Round9 お城への呼び出し
ようやくグリフォンの子どもを無事に親元に戻せたと思ったのも束の間、私とネイリア様は、そろってお城に呼び出されていた。
呼び出し人は王妃様。まさかのお方からの呼び出しである。
当然ながら、私もネイリア様もドナドナされる家畜のような気分だった。
サクルが気合いを入れて着飾らせてくれたのだけれど、服装の華やかさとは裏腹に、今の私は吐きそうである。
お城へとやってきた私たちは、王妃様が指定なされた部屋へと向かう。さすがに機密の多い話をすることになるので、どこで聞かれるか分からない屋外は選ばれなかった。天気がいいので、外でのお茶会を期待したけれど、今の精神状態を考えればそんなことはどうでもよかった。
部屋へとやってきた私たちは、中へと進むとしっかりとカーテシーを行って王妃様に挨拶をする。
「本日はお招きいただき光栄に存じます。フィストニーナ・バイタラル男爵令嬢でございます」
「本日はお招きいただき光栄に存じます。ネイリア・フィンガルス男爵令嬢でございます」
「よく来ましたね、フィストニーナ男爵令嬢、ネイリア男爵令嬢。さあ、こちらに来てお座りなさい」
挨拶を終えると、王妃様に手招きをされたので、私たちは席へと移動する。
そこには、先日のお茶会の主催であるソニア・バトリョーシカ公爵令嬢と初めて見る少年が座っていた。あれっ、この少年の顔、どこかで見覚えが……。
私は首を軽くひねりながら、とにかく席に着く。爵位の関係上、王妃様とはほぼ対面する位置に座っているので、それはそれでものすごく緊張する。
「グリフィス、あなたも挨拶なさい」
「はい、母上」
このやり取りを聞いた時、私は思わず固まってしまった。
そう、この少年こそ、攻略対象の一人であるグリフィス・ボクシス王太子殿下だった。
(はわーっ!!)
心の中で思いっきり叫んでおく。さすがに王妃様の前でそんな反応を見せたら失敬すぎる。
さすがは攻略対象で最も地位の高いお方。顔が整い過ぎている。
一応、攻略対象には王子がもう一人いるんだけど、それは隣国のグラプラー王国の王子。彼は私のメインストーリーでしか出てこない。ただし、妹である王女は108人のガチャ令嬢の中に含まれている。なので、フィストニーナの話を進めていなくても、存在は出てくるのよね。モブ王子という認識で。
その実態は、全攻略対象の中で火力が最も高いワイルドな王子様。まあ、今は関係ないのでそこまでにしておきましょう。
「さて、今日お前たちを呼んだのは他でもない。先日のグリフォン騒動のことですね」
ああ、やっぱりか。
精神的ショックもあっただろうし、私たちがグリフォンを返しに行くことになったから、事情を聞くのが遅くなってしまったのよね。
で、ソニア様もいらっしゃるというわけなんだ。
「ネイリアよ、確認をするが、子どものグリフォンは知らない間に屋敷にいたということでよろしいのですね?」
「はい。庭園を散歩中に小さな声が聞こえてきましたので、向かいましたらいたのです。場所は、お隣のバッカス侯爵邸との境界すぐ近くでした」
「なるほど、となるとバッカス侯爵家を狙った何者かが、グリフォンの子どもをさらってきたということですね。ありがとう、調査を行っている者に情報を渡しておきます」
「はい、よろしくお願い申し上げます」
ものすごく緊張していたようだけど、ネイリア様はどうにか無事に報告ができたようだ。
でも、それだったらどうして私まで呼ばれたのかしらね。そりゃ、ネイリア様の頼みでグリフォンの子どもを返しに行くのに付き添ったけれど。いまいち腑に落ちない。
「それで、フィストニーナよ」
「は、はい!」
考えごとをしていると、王妃様に急に呼ばれてしまう。さすがに驚いちゃって声が少し上ずってしまったわ。
「此度は、よくぞグリフォンを追い返してくれたな。あのまま暴れられていては、王都に甚大な被害が出たことであろう。王族として礼を言わせてもらう」
「あ、ありがとう存じます」
グリフォンをワンパンで追い返したことに対して、王妃様からお礼を言われてしまった。
確かに、あのままにしておいたら王都は大変なことになったでしょうからね。なんといってもこの世界には武器が存在しないから。己の拳と魔法だけで戦う世界なのよ。
グリフォンと騎士たちのステゴロ対決……。ああ、子どものグリフォンを返しに行った時に、そういう光景になりかけたわね。いやぁ、構えだけでシュールだったわ。
「正直なところ、男爵令嬢という地位ゆえに悩んだところなのですが……」
私が当時のことを振り返っていると、王妃様が何かを言いかけている。
「正式な婚約者はまだ決められぬゆえに、フィストニーナ・バイタラル男爵令嬢、そなたをグリフィスの婚約者候補の一人とします」
「へ?」
王妃様の口から出てきた言葉に、私は思いっきりマヌケな言葉が飛び出した。
「おめでとうございます、フィストニーナ様。これで私とも正式にライバルですね」
いや、ソニア様。なんでそんな風に笑っていらっしゃるのかしらね。あなたが婚約者でしょう?
目の前で起きていることに、私の頭が追いつかない。
「フィストニーナ嬢。ここは拳がすべてを決めるのですから、文字通り、その拳で僕のハートまでつかんでみてくださいね」
「は、はあ……。精進いたします」
わけの分からないうちに、私は王子様の婚約者候補の一人に加えられてしまった。なんでよ。




