悪女の誤算と絶体絶命
「さぁ待たせましたわね、ケルベロス。彼らを殺してちょうだい?」
「おい、殺す対象はまさかアルバート殿下も含まれてるんじゃないだろうな!?」
ロイド様が怒りの形相でロゼリア様を睨みつける。
「もちろんアルバート殿下も含まれておりますわ?ここまで知られていくら私に相応しい殿方と言えど生かしておくわけにはいきませんもの」
あくまで上から目線でロゼリア様が答える。王族相手に上から目線というのもすごい話だな…とこんな絶体絶命にも関わらず呑気に感心してしまった。
「…ケルベロス?一体何やってるの?」
しかし指示を出しても一向に動かないケルベロスに眉を顰めてケルベロスの方へ向けばケルベロスはロゼリア様の方へ体を向けている。
上体をのばし尻をあげて構えている。
…あまり良い予感がしない…
「ロゼリア様!逃げてください!」
私は思わずロゼリア様に声をかけた。
「あら?私を心配してくだってるのかしら?私の心配より自分の心配をした方がよろしいんじゃなくて?」
いやいやいや、本当にやばいって。
そう言ってるうちにケルベロスは後ろに引いていた体を勢い良く前に押し出し口から紫と黒が入り混じった魔法の玉を思いきり吐き出した。
「…邪闇の魔弾!!」
大きな邪の力を纏った魔法の玉…邪闇の魔弾がロゼリア様の体に思いきり当たった。
「きゃあああああ」
ロゼリア様の体が3,4メートル吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「…魔力がロゼリア嬢よりケルベロスの方が遥かにすごいからロゼリア嬢の手に負えない状態ですね…しかし凄まじい邪の力だ…」
クリス様が額に汗を流し冷静に分析する。
「…ねぇ、あの魔獣こちらに向き直ってないかしら?」
顔色を悪くしたイザベラ様が小声でケルベロスの様子を周囲に聞いた。
「…確かに…標的をこちらに変えたのか」
ロイド様も同じくらい顔色を悪くして前方にいるケルベロスを睨む。手は腰に携えてる剣に添えられていた。最悪戦闘も辞さないといったところだろうが…ロイド様が相手でもかなり苦しい戦いだろう。いや、ここのメンバー総出で戦うことになったとしても無謀な戦いだと思う…私はそもそも魔力無しだから戦力外もいいところだし。
ケルベロスが先ほど同様腰を低くしこちらに臨戦態勢になっている。
「皆さん!私の周りに来てください!結界を張ります!!」
ソフィアが毅然とした面持ちで周りを促した。
ソフィアが結界を張った直後ケルベロスは先ほどの闇の玉をぶつけてきた。結界が闇の玉をはじく。
途端にソフィアがハァハァ息をしながらしゃがみこんでしまった。
「ソフィア!?だいじょうぶ!?」
私はソフィアと同じ目線になるようにしゃがんでソフィアの顔色を窺った。
「…っ私はなんとか…しかしケルベロスの魔力は膨大です…今は防ぐことができましたが、私の結界もそう長くもちません…」
ソフィアの言葉にみんなが絶句した。ソフィアの結界だけでは何も解決しないのは分かる。だがその解決策が思いつかない…。
ここにいる人間は皆優秀でずっとこのケルベロスを見てから打開案がないか模索していた、が、流石に地獄の番犬相手では絶望的過ぎた。
そのケルベロスが今度は3つの頭をそれぞれ別々の方向へ向けて何かしようとしていた。
どう考えても良い予感はしないが。
その頭の1つは私達の方、もう1つはなんとロゼリア様の方へ向いてるではないか。
「ロゼリア様が危ない!!」
私は思わず叫んだ。
「…この距離ではロゼリア嬢を助け出すことは難しいでしょう…諦めるしか…」
いくら禁忌を犯してるとはいえ、自分の目の前で死なれてしまっては寝覚めが悪い。
助けたいことはやまやまだがどう考えても、気絶してるロゼリア嬢からここまでは距離が離れすぎててとても救出するには間に合わなかった。
「……ひとつ策があります」
私の一言はとても小さなものだったが、みんなそれを聞き取り私に注目した。
「シア?どうしたんだい?」
アルバート殿下が立ち上がった私に近づき聞いてきた。
私はソフィアに向き直り、
「ソフィア、あなたが今持ってる聖なる力で私に守備魔法をかけてくれないかしら?」
「はぁ!?あなたご自分だけ助かろうっていうの!?」
イザベラは信じられないような目つきで私を睨んだ。
「いいえ、私がロゼリア様を助けに行きます」
「だ、だめだ!!いくらソフィアの守護魔法をかけてもらったとしてもそれは危険すぎる!!今シアだって見ただろう?ケルベロスの攻撃1つでソフィアの結界は精一杯だったんだぞ!!!」
アルバート殿下が猛反対する。
「それなら俺が代わりに行く、俺は王家の加護を持っているんだ。少しくらいなら耐えてみせよう。」
アルバート殿下は私の背中に手を回し抱きしめてきた。……え?
「シア、俺はシアを愛してるんだ…。だからシアを死なせたくない。頼むから自分を犠牲にするやり方はしないでくれ」
ぎゅっと力強く抱きしめ私を逃すまいとしていた。ってか、え?
何が起こったのかとふと周りを見ればロイド様とクリス様はこんな時に何やってんだって顔をしてるし、ソフィアは目をきらきらさせてこちらを見ているし、イザベラ様は呆然と立ち尽くしていた。
…色々と混乱しているがひとまず今やるべきことがある。
「いえ、その役は私がやります、代わりに皆さんにもやって頂きたいことがあります。ソフィアの魔力で私に守備魔法をかけてもらうので、皆さんはソフィアに魔力を注いでください。これは私にはできないことなんで…」
そう…魔力無しの私にはできないことだ。少し悲しく残念でもあるが嘆いていても仕方ない。
これが一番の最善策だと思っている。
「アルバート殿下、放してください。時間がありません。」
切羽詰まったように言えば悲しそうなアルバート殿下に覗き込まれる。
「…死ぬのは絶対許さないからな、これは王家命令だ。」
「…はい、お願いソフィア、私に守護魔法かけて?」
ソフィアは悲しそうにありったけの力を込めて私にかけた。
そしてすぐにロイド様やクリス様、イザベラ様がソフィアに魔力を注いだ。
「俺はソフィアの結界に更にコーティングする。魔力も任せろ…だから」
アルバート殿下が私の方に悲しそうな目を向ける。ロイド様やクリス様も。
「ルシア様!?アルバート殿下を悲しませたら許さなくってよ!!!」
イザベラ様は何か耐える様に私を睨む。
「ルシア様…ご無事で!!」
ソフィアは目に涙をためて祈りをこめるように声を発した。
「わかった!いってきます!!」
私はロゼリア様の方へ向かって走り出した。




