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アイリーン・マーキュリー

「ルシア様、ルシア様をお呼びの方が…」

昼休みに入って間もなくしてクラスメイトのご令嬢が少しおどおどしながら私に声をかけてきた。


そんな彼女の様子に首を傾げながら私は教室の入り口に向かった。そこで私は何故クラスメイトがおどおどしていたのかその理由が分かった。


「マーキュリー様…」

教室の出入り口で待っていたのは2つ上の学年の先輩で、元王太子殿下の婚約者候補で最近話題の渦中にあったアイリーン・マーキュリー侯爵令嬢だった。


「今日ご一緒にランチはいかがかしら?」

ミルクティーブラウンの柔らかそうな髪をリボンでハーフアップにし愛らしい笑顔で私をランチに誘ってきた。

彼女とはこれが初めての邂逅だった。




紅茶を飲みながらちらっと彼女の様子を窺った。

マーキュリー嬢と目が合えばにこりと愛らしい笑みを浮かべる。

…うん、こりゃ男性受け良いわ。


「いきなりごめんなさいね?ルシア様にちょっとお聞きしたいことがあって…」

眉を下げながら申し訳なさそうに謝るマーキュリー嬢。

「ルシア様ってアルバート殿下と仲がよろしいのですか?」

いきなりのそんな質問に一瞬ポカンとするが、思い当たることが最近多すぎてそう思われても仕方ないな…と自分の軽率な行動に内心頭を抱えた。


いくら元婚約者候補とは言え自分の婚約者となったかもしれない人と仲の良いご令嬢がいたとなれば気にはなるだろう。


「そうですね…最近領地の事等で助けていただいて感謝しております。」

当たり障りない解答をしたのだが、彼女はやや不満そうに頬を膨らませている。


「えぇ…最近アルバート殿下がシュレーゼン領へ視察に行ったことは風の噂で聞きました。ですが普段から仲良くされてる印象を受けまして…。私達が婚約者候補から外されたことはお聞きになったことはありますでしょ?その後アルバート殿下の婚約者選びに動きが無いように思われるのです。そこにきてからの貴女の存在があるので貴女が婚約者に内定されるのかしらって私思いまして」


頬に手を当てながら考える素振りを見せるマーキュリー嬢。


なるほど…彼女は自分達の後釜が誰になったのか、もしくは誰になるのかが気になったのね。



「そうなのですね…私はアルバート殿下とは親しくさせて頂いてますが婚約者のお話は聞いたことありませんね?」

私は何も分からないということを全面に出してアピールしてみた。


マーキュリー嬢はそれでなくてもソフィアに毒を仕込んだ犯人に限りなく黒に近いグレーで、今や私の中でイザベラ様よりも危険人物に認定されている。



「…ならソフィアさんを婚約者にってお話は出ているかどうかは知ってます?」

今度は攻める方向を変えたようだ。ソフィアの話に持ってきた。

やはりアイリーン嬢もソフィアがアルバート殿下の婚約者にあがっていると信じている1人なのだろうか。

…それでソフィアに毒を…?


「いえ、ソフィアの話も聞いたことありませんね」


「そういえばあなた方はお友達でしたわね?…庇われているのであれば、あなたの為になりませんことよ?」


「いえ、庇うも何も本当に知らないんです…私は殿下とは名産品の話をしておりました。我が領地シュレーゼン領で売り込む物を模索していたのです」


ここでふと逆にこちらから攻めてみるのもありか…?と思いたった。


「マーキュリー様のご領地では確かアロマ等が有名でしたよね?私ちょうど名産品を開発して売り出そうとしてるんですの。何かアドバイスのようなものを頂けたら嬉しいです。」


「えっ」


まさか名産品の話になると思っていなかったからか、マーキュリー嬢は目を見開いた。

さて…どこまで攻めようかね…


「アロマだけでなくお香も有名でとても信仰深いご領地だと聞いたことがありますわ?そして多くの神官等優秀な人材を輩出してきたご領地であるとも伺っております。ソフィアの話でしたら寧ろマーキュリー様の方が詳しいのではないのですか?」


にこやかに無害そうに聞いてみた。

「ふふっ私の領地のこともご存じなんてとても光栄ですわ。確かにルシア様のおっしゃる通り我が領地は数多くの神官を輩出するくらい信仰深くもあります…しかし王宮の聖堂のことは私自身詳しくありませんの。」


マーキュリー様も笑顔を崩さず私を見つめる。そしておもむろに口を開いた。

「ルシア様…今から言うことはルシア様を思って言うことです…どうか気分を悪くなさらないで?

婚約者の件については分かりました…しかしこれからアルバート殿下の婚約者の座が空席になったことで色々騒がしくなるかと思います…どうかその時は賢明なご判断をなさることをおすすめしますわ?」

マーキュリー嬢は笑顔を絶やさず言っているのだが、明らかに目は笑っていなくて、これは脅しであると私にも分かった。


「なるほど…マーキュリー様のおっしゃりたいことはよくわかりました。」


「ふふっ物分かりがいい方って好きですわ。よろしいこと?王太子妃ともなればなれる人間は限られてくるもの…きちんと相応しい方がなるべきだと思いますわ」


扇子をパチンと閉じ堂々と言い切った。


私はこのランチである違和感を覚えた。


アイリーン・マーキュリー嬢。彼女は愛らしく守ってあげたくなるような庇護欲をそそられる令嬢だ。

この前イザベラと対峙した時もあざとさが全面に出ていた印象だ。


…しかし、あの彼女がここまで貴族特融の腹の探り合いをするほど賢くなさそうに見えた。



一体どちらが本当の彼女なのだろうか…。

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