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フィストニーナ拳闘記~君と殴り合う乙女ゲーム  作者: 未羊


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Round11 ゲーティス辺境伯領を訪れて

 私は早速、お母様と一緒にゲーティス辺境伯領へと向かっていた。

 時々、家の兵士たちを鍛えるという名目で、ゲーティス辺境伯様には胸を借りに行っているのだとか。今年はちょうどそれにあたったので、私はこうやって付き合うことになった。

 ちなみに先方も娘の友人にぜひともということで快諾。晴れて、ゲーティス辺境伯領への訪問が実現したのよ。

 ゲーム本編では兄妹そろって、マイルドなワイルドさの目立つ赤髪の短髪が目立っていたけれど、この時期の二人は果たしてどんな感じなのかしら。私は期待に胸躍らせていた。


 ただ、私はなめていた。


「うげぇー……」


 道中すっかり参ってしまっていた。

 グリフォンを返しに行った時も結構な道のりだったけれど、あの時はグリフォンがいたから気が引き締まっていた。でも、今回はそういった緊張をもたらすものはない。馬車の長旅はとにかく暇だった。

 しかも、辺境伯領への道はとにかく悪路。雨が降った後のぬかるみなどがくぼんでいたり、馬がそこそこ行きかうので、蹄の分凹んでいたり、馬車のわだちができていたりと、それは酷い乗り心地だった。

 とはいえ、男爵家とはいえど令嬢。吐くわけにはいかないので、私は必死に耐えていた。


 二週間くらいかけて、ようやく私たちはゲーティス辺境伯領に到着する。

 筋トレをしてかなり鍛えていたとはいえど、乗り物酔いは別だった。馬車に揺られるという感覚に慣れていなかったことが最大の原因みたい。これでも前世では泥酔状態でも酔わなかったんだけどなぁ。弱くなったわね。

 とはいえ、辺境伯領の中心地にやって来て、舗装された道路のおかげでしばらく揺れが収まったこともあってか、屋敷に着く頃には私はすっかり回復していた。


「こ、これがゲーティス辺境伯邸……」


 目の前に見えてきた建物に、私はごくりと息をのんだ。

 お屋敷というよりは要塞だったからだ。さすがは隣国との国境警備や、魔物との戦いの絶えない辺境伯邸。華やかさとは無縁といったたたずまいだ。

 手紙と先触れという事前連絡をしておいたおかげで、屋敷の中にはすんなりと入っていけた。

 場所柄のせいなのか、屋敷に入ってから目につくのはとにかく筋肉な人たちだった。兵士はもちろんだけど、使用人たちに至るまで筋肉である。環境のせいかしらね。

 とはいえ、拳と魔法の世界なので、別に普通かなって思えてしまう。うん、環境に毒されているわね。

 建物の前に到着して、私たちは馬車を降りる。入口の扉の前には、大人の男女と子どもの男女が並んでいる。姿からすれば、この人たちが辺境伯一家なのかしらね。


「これはゲーティス辺境伯様とご家族の皆様。男爵夫人である私と娘のためにわざわざ一家でお出迎えですか。ありがとう存じます」


「なになに。娘の友人になるかもしれない人物か来るかもしれないのだ。どうも家の中で待っていられなくなってしまってな。遠いところをよく来て下さいましたぞ、バイタラル男爵夫人、男爵令嬢」


 お母様が挨拶をすると、筋肉隆々の男性が挨拶を返してくれた。この人がゲーティス辺境伯様か。

 となると、隣が辺境伯夫人で、子どもがファラン・ゲーティス辺境伯令息とバトリシア・ゲーティス辺境伯令嬢ってわけね。思ったよりもおとなしそうな感じだわ。


「ニーナもご挨拶なさい」


「はい」


 いかんいかん。幼い二人を見られることに興奮して、令嬢としてのたしなみを忘れるところだったわ。


「お初にお目にかかります、辺境伯様。私はフィストニーナ・バイタラル男爵令嬢と申します。此度は私たちの申し出を受けて下さり、ありがとう存じます」


 私はきちんとカーテシーを決める。どうよ、鍛えた体としっかりとした体幹から繰り出されるカーテシーの威力は。

 ドヤ顔を分からない程度に決めながら、私はちらりと視線を辺境伯様たちに向ける。


「おお。これは実に見事なカーテシーだな。相当鍛えておるようだな」


「ええ、これならば楽しみですね」


 うん? ちょっと思っていた反応と違う気が……?


「ささっ、玄関で立ち話もなんだ。中に入って長旅の疲れを取っておくれ」


「はい、それではお邪魔いたします。行くわよ、ニーナ」


「あっ、はい」


 辺境伯様に連れられて、私たちは建物の中へと入っていく。

 あれっ、辺境伯様たちは自己紹介してくれないんですかね。そんな、せめて二人の声くらい聞かせてちょうだいよ。

 建物の中に入った私とお母様は、使用人たちの案内で客間へと案内されてしまった。

 結局、歓迎の晩さん会まで待つことになってしまったようで、それまでは部屋の中でのんびりするしかないようだった。


「ニーナ」


「なんでしょうか、お母様」


 部屋に入って椅子に座っていると、お母様の様子は変だ。


「これから一週間、頑張って耐えましょうね」


「え?」


 耐える?

 まったくどういうことなのか分からない私は、思わず固まってしまう。ただ、お母様の雰囲気から察するに、ろくでもないことが待っていそうなことだけは、なんとなく分かった。

 それにしても、この辺境伯邸に一週間の滞在か。

 一体どんなことが待っているのだろうかと、この時の私は何も知らないで胸を弾ませている。

 この後の晩さん会で、地獄に叩き落とされることになるだろうとは、この時の私は知る由もなかったのだった。

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