Round8 ひとまず返そう
ネイリア様とのお茶会を終えて家に戻った私は、お父様から無理やりグリフォンの生息域について話を聞くことにした。ついでに、昨日のグリフォンが逃げていった方向についても。
お父様はなかなか教えてくれなかったけれど、根気よく聞くことでどうにか場所を聞き出すことに成功した。
そこで、護衛をつけた上で連れていってほしいと必死に頼み込んだ。
当然ながら、いい顔をするわけがない。だけど、私の熱意が通じてどうにか許可をもらうことができた。
もちろん、どうしてそういう許可を求めるのかを問い質されてしまった。なので、私はお父様にもフィンガルス男爵邸を訪れてもらうことにした。
「ネイリア様、昨日お見せいただいたものを、見せていただけますでしょうか」
「は、はい……」
私の圧力に、戸惑いつつもグリフォンの子どもを見せてくれた。
「ぐ、グリフォンの子ども……。それで、王都にグリフォンが来たのか。だが、どうやってこれを……」
お父様の問い掛けに、ネイリア様は私に行ったのと同じ説明をしている。
その説明を聞いたお父様は、頭を押さえてよろめいている。
「グリフォンの子どもをさらって、屋敷に忍ばせただと? どこのバカだ、それは……。当然親が必死になって探しに来る。それで、うちの娘が撃退したはいいが、しばらく気を失う事態になったのだぞ」
お父様は私とネイリア様の肩に手を当てて、しっかりと私たちを見ている。
「必ず、やらかしたやつは見つけ出す。子どもを返しに行くことの許可は出したが、決して無理をしないでおくれよ。お互いに約束だ」
「はい、お父様」
私はしっかりと返事をしたものの、ネイリア様はこくりと無言でうつむくだけだった。
というわけで、少しでも早い方がいいということで、王家の騎士団に守られながら、翌日には私たちはグリフォンの生息地へと向かうことになった。
ネイリア様はしっかりとグリフォンを抱きかかえている。
子どものグリフォンは、しっかりとネイリア様を見つめており、なんだかものすごく懐いているように見える。
まさか、こんな形で初めて王都から出ることになるとは思ってもみなかった。
向かう先は、王都からかなり離れた場所にある山。その中腹付近がグリフォンの生息地なのだという。
はっきりいって、私たち八歳の子どもには、ちょっと厳しい場所のようだ。
十日ほどをかけてかなり山が近付いてきた頃だった。
「来たぞ!」
騎士団が騒ぎ始める。そう、グリフォンが姿を見せたのだ。
でも、よく見たら一体だけだ。
おまけに、じっと目を細めて見てみると、その鼻っ面に小さな拳の跡が見える。どうやら、私が殴ったグリフォンみたいだ。いや、なんでまだ残ってるのかしら。
「キューッ、キューッ!」
ネイリア様が抱きかかえるグリフォンが反応している。ということは、間違いなくあのグリフォンはこの子の親なのだろう。
「降りますよ、ネイリア様」
「は、はい」
私はネイリア様と一緒に馬車から降りる。
外に出てみると、騎士団がファイティングポーズをとってグリフォンと向き合っている。さすがは拳と魔法の世界。剣なんて使わないから、絵面がなんともすごいわね。
「ま、待って下さい」
ネイリア様がみんなに呼び掛ける。私が横につきながら、ネイリア様と一緒に一番前まで出ていく。
改めて見てみても、グリフォンは怖い。でも、今は穏便に済ませるために我慢よ我慢。
一番前まで出たところで、ネイリア様は子どもグリフォンを放す。
「さあ、元の場所にお帰り」
「キュー……」
子どものグリフォンは、ネイリア様に振り返って、なかなか進もうとしない。それでも、ネイリア様がしっかりと目を見て訴えると、気持ちが伝わったようで子どものグリフォンは親のところへと進んでいく。
目の前では子どものグリフォンが親にじゃれつく、実に感動的な場面が繰り広げられる。
そうかと思うと、親のグリフォンがこっちへと近付いてきた。騎士団たちは私たちをかばうようにして、ファイティングポーズのまま、グリフォンの前に立ちふさがる。
ところが、グリフォンは私たちに攻撃をすることなく、自分の翼へとくちばしを伸ばしている。そして、私たちの前に顔を伸ばして、何かを地面に置いた。
「グリフォンの、羽……?」
そう、グリフォンは私たちに自分の羽を差し出してきたのだ。おそらくは自分の子を守ってくれたお礼なのだろう。
よく見ると、羽は二枚ある。
羽を指差しながらおそるおそるグリフォンの顔を確認すると、どうやら私も拾っていいらしい反応を示していた。
というわけで、私はネイリア様とともに羽を一枚ずつ拾い上げる。
『グリフォンとの友誼を獲得しました』
『風属性の加護を獲得しました』
その瞬間、頭の中に流れたアナウンスに、私は思わず変な声が出そうになった。
いや、こういう場面でゲームみたいなことはやめてよねぇ……。びびるじゃないのよ。
「どうかしましたか、フィストニーナ様」
「な、なんでもないわ。うん、なんでもない」
ネイリア様に心配されたので、私は笑ってごまかしておく。
羽を手にした私たちを確認したグリフォンは、子どもを連れて山へとおとなしく帰っていく。
いや、グリフォンって、こんなにおとなしい魔物だったっけ?
私の抱いた疑問は、どうやら正しいようだ。周りの騎士たちも、何もなくグリフォンが立ち去っていく様子を呆然としながら黙って見送っていた。
何事もなくグリフォンの子どもを親のところに返せた私たちは、騎士たちに守られながら王都へと戻っていった。




