休息と閃きと
「んっ…」
カーテンの隙間から差し込む日差しに目を覚ました。
今日は学院も休みでお母様も王都にいる友人のお茶会に呼ばれたとのことで1人ゆっくり遅めの起床だ。
王宮に吹っ飛んで行ったあの日はその後はちょっと話し合いをしてそれから世間話をして帰宅したような感じだ。
アルバート殿下から最後まで手を握られていたのは正直意味が分からなかったが、あのイケメンでも女子にずっと触れていたくなるほどの欲求不満なのだろうか?と不敬にもそんなことを考えていた。
イケメンってリアルも充実してるしそこまで欲求不満になることもなさそうだけど…という私の勝手な偏見だが。
そういえばアルバート殿下の婚約者候補の話の流れで私の婚約者の話になった。
「婚約者候補と言えばルシア嬢は婚約者は決まってなかったか?」
「えぇ…父も母もその点に関しては特に何も言ってないのでまだ決まってませんね」
「ほう…ちなみにルシア嬢はどんな男性を婚約者としたいんだい?」
「んーーそうですね、優しく誠実な方が好ましいですね」
…となんとも当たり障りのない返答をした。いや特に好みの男性とか理想の男性とか考えたことなかったしね。と言うか魔力無しの私を娶ってくれる人はいるのだろうか?
まぁ今世でも結婚願望は皆無と言って良いほど無いので痛くもかゆくもないが。
私はアンと共に久々に街に来ていた。
最近色々忙しかったから、中々来ることが出来なかったなぁと前によく行ってた公園のベンチの所に来ていた。
久々にアルにも会いたいけど全く来てなかったからここには来ないかな…と少しの寂しさを感じて。
「…シア?」
アンと一緒にベンチで日向ぼっこしていたらどこからか私の愛称を呼ぶ声が聞こえた。
声の方へ視線を向けると、相変わらずのくたびれたブラウスに少し裾の短いズボンを穿いたアルが目を見開いてこちらを見ていた。
「アルーーー!!」
感動の再会だ!と思わずアルを思いきり抱き締めると「何すんだよ!!」と顔を赤くして怒り出した。
ピョンピョン跳ねたクセッ毛の茶色い頭に被せた帽子を被りなおしながら私を睨む。
「ごめんごめん、久々に会えて嬉しくてつい…」
「ほんとに貴族の令嬢か?……他の男に同じこと言うなよ?」
後半はぼそっと呟いた程度だったが私の耳に辛うじて届いてた。
「生意気!!!」
「いてててて」
頭を力強く撫でたら痛がっていたアルを見て満足した私はようやくアルを解放した。
「…まったく…シアがいない間大変なことがあったんだぞ!!」
「えっ?」
何があったのか尋ねたらアルは急に暗い顔をして話し出した。
「前に紹介したパン屋あるだろ?あそこもうじき潰れるんだって…」
「な、なんで!?」
「美味しいパンなんだけどさ、種類が少ないからか飽きられてきちゃったらしくてな…売上的に経営するのが難しいらしい」
そう言って再び俯くアル。
「ふむ…なるほど…少し時間の猶予はあるのかな?」
「あーー…すぐすぐ閉める訳じゃないみたいだからあると思うよ?」
「よし、今日はそこのパン屋さんに行こう」
私はそうと決まれば急げと言わんばかりに速足でパン屋の方へ歩き出した。
アルとアンは慌てて私の後を追いかける。
「え?なんでまたパン屋にいくの?まさか買い占めて売り上げを伸ばそうとしてるの!?」
アルは私になんとか追いつき、隣で驚きの声をあげている。
「まさか!私が買い占めただけじゃその場しのぎにはなるだろうけど、ただ延命措置を施しただけに過ぎないでしょ?解決策にはなってないわ。私はただ純粋にあそこのパンが気に入ってて食べたくなっただけよ?」
そう話してるうちにパン屋へたどり着いた。
「いらっしゃいませー」
パン屋に入ると店員の女性が笑顔で対応する。このパン屋は夫婦で営んでいてこの女性の旦那さんがパンを作る職人さんだ。
「奥さん、お店をやめちゃうって本当ですか?」
「あら、シアちゃんいらっしゃい。そうなのよ…恥ずかしい話売り上げも中々下がっててね…新しいお店もどんどん出てきたし、うちもここら辺が潮時かなぁって」
「そうなんですね…ここのパン好きだったので残念です…」
「ありがとう、そう言ってもらえるとうちの人も喜ぶよ。まぁまだしばらくはお店やってるから、よろしくね?」
嬉しそうにしかしどこか悲しそうに奥さんは微笑んだ。
「もちろんです!あのもしパンに関してアイデアがあってそれでお店を立て直せるかし知れないとしたらやってみたいですか?」
その言葉に奥さんだけでなくアルも驚いてる。
「…ということは何かアイデアがあると?」
「えぇ…一応は…ただそのアイデアの権利はこちらが主張したいと思っておりまして…」
「権利…ねぇシアちゃん、あなたは一体何者なの?」
んーーー…こういう話になった以上私の話もしないとだめか…。
「私はシュレーゼン伯爵が長女ルシア・シュレーゼンと申します。…貴族の娘であることを隠しててごめんなさい。
私は今、シュレーゼン領の名産品を開発したいと考えてまして、そこでちょうどとあるパンを開発しようと思ったんです。」
私はにっこり微笑んで奥さんに話し始めた。




