第4/13話 女神じゃなくて男神だっつーの
ばんっ!
男神が机を叩いた。
積み上げられていた書類が跳ねる。
「女神女神うっさいのぉ!」
勢いよく立ち上がり、水晶板の向こうにいる男を指差す。
「男神だっつーの!」
もちろん。
その声が、地上の俺へ届くことはなかった。
◇
「また、噂の英雄ちゃんですか」
背後から声がした。
男神は、ゆっくり振り返った。
そこには、若い男の姿をした神が立っていた。
整った顔立ち。すらりとした体つき。見た目だけなら、まだ若い。
ただし顔色は悪い。
片手には書類。
もう片方の手には胃薬。
眉間には、日常的に胃と頭を痛めている者だけが持つ深い皺。
天界転生管理局、第三送致課勇者・英雄係。
係長神である。
「またとは何ですか、またとは」
男神は椅子に戻りながら、むすっと言った。
「私はただ、担当対象者から誤った呼称を受けたため、訂正を試みただけです」
「地上に声は届きませんよ」
「知ってますよ」
「では、なぜ叫ぶんですか」
「叫ばないと、こちらの尊厳が持たんでしょうが!」
係長神は無言で胃薬の瓶を振った。
からから、と乾いた音がした。
「あなたの尊厳より、今月の転生進捗報告書を持って来てくださいよ」
「ふーん、ああ、そう。そういう事いっちゃうんだ。ほーん」
男神は椅子の背にもたれ、腕を組んだ。
「いや、別にいいですよ? 係長神様がおっしゃる事に、私ごとき平男神が何を言い返せる訳じゃございませんし?」
「その言い方をやめてください」
係長神のこめかみが、ぴくりと動いた。
だが、怒鳴らない。
怒鳴る気力もない。
彼は胃薬を二粒、手のひらに出した。
「ともかく、担当対象者。二十六歳。日本在住。職業、プログラマー」
水晶板に、煤だらけの男が映る。
夜の部屋。
窓際。
両手を組み、真剣な顔で空を見上げている。
『女神よ。どうか俺を――』
「だから男神だっつってんでしょうが」
「落ち着いてください」
「こっちは三件連続で祈られてるんですよ。女神様宛てで」
「担当神が男性だと通知されていない以上、仕方ありません」
「そもそも何なんですか、女神前提って。白い空間にいる神は全員女神だと思ったら大間違いですよってんですよ。こちとら男神ですからね。しかも平です。平男神。神なのに平。肩書きからして縁起が悪い」
「自虐で話を長くしないでください」
係長神は書類を机に置いた。
そこには、大きく赤い印が押されている。
『高難度異世界送致候補』
さらに、その下。
『勇者枠筆頭候補』
男神の表情が、少しだけ変わった。
「……また上がってきましたか」
「はい」
係長神は胃薬を水なしで飲み込んだ。
「魔王級案件です。転生先候補、管理番号B-17。現地呼称、ヴァルグラント大陸」
水晶板の映像が切り替わる。
黒い雲。
ひび割れた大地。
城壁の向こうに押し寄せる魔物の群れ。
瘴気に侵された森。
燃える村。
崩れた神殿。
「魔王軍の侵攻予定が前倒しになっています。南部戦線の崩壊予測は、現地時間で六ヶ月後」
「六ヶ月」
「聖女候補の覚醒遅延。賢者候補は未発見。剣聖候補は三年前の戦争で死亡。現在、勇者枠が空席です」
「でしょうね」
「でしょうね、では困ります」
係長神は、もう一枚の資料を広げた。
『勇者枠適性評価』
魂の強度。
精神耐性。
危機対応能力。
身体能力。
戦闘学習適性。
救助実績。
異常環境適応。
項目のほとんどに、最高評価が並んでいる。
「噂の英雄ちゃんは、現時点で最有力候補です」
「知ってますよ」
「でしたら、なぜ三回も送致に失敗しているんですか」
男神は、黙った。
水晶板には、三つの映像が並ぶ。
トラックの前から子どもを抱えて跳ぶ男。
通り魔の顎へ、偶然のように肘を叩き込む男。
