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フィストニーナ拳闘記~君と殴り合う乙女ゲーム  作者: 未羊


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Round10 辺境伯への想い

 お城から帰った私は、一度部屋に戻ってベッドへと身を投げ出していた。


(いやいやいや、なんで王子の婚約者にされなきゃいけないのよ。グリフォンを一撃で追い返しただけじゃない。なんでそうなるのよ)


 体をじたばたとさせて、ベッドの上で暴れている。もちろん、靴は脱いでいるわよ。


「お嬢様、この度の件は実におめでとうございます」


「嬉しくない、嬉しくないわよぉ……」


 サクルに淡々と祝われているけど、私はまったく嬉しくなかった。

 それというのも、私はこの『Grip Fist Graffiti』には推しのキャラがいる。その推しとまだ会えてもいないというのに、なんで王子様と婚約者にされなきゃいけないの。もう泣きたい。


 私の推しのキャラクターは、攻略対象の一人であるゲーティス辺境伯家のファラン様。一つ下の妹にライバル令嬢であるバトリシア様がいらっしゃるわ。

 バトリシア様がショートカットのワイルドなご令嬢であるように、ファラン様もなかなかにワイルドな感じの方。だけど、それでいて整ったさわやか系の殿方で、国防の要らしく防御に秀でられた方なのよね。

 私はゲームでそのグラフィックをひと目見た瞬間にハートを射抜かれてしまったわ。この方こそ、最推しだと。

 ガチャで手に入る令嬢たちで攻略してみたけれど、ファラン様はとにかくガードが堅い。告白を成功させるには体力を三割以下まで減らす必要があるんだけど、何度そこに満たずに涙をのんだことか。攻撃を当てても、他の攻略キャラに比べてゲージが減らないんですからね。

 転生に気が付いてから三年間、いつ会えるかとお待ちしておりましたが、さすがは辺境伯。実はずっと領地で国境警備についていて、王都にまったくやって来なかった。おかげで、ショタなファラン様を拝むことができていない。

 こっちから向かおうにも、両親には止められる始末。どんだけ国境は危険なのよ。唯一の外出の機会もグリフォンの一件だったので、そこでも会えなかった。

 ああ、せっかくなんだし、幼い時のファラン様にも会ってみたかったな。王子には会えたのに。


 いろいろとうっぷんのたまった私は、お母様のところへと向かう。


「お母様!」


「あら、どうしたのかしら、ニーナ」


 部屋へと乱入した私を叱ることなく、お母様は私を迎え入れてくれる。


「特訓を受けたいです! 筋トレだけでは体力や筋肉はついても実戦感覚が身につきません。体幹もしっかりしてきましたので、あの時のようには転びません。お願いします!」


 私はお母様にはっきりと告げていた。

 そう、初めて特訓を受けたあの日に滑って転んで失神して以来、ずっと中止になっていた特訓を再開させることを。

 お母様は驚いた表情を浮かべている。だけど、私は真剣だ。

 この世界は拳と魔法の世界。私だって、いずれはステゴロ戦闘に慣れないといけないもの。特に、対人の戦いとなると、前世でも経験がない。いざという時に体が縮こまってしまっては意味がないもの。

 私の決意の言葉を受けたお母様は、驚いたかのように見えて、すぐに表情を引き締めていた。


「そうかそうか、ニーナも覚悟ができたのね」


 私の顔をじっと見つめている。


「グリフィス殿下の婚約者候補になったらしいじゃないの。となれば、戦いを挑まれることも考えられます」


「あ、えと……」


「よしっ、私が戦い方というものを教えてあげましょう」


 なんだか、お母様に火がついてしまった模様。あまりの反応に、私はかなり戸惑ってしまう。

 ところが、こうなってしまったお母様は止められない。

 夕食までは時間があるということで、その時間を使って私に特訓をつけてくれることになった。もちろん、ドレスのままで。


「いいかい、ニーナ。戦いは拳だけでやるんだよ。足は機動力を確保するために必要だ。攻撃には使わないこと」


「は、はい!」


「さあ、拳の素振りから始めようではないの」


「は、はいっ!」


 あれっ、三年前と違う。あの時はいきなり実戦から入ろうとしてたけど、まずは基本から押さえておこうとしている。これは、お母様も反省していたってことかしら。

 拳の素振りに、ステップの特訓を経て、いよいよ私はお母様と拳を交えることになる。

 この世界の流儀はよく分からないものの、とにかく拳で戦えばいいと思われる。ゲームと実際の戦いの差はどんな感じなのか。私はドキドキと緊張している。


「たああっ!」


 私はお母様相手に拳で殴りかかる。しかし、さらりと躱されてしまう。

 その後も数回攻撃を仕掛けるものの、やはり当てることはできなかった。


「うーん、イメージが足りてないのかしらね。これは、実際の拳の戦いを見せてあげるしかないかしら。グリフォンに一撃を入れたというから、ちょっとは期待したんですけどね」


「ううう……」


 ケンカにはまったく自信はないわけだけど、だからといってお母様にもまったくかすめることができなかったのが悔しかった。これが、最低レアリティのスペックかぁ……。

 私は愕然とする。


「そうねえ、こういう時はプロフェッショナルに見せてもらうのが一番だし、今なら辺境伯が一番かしらね」


 私はお母様の言葉に反応してしまう。

 もしや、ショタなファラン様に会える?!


「辺境伯、ぜひ辺境伯領に!」


「ちょっと待った、待った。あの人に相談してからね。ニーナと同い年の娘さんがいるから、先方は断らないとは思うでしょうけれど」


 私の積極的な態度に、お母様は困惑している。

 辺境伯領へと出向くという話が出たことで、私はものすごく興奮している。

 ああ、願ってもいなかった辺境伯領への訪問。ああ、実現するのかしら。私は気になって仕方がない。

 ただ、その日の夜は興奮のあまり眠れなかったことは、素直に反省すべきだと思ったわ。

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