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既読:こんどぅちに来な!ママが佐紅に会いたいって(顔文字)(ハート)(ケーキ)

 講義が終わった夕方、私とシアンは件のうどん屋の前に並んでいた。

 安くて品数が豊富なためか、今日は学生とサラリーマンで行列ができている。


 私たちは店員に渡されたメニューを眺めながら、のんびりと今夜の夕飯を吟味していた。


「んー。今夜はガッツリ行きたい気分だから、揚げ物かな」

「ねえ、シアン。あのさ」

「なに?」

「その……彼氏いるの?」


 今まで自分が振られたくなくて敢えて触れなかった話題だ。


「いないいない」


 シアンは屈託なく歯を見せて笑って付け足す。


「それどころか処女だよ」

「ぎゃっ」


 私がぎょっとするのと同じく、後ろに並んでいたサラリーマンがぎょっとした顔をする。


「そこまで聞いてないよ!」

「あはは、珍しいこと聞かれたからつい。あはは」


 ミルクティー色の髪を揺らしてひとしきり笑った美女は、綺麗な目で私の顔を覗き込む。

 顔が近くなっても毛穴一つない美貌だ。


「めずらしーじゃん、佐紅がそんなん聞いてくるなんてさあ。どしたん?」

「いや、ちょっと気になる事があって、というか……」

「なになに?」

「佑白のことなんだけど」

「ああ、佐紅の彼氏」

「ち、違うよ!??!?!?!」


 裏返った大絶叫に周りの人達がじろりと私を見る。私は頭を下げ、声を潜める。

 

「違うよ!」

「違うの?」

「違う!」


 あんな猫かぶり淫乱外道――と続けそうになりつつ、ぐっと飲み込む。


「シアンに彼氏いるのか聞いたのはね。もしシアンが……その。佑白のこと気になってたらどうしようと思って。あいつ彼氏にするにはまずいタイプだからさ」

「そうなの? いいやつじゃん。やさしーし」

「ほ、惚れちゃいそうだったりする?!」


 うろたえる私に、彼女はふっと真面目な顔になる。


「あのさー」

「う、うん」

「女が男の事気に入ったからって、付き合うとか告るとか好きになるとかと結びつくわけじゃないだろ」

「…………ごめん」


 指摘されて、私はいつも自分が言われて嫌な事を言ってしまっていたと気づく。


「そりゃあ細かい所気がつくし、優しい顔してるしイケメンだから、モテるのはわかるけどさー。あ、あとなんかエロいし」

「やっぱりそう思うの?」


 『エロい』という感想だけは、実は私は彼に対してほとんど抱いたことがない。


「佐紅は思わないの?」

「ちっとも。優しいなーとか絵になる男だなあとは思うけど、それだけかな」

「へー。だから友達やれてんのかもね」

「言われてみれば確かに」


 そういえば佑白が女の子と雑談っぽく会話をしているのをあまり見ない。

 男友達はそれなりにいるようだけれど、嫉妬されないのがなぜか不思議だ。

 彼が性対象ではない相手には感知できないフェロモンでも持っているのだろうか。

 思いながら、私はシアンに念を押す。


「でも絶対おすすめしないからね。優しいけど」


 対するシアンは、手を横に振って否定しケラケラと笑う。


「大丈夫だよ、あたし結婚相手としか付き合わないって決めてるし」


 ドスンと胸を穿たれるような衝撃だった。

 驚いたのは私だけでなく、後ろのサラリーマンもシアンの後ろ頭を丸くした目玉で凝視している。


「そうなの?」

「あたしを何だと思っての」


 おもむろにシアンはペンダントトップに指を触れる。

 存外に丁寧な手付きで持ち上げたそれは、小さな小判型の金貨のようなペンダントトップだ。

「それ何?」

「メダイだよ。お守り」

「お守り……」

「おばーちゃんからもらったの。ほら、あたしクリスチャンだし。洗礼とかバリバリやってるし」

「そうなの!?」

「あたし、親が片方チェコ人でさ。言ってなかったっけ?」

「……しりませんでした。もしかして髪も地毛?」

「んにゃ。これは染めてる」


 メーテルに似ているとずっと思っていたのは、あながち間違いでもなかったらしい。

 まじまじと見つめる私に嫌な顔もせず、シアンはにっこりと笑ってメダイをしまう。

 クリスチャンがなんたるかは全く分かっていないが、普段から肌身はなさずお守りを身に着けているということは、それだけ敬虔に信仰しているのだろう。


「そゆこと。それに宗教抜きにしてもさあ、性病とか妊娠とかやばいじゃん、セックスするってさ。それにそんなことしたいくらい好きな人なら、一生一緒にいたいじゃん? なら結婚じゃん」

「偉いね……」

「えらくないよ。パパにもママにも家族にも、心配かけたくないし悲しませたくないじゃん」

「泣けてきた」

「まー、あたしがそう思うだけで、人がどんな恋愛してよーが、誰がつきあってナニしようが、幸せなら全然アリだと思うんだけどね。というわけで、別に佑白っちは目の保養と友達でいいや」

「そ、そうなんだ……」


 脱力しつつ、私は内心ほっとしていた。

 これならシアンと佑白がこじれることもない。


「で、さあ。佐紅はどーなんよ。佑白が違うんなら彼氏いないでしょ?」

「決めつけたね!?」

「だって、彼氏もちがあんなイケメンとつるんでたら彼氏かわいそーじゃん」


 笑うシアンを見ながら、私は彼女と友達になれてよかったと思った。

 表面を取り繕ってしまう私より、彼女のほうがずっと大人でしっかりしている。

 顔だけじゃなく中身もすごくいい子だ。

 ほんの少し惚れそうになりつつ、友情の為に気持ちをぐっとしまい込んだ。


いつもお読みいただきましてありがとうございますm(_ _)m

良いクリスマスイブをお過ごしください!

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