きその為の足掛かりを作りたいと考えております。」
ちょうど私もフリシティの援助について考えていた為、二つ返事で了承した。
この外交はお前に任せるとアルバートに言えば「ははっ」と返事をし程なく視察へ出発した。
だがしかし国に貢献するだけでは簡単に陞爵できるわけではない。
侯爵位レベルになればある程度の財が無ければ厳しいものだった。
それは意外な人物が解消してくれることになる。
かの令嬢ルシア嬢がその頃シュレーゼン領の名物を開発したらしくそれを王都でも売り込みたちまちそれが成功したようだった。
庶民向けの食べ物らしいが、忙しい貴族も簡単に食事ができるようにと工夫を凝らした物らしい。
それにとても興味があった私はそのハンバーガーなるものの調達を頼み、王妃エリーシャと2人でご馳走になった。
エリーシャも「これはとても美味しいですわ」と絶賛していた。私達はぺろりとそれを平らげた。
そうして本人としては無自覚だろうが自分の家の陞爵の一役を買っていた。
そしてルシア嬢自身が更に無自覚に自分の立場を確立していくことになった。
学院の合宿の際ジュピター公爵家の令嬢が禁忌を犯し魔獣を呼び出すという惨事に見舞われていた。
ジュピター家は前から黒い噂があり、そろそろ仕掛けてきそうだとは思っていたがまさか魔獣を召喚するとは思わなかった。
念のため騎士や魔導師を派遣して良かった…学院は王国の未来を創る若者が集う場所。この様な場所で大惨事を引き起こしてはならない。
だがその魔獣を討伐したのはアルバートとルシア嬢だったという。
あれ?ルシア嬢と言えば魔力無しのご令嬢であったはずだが?そう報告してきた者に問えば、この戦いで魔力が覚醒し髪の色や目の色も変わってしまったとのこと。
私も学院に赴き例の令嬢と対面すれば確かに前は濃いめの茶色い髪と目の令嬢であったと記憶してたが、今や淡い金色の髪がまっすぐに伸び、右目が青、左目が緑といったオッドアイになっていた。
ここに共にいるだけでも魔力の強さが伺える。
聖なる力も有しているようでこれは聖女に認定…いや大聖女に認定だろうか、と考えながら王宮へ戻って行った。
その時アルバート殿下が私に進言した。
「彼女が大聖女であると認定していただけそうなら王宮で生活させるお許しは頂けないでしょうか?」
「ほう…?」
「私は彼女を私の婚約者にしたく王宮にて聖女教育と王太子妃及び王妃教育をさせていただきたく思います。しかしお恥ずかしながら彼女にはまだプロポーズすらしてない状況なので、あくまで大聖女として王宮で聖女教育を受けること、王宮で要人を迎えたり王宮で暮らす上で聖女教育プラスアルファの教育を受けてもらう体で彼女を王宮へ迎えたいと思います。」
今やルシア嬢の価値は令嬢方の群を抜いているということがアルバートも分かっていて、私がルシア嬢を婚約者に置くことを反対しないと確固たる自信があったのだろう。
もちろん私が反対する要素は何もない。
「しかし、聖女教育と王妃教育…どちらも生半可なものではないぞ?そんな無理強いをして彼女は大丈夫なのか?」
「私はシアを…ルシア嬢を信じております。父上や母上、周りの人間に次期王妃に相応しいと認めていただくために私も全力でサポートしたいと考えております。」
そこまで言うなら私も全力で応援しよう、そう思い王妃の方を向けば王妃もにこやかに頷いて見せた。
しかし我が息子よ…これほどまでに用意周到とはとても恐ろしいものよ…。
そんな息子に目を付けられたルシア嬢が少し可哀想に思えたのはここだけの話。




