名産品の完成
シュレーゼン領に帰ってきて3日目、シュレーゼン伯爵家のキッチンに私とお父様とお母様、そしてシェフとアンが集まっていた。
お母様と一緒に馬車に揺られ帰ってきた時、予めお母様の手紙で私の帰還を知っていたお父様は大いに喜んだ。
お母様からも私の今回の帰還の目的は聞かされていたと思うけど、改めて具体的に話をしようと王都のパン屋の一件も含めてお父様に話していた。
「なるほど…それで必ずそのシアが考案したパンは売れるのか?」
「えぇ…売れる自信があります」
お父様もここからの話は領主の顔をして私と対面した。
王都のパン屋さんにしろ、名産品の開発にしろ失敗は避けたい。
「……なんてな?シアにとって初めての挑戦だ。万が一失敗した時はお父様が責任を持つから、お前は好きなようにやりなさい」
最後まで厳しい顔を見せるかと思いきや最後には穏やかないつもの父の顔をしていた。その言葉に甘えることなく私の全力を尽くそうと心に誓った。
そしてキッチンで私の試作品を完成させた訳だが、私以外の人はみんな困惑していた。
「これは…一体どうやって食べるんだ?」
パンにはハンバーグとレタス、トマトが挟んである。私が作ったのはハンバーガーだった。
覚えているだろうか?かなり前に私がハンバーガーを食べたいと言ったことを。
あの時自分の中でも一旦は終わった話であったが、王都のパン屋の話が出た時に瞬時にハンバーガーのことを思い出していた。ハンバーガーを諦めきれなかった。
と言っても難しいことは何もやっていない。
地元のパン屋さんで取り扱っている丸いパンを横に切れ目を入れて作ったハンバーグと輪切りにしたトマト、ちぎったレタスを入れてケチャップを入れて完成。
「これは紙に包んでかぶりつくんです」
「そ、それはあんまり品がよくないんじゃない?」
お母様が引きつった笑みを浮かべた。
「確かに品の良さで言えばあまりよろしくはないのですが、こういう手軽さは平民受けは良いと思います。あとこういったパンを食べるメリットは仕事で忙しい方がパパっと食べれるので案外売り込み方を工夫すれば上流階級の方にも食べていただけると思います。」
ファストフードの強みは何と言っても手軽さ。
忙しい時の食事というのはどうしても限られてくる。それはどの世界でも同じなのではないだろうか?
ましてや貴族で階級が上に行けば行くほど食事をするときはきちんとナイフとフォークを使わねばならない様な食事だと思う。
忙しい時にそんな優雅に食事なんてしてる暇はない、と食事を抜く人も少なくないはず。
そう思って平民はもちろんもしかしたら貴族も愛用するのではないだろうか?とほんの少し期待をしている。
後は前前世のテレビなるもので見たような気がするのだが、ハンバーガーや唐揚げ屋といったお店が一時期ブームになっていたそうだ。
もちろんその食べ物自体が愛されてるのもあるだろうが、出店する上で設備等の経費を抑えられるといった点で店側にもメリットがあるらしい。
それに何より我がシュレーゼン領は農業や畜産が盛んで、どの農作物も畜産物もとても美味しい。
そんな素敵な素材が身近にあるのに使わない手はない。
「あと皆さんにもう一つ見ていただきたいものがありまして…」
そう言いながら私はハンバーガーの隣にもう一品置いた。
「これはパンではないですね?一体なんですか?」
アンが首を傾げる。
「ふふふっこれはですね、じゃがいもを油で揚げて軽く塩をまぶした『フライドポテト』というものです。」
以前私がじゃがいもの栽培をシュレーゼン領で力を入れようとしていた。
まだこのフライドポテトに使われたじゃがいもは輸入品なのだが、シュレーゼン領でじゃがいもの栽培が確立し安定したらこのフライドポテトもシュレーゼン領産のじゃがいもを使ったフライドポテトで作って販売できたら良いなと考えている。
これでこの世界でもファストフード店が出せるんじゃなかろうか?そう思うととてもワクワクしていた。
私の満面の笑みで一同はドキドキしながらハンバーガーを手に持ちかぶりついた。
「………美味しい…」
お父様がぼそっと呟いたのをお母様も頷きながら目を見開いていた。
まさか平民向けのこのパンがこれほど美味しいと思わなかったと言う様な反応だった。
その後フライドポテトもみんな美味しいと食べてくれて気付けば全員どちらも完食した。
「…お父様、いかがでしたか?」
手応えはあったがちゃんとした許可は下りていない。私はドキドキしながらお父様にお伺いを立てた。
「良い…シアの案を許可する」
お父様の許可が正式に下りたことで私は大いに喜んで思わずお母様に抱き着いた。
アンとシェフはその光景を嬉しそうに見ている。
その時ふとお父様が思い出した様に私の方へ向き直った。
「あ!!しまった!シア!明日王太子殿下が我が家へ来るらしい!すまん、言うのを忘れた!」
明日というのは驚いたがシュレーゼン領に訪問したいと何回か聞いたことがあったのでそこまでの驚きではなかった。…しかし、明日か…。