火災現場から、男性を背負って出てくる男。
どれも本来なら、死亡予定に接続できる案件だった。
だが、結果はすべて同じ。
生還。
救助成功。
世間の評価上昇。
男神は、苦い顔で言った。
「準備し過ぎなんですよ、あの英雄ちゃんは」
「準備し過ぎ」
「十三歳からですよ。十三歳から異世界転生後に備えて、格闘技、体操、水泳、パルクール、応急手当、災害対応、料理、経営、語学、物理、科学、化学。あげくプログラマーになって過労死転生まで狙っている」
「努力家ですね」
「努力の方向が全部おかしいんですよ」
水晶板の中で、男はホワイトボードに赤ペンで書き込んでいる。
『救助対象は、完全に安全圏まで運ぶ』
係長神が、ぼそりと言った。
「また生存率が上がりましたね」
「上がりましたねえ!」
男神は天井を仰いだ。
「もうやめてくれないかな、あの反省会。反省するたびに死ににくくなってるんですよ」
「ですが、異世界転生への意欲も上がっています」
「意欲と死亡率が反比例してるんですよ。どうなってんですか、あの人間」
係長神は資料をめくった。
「来月の自然災害スケジュールです」
机の上に、厚い冊子が置かれた。
表紙にはこうある。
『第七管区 自然災害予定一覧』
「台風二件。河川氾濫一件。山岳遭難三件。落雷注意区域四箇所。大型地震はありません」
「大型地震は?」
「ありません」
「ないんですか」
「ありません。無理には作れません」
「そりゃそうでしょうよ」
男神は椅子の上で腕を組み直した。
「台風も河川氾濫も駄目です。英雄ちゃん、たぶん避難誘導するでしょ。山岳遭難も駄目です。サバイバル訓練済み。落雷は運要素が強すぎる。勇者枠筆頭をそんな乱数で送れません」
「では、どうするんですか」
「だから慎重に見てるんですよ」
「慎重に見ている間に、向こうの世界は滅んじゃいますよ」
係長神の声は、いつになく硬かった。
「魔王級案件では、適性の低い魂を送っても意味がありません。むしろ現地被害を拡大します。勇者枠には、魂の強度、精神耐性、戦闘適性、自己犠牲性が必要です」
「知ってます」
「英雄ちゃんは、その筆頭です」
「知ってますよ」
「なら――」
「だから雑に送れんのです」
男神の声が、低くなった。
係長神が、言葉を止める。
男神は水晶板を見た。
そこには、地上で真剣に死に際の台詞を考えている男が映っている。
滑稽だった。
馬鹿馬鹿しかった。
だが、その魂は眩しいほどに澄んでいた。
「あの男は、確かに変です」
「それは否定しません」
「死にたがってるように見える。でも本質は違う。あれは死にたいんじゃない。行きたいんです。異世界へ。自分が夢見た場所へ」
男神は、指先で机を叩いた。
「しかも、人を見捨てられない」
沈黙が落ちた。
「自分の転生チャンスより、目の前の命を取る。何度も、何度も。それを本人は失敗だと思ってる」
「……」
「ああいう魂を、死因とスキル構成だけで処理するのは危ない」
係長神は、わずかに目を伏せた。
そのとき。
部屋の空気が変わった。
白い光が差す。
空間そのものが、姿勢を正したようだった。
扉が音もなく開く。
入ってきたのは、一柱の女神だった。
白銀の髪。
凛とした瞳。
冷たいほど整った顔立ち。
身に纏う神衣は簡素で、飾りは少ない。
だが、一歩歩くだけで、そこに規律が生まれる。
天界転生管理局、第一から第三送致課を統括する部長神。
かつて愛と慈悲を司った女神。
今は、規律の権能を最も強く伸ばした女神でもあった。
係長神が、慌てて背筋を伸ばした。
「部長神」
男神も立ち上がる。
「これはこれは、部長神様。わざわざ平神の巣窟までご足労いただきまして」
「座りなさい」
「はい」
男神は座った。
早かった。
