とある少年との出会い
ソフィア救出から数日が経った。
ソフィアは「またルシア様に助けられました!」と頬を染めて喜んでセーラにも事の一部始終を教えていた。
セーラは「私がいない間にそんな大変なことがあったなんて…何かあったら言いなさいよね!」と心配していた。
私自身イザベラ様からの仕返しに内心ヒヤヒヤしていたが、あれから見ていない。
「…と言ってもまだあの日から数日しか経ってないから、油断はできないけどね」
昼休みいつもの3人で昼食を取っているとセーラは眉間に皺を寄せながら言葉を発した。
「そうですね…イザベラ様のことですからまた何かあるかもしれませんし…」
ソフィアも不安そうだった。
あの後ソフィアから聞いたのだが、イザベラ様からの呼び出しは今までも2,3回くらいあったそうだ。
私達に心配かけさせたくなくて言えなかったらしく、まさかこんなに早く私にバレるとは思わなかったらしい。
「ソフィア、これからは何かあったら言うのよ?何も言われないことの方が心配するわ」
私はフォークを置いてソフィアの方を向いた。
「ごめんなさい、これからはなるべく言うようにします」
ソフィアが頷いたのを確認して、私達は再び食事を再開した。
学院が休みの日、私は久しぶりにメイドのアンと街にやってきた。
今日は薄いピンクのワンピースを着て髪を三つ編みにして町娘風な装いで買い物にやってきた。
アンもメイドの装いではなく私のお姉さんみたいなポジションで私についてきた。
今日行くところは本屋だが小腹がすいたらその辺のお店で買い食いする予定だ。
「お嬢様ったら…」というアンの小さな小言は敢えて聞かなかったことにして、街の散策はソフィアと初めて会った時以来なのでとても楽しみにしていた。
お目当ての本を買い、店から出ようとした瞬間ーーー
ドンッ
「わっ」と声をあげながら、誰かが私にぶつかり尻もちをついた。
「お嬢様!?」
アンはいきなりのことで動揺して思わず私の事をお嬢様と呼んでこちらにかけてきた。
ちょっと!貴族ってバレちゃう!
左下の方を見るとぶつかってきたのは10歳くらいの男の子のようだ。
無造作にはねらせた茶色い髪が帽子の隙間から覗かせ、薄い黄色のブラウスに裾を折ったズボンを穿いていた。
少し汚れたスニーカーは少年の活発さを物語っている。
少年はいてて…と言いながら私の方を向くと目を見開き「あっ…あっ…」と何やら驚いている。
最初は私の腰の辺りを見て驚き、その次に私の顔を見て驚いたようだ。
そういえば腰の辺りが何やら冷たいと思い、そちらに目をやると
「…アイスクリーム…」
どうやら少年は私とぶつかった際に持っていたアイスクリームも私にぶつけてしまったらしい。
しかもほとんど食べていない状態のアイスクリームだったようだ。
「ご、ごめんなさい…」
少年は立ち上がりしょんぼりしながら私に頭を下げた。
「大丈夫よ?気にしないで」
私はハンカチを取り出しアイスクリームがついた箇所をふいた。
「それよりさっきのアイスクリームほとんど食べてなかったでしょ?新しいの買ってあげる!」
大丈夫だよーという思いをこめてにっこり笑うと「え…でも…」と少年は遠慮しだした。
「私もちょうどお腹すいてたし、良かったら一緒に食べましょうよ?今度は人にぶつけないように座って食べましょ?」
そう言って少年がさっき買ったであろう近くのアイスクリーム屋さんに行った。
近くの公園のベンチに腰をおろして先ほど買ったアイスクリームを食べようとしていた。
「おーーいしーー」
私はアイスクリームを頬張りながら満面の笑みだ。
隣に座った少年は私の顔を凝視した後、小さな声で「いただきます」と言って遠慮がちに食べ始めた。
少年を見ればどこか所作に上品なところがあるが、恰好的に平民の子のようだ。
きっと親御さんがきちんとしつけしたんだな!うんうんと1人で納得してた。
「あの…お姉さんって貴族なの?」
横から質問がきた。
あぁ…そういえばアンがお嬢様って呼んだもんな。
逆となりからアンがやらかしたーーっていうような雰囲気を感じた。
んーどうしたものか
「実は…そうなんだけど、できれば他の人には内緒にしててくれないかな?」
口にシーっとジェスチャーをすれば、少年はコクコクと頷いた。
「君はこの辺の子なのかな?」
「う、うん…」
人見知りをしてるのか少しどもっている。
先程ぶつかった後ろめたさもあるんだろうけど。
「んじゃここら辺の美味しい食べ物のお店とか知ってそうだねー!」
キラキラした目で少年を見れば「ちょ…ちょっとだけなら知ってる…」とあまり自信のなさそうな返答が返ってきた。
「まだ何か食べたりできるかな?そのお店に行ってみようよ!」
「うん!まだ食べれる!」
ということで少年に教えてもらったお店に行ってみた。
パン屋さんで店の外まで美味しそうな匂いがしてきた。
再び先ほどアイスクリームを食べてた公園に戻ってきた。
パンの入った茶色い紙袋は、少年が僕が持つよ!と言ってくれて少年が両手に抱えている。
「うーーーん、おいしーーー」
私が今食べているのはコッペパン。パンは案外シンプルな物の方が好きだ。そっちの方が素材の味が分かるから。
ふわふわしててほのかに甘味があって美味しいパンであっと言う間になくなってしまった。
「美味しそうに食べるんだな?」
少年は打ち解けてきたからか、フランクな話し方に変わってきた。
「美味しいんだもの!!ふわふわしてるしほのかに甘味あるし」
力説すると少年は微笑んでこちらを見ていた。
それからしばらくお喋りに花を咲かせた。
「…お嬢様、そろそろお時間が」
「あら、もうそんな時間…帰らなきゃ」
私とアンのやり取りを見て少年が
「…またここに遊びに来れる?」
とどこか不安そうな顔で私の顔を覗き込んだ。
「また来るわ!少年!」
元気に片手をあげれば
「…少年じゃない、アル」
少年はどこかムッとした表情で呟いた。
少年…アルに手を振り離れたところに停めてある馬車の方へ歩いて行った。