部長神は、机上の資料へ視線を落とした。
「今月の転生ノルマは達成できそうですか?」
声は静かだった。
静かだからこそ、逃げ場がない。
「先月も、その前も不調な様ですが?」
係長神の顔色が、さらに悪くなる。
男神は、少しだけ横を向いた。
「いやあ、ほら、近年は医療も防災も発達しておりますしね。人間界もなかなかしぶとく――」
「質問に答えなさい」
「努力中です」
「努力では救えません」
部長神は水晶板へ目を向けた。
噂の英雄ちゃんの映像。
煤だらけの顔。
真剣な祈り。
間の抜けた願望。
そして、その奥にある眩しい魂。
「彼が勇者枠筆頭候補ですか」
「はい」
係長神が答えた。
「高難度異世界、ヴァルグラント大陸への送致候補として、最も高い適性を示しています」
「送致予定は」
「未定です」
「理由は」
係長神は、ちらりと男神を見た。
男神は嫌そうな顔をした。
「担当神の判断により、保留されています」
「担当神」
部長神の視線が、男神に向いた。
「説明を」
「説明と言われましても」
「説明を」
「はい」
男神は背筋を伸ばした。
「あの英雄ちゃんは、勇者・英雄枠として非常に優秀です。魂の強度、危機対応能力、全部基準値を大きく上回っております。おまけに本人が異世界行きを強く望んでいる」
「ならば送ればいいのでは」
「死なないんです」
「死なせるのがあなたの仕事でしょう」
「言い方!」
男神は思わず声を上げた。
部長神の眉が、わずかに動く。
男神は咳払いした。
「失礼。正確には、死亡予定への因果接続です」
「続けなさい」
「彼の場合、因果を接続しても、本人の能力と判断で救助成功に変換してしまいます。トラック事故は子ども救助。通り魔案件は犯人制圧。火災案件は避難誘導と要救助者搬出。結果、死亡どころか社会的評価が上がっていますし、死ぬはずだった他の候補者まで助けてしまってます。」
「駅前の英雄」
「はい」
「皮肉ですね」
「本当に」
部長神は水晶板を見つめた。
「異世界にもタイムリミットがある事は分かってますよね?」
「分かっています」
「向こうの世界では、魔王軍の侵攻が進んでいます。聖女候補の覚醒は遅れ、王国南部では瘴気が拡大している。勇者枠を空席のままにはできません」
「分かっています」
「ならば、なぜ待つのです」
男神は黙った。
部長神の声は冷たい。
だが、責めているだけではなかった。
その奥に、焦りがある。
救わなければならない世界がある。
間に合わなければ、失われる命がある。
愛と慈悲を捨てたのではない。
愛と慈悲だけでは届かない場所へ行くために、規律を選んだ女神の声だった。
「救われるべき魂を待ち、信じ、見守る。それは美しい考えです」
部長神は言った。
「ですが、その間にも向こうの世界では、人が死にます」
男神は、拳を握った。
「……分かってますよ」
「分かっているなら、転生予定者として確定させなさい」
「それは、まだ早い」
係長神が、息を呑んだ。
部長神の瞳が細くなる。
「理由は」
「あの男はまだ、この世界に縁が残り過ぎている」
その言葉に、部長神の表情がわずかに変わった。
縁。
それは、古い言葉だった。
今の天界転生管理局では、あまり使われない。
魂の重みは数値化される。
適性は評価表に記載される。
送致は予定表で管理される。
縁などという曖昧なものは、非効率な判断材料とされて久しい。
だが、古代神の血を引く者たちにとって、それは魂を見るための根っこだった。
「そんな古い神々の様な事を言ってると、ノルマが達成できませんよ」
部長神の声は、静かだった。
静かすぎて、痛かった。
男神は笑った。
笑って、肩をすくめた。
「心の中の嫌味なら、聞こえていますよ?」
「聞こえるでしょうねえ! 神ですもんねえ!」
係長神が、胃を押さえた。
「やめてください。本当にやめてください」
男神は息を吐いた。
「ただね、部長神様」
「何ですか」
「あの英雄ちゃんは、雑に送っちゃいけない魂です」
水晶板の中で、男がホワイトボードに新しい反省点を書き足している。
『火災時は救助対象を最後まで搬送』
その顔は真剣だった。
どうしようもなく真剣だった。
「本人は勘違いしてる。自分は異世界に行きたいから人を助けてると思ってる。でも違う。あれは、助けずにはいられない魂です」
部長神は答えない。
「そんな魂を、ただ魔王退治の駒として送るのは違う」
「駒などとは言っていません」
「言ってませんね。ええ、言ってませんとも。書類にもそんなことは一言も書いてません。勇者枠、適性者、送致候補。綺麗な言葉が並んでますよ」
「平男神」
「でもね」
男神は、水晶板から目を離さなかった。
「あの男は、まだ人間です。彼の人生がある。」
部屋が静まり返った。
係長神は胃薬の瓶を握ったまま固まっている。
部長神は、長い沈黙のあと、資料を閉じた。
「保留期限は七日です」
「七日」
「七日後までに、送致計画の再提出を。死亡予定への接続案、または代替勇者候補案。どちらかを出しなさい」
「代替候補は適性が足りません」
「ならば、接続案を出しなさい」
部長神は踵を返した。
扉へ向かう。
その背中は、冷たく、正しく、美しかった。
去り際、彼女は一度だけ立ち止まった。
「私も、古い神々の家に生まれました」
男神の目が、わずかに揺れた。
「愛と慈悲だけでは、救えないものがあります」
それだけ言って、部長神は部屋を出た。
扉が閉まる。
白い光が薄れる。
残ったのは、机と、書類と、胃痛と、沈黙だった。
係長神が小さく言った。
「……七日です」
「聞こえてますよ」
「本当に、お願いします」
「分かってます」
◇
その夜。
平男神は、ぶつぶつ言いながら実家へ帰った。
「規律、規律、規律。はいはい。立派な権能でございますよ。評価シートにも書きやすい。ノルマ達成にも便利。愛と慈悲なんぞ、数値化しにくいですからねえ」
雲の道を抜け、古びた鳥居をくぐる。
そこは、かつて大きな神域だった。
千の魂が巡り、万の縁が結ばれ、人々の祈りが途切れなかった場所。
今では、石畳は割れ、灯籠は傾き、池にはほとんど水がない。
社の屋根も、少し傾いている。
神域全体が、ゆっくり眠っているようだった。
「ただいま」
返事はない。
いつものことだ。
平男神は草の伸びた庭を歩いた。
そして、足を止めた。
庭先に、じいちゃんがいた。
古代神のじいちゃん。
かつて魂と縁を見守った、一族の長老。
今ではすっかりボケて、昨日のことも、さっきのことも、だいたい忘れてる。
そのじいちゃんが庭の真ん中で、腰紐をほどいていた。
「じいちゃん!?」
平男神は叫んだ。
「そこ庭! 庭だから!」
じいちゃんは、ゆっくり振り返った。
「……む」
「む、じゃないよ」
「厠はどこじゃ」
「家の中! 毎日使ってるでしょう」
「そうか」
「そうだよ」
「ここは違うのか」
「違うよ。そこは昔、縁結びの御神木があった場所だよ」
「ほう」
「ほう、じゃないよ」
平男神は慌ててじいちゃんを支え、社の中へ連れて行った。
しばらくして戻ってくると、じいちゃんは何事もなかったような顔で縁側に座った。
平男神は、その隣に腰を下ろした。
空には、星の代わりに無数の魂の灯が流れている。
昔は、この灯を見上げるだけで、どの魂がどこへ向かうのか分かったという。
今の平男神には、そこまでは見えない。
ただ、時々。
ほんの時々だけ、他とは違う輝きが見える。
今日もそうだった。
英雄ちゃん。
死にたがっているようで、誰よりも人を生かしてしまう魂。
「じいちゃん」
「なんじゃ」
「俺らのやり方って、もう古いのかね」
じいちゃんは、ぼんやり空を見ていた。
「腹が減ったのう」
「真面目な話」
「腹は真面目じゃ」
「それはそうだけど」
「腹が減っては、神徳も出ん」
「今そういう話じゃないんだよ」
平男神は頭を掻いた。
「今日さ、部長神に言われたんだよ。そんな古い神々の様な事を言ってると、ノルマが達成できませんよって」
「ほう」
「ほう、じゃなくてさ」
「その部長神というのは、美人か」
「美人だよ」
「なら仕方ない」
「何が?」
「美人はたいてい正しい事を言う」
「顔の話じゃないんだよ」
じいちゃんは、ふふ、と笑った。
笑ったあと、またぼんやりした。
平男神は縁側に肘をつき、空を見た。
「勇者枠の候補がいるんだ」
「勇者」
「そう。ガチの魔王案件。向こうの世界はもう時間がない。送らなきゃいけない。適性の高い魂を」
「ほう」
「そいつがさ、変なんだよ。異世界に行きたい行きたい言ってて、死に方まで研究してる。なのに、いざとなると人を助ける。助けて、助けて、助けて、結果的に死なない」
「よい魂じゃな」
「よい魂なんだよ」
平男神の声が、少し低くなった。
「だから困ってるんだよ」
じいちゃんは黙っていた。
平男神は続けた。
「送れば、きっと勇者になる。魔王とも戦って勝てるかもしれない。向こうの世界を救えるかもしれない。けど、今の世界にも縁が残ってる。助けた子ども、助けた女、火事場から背負って出した男。そいつらの命が、あいつに繋がってる」
「……」
「そんな魂を、こっちの都合で引っこ抜いていいのか」
風が吹いた。
古びた神域の草が揺れる。
魂の灯が、空を静かに流れていく。
じいちゃんのぼんやりした瞳に、ふと光が戻った。
「いいか」
声が変わった。
平男神は、思わず背筋を伸ばした。
そこにいたのは、ボケた古の神ではなかった。
かつて山を鎮め、海を分け、魂の行く末を見送っていた古代神。
「人の魂は基本的には自由じゃ」
じいちゃんは、静かに言った。
「しかしたまにおるのじゃよ。とんでもない輝きを放ち、周りの全てを救ってしまう様な魂がな」
平男神は、黙って聞いた。
「そんな魂は、えてして周囲の者達からの縁でがんじがらめになってな。死ぬことも許されなくなったりするんじゃ」
「死ぬことも……許されない」
「本人が望もうと、神が望もうと、縁がそれを許さん。救われた者の感謝。生き延びた者の未来。これから出会うはずの者の願い。そういうものが、魂をこの世に留める」
「じゃあ、どうすればいい」
平男神の声は、かすれていた。
「向こうの世界にも、助けを待ってる人間がいる」
「そうじゃな」
「こっちの世界にも、あいつに助けられる人間がいる」
「そうじゃな」
「俺は、どっちを選べばいい」
じいちゃんは、平男神を見た。
その目は、深く、遠く、優しかった。
「選ぶのは、お前ではない」
「……」
「神は道を照らす。風を読む。時に背を押す。だが、魂の歩みを奪ってはならん」
「でも、それじゃ間に合わないかもしれない」
「間に合わせるのが神の仕事じゃ」
「無茶言うなよ」
「昔から神の仕事は無茶じゃ」
じいちゃんは、ゆっくり息を吐いた。
「良いか? 神ならば人を信じてやれ」
平男神は、何も言えなかった。
胸の奥に、古い火が灯るような感覚があった。
失われたと思っていた、一族の権能。
魂を見る力。
縁を読む力。
それが、ほんの少しだけ戻ったような気がした。
「……分かったよ、じいちゃん」
古代神のじいちゃんは、満足げに頷いた。
そして。
キメ顔のまま、ぶるっと震えた。
「出た」
「出すなよ!!」
長くなりましたが、短編全13話なので許して下さい(o*。_。)oペコッ




