Round6 謎の多いご令嬢
しばらくして、私は部屋の中で目を覚ます。
「あたたた……。ここは、どこ?」
見たことのない内装の部屋なので、私はまったく状況をつかみ切れていない。
「いったぁっ!」
私は右手にものすごい痛みを感じる。頭に手を上げようとしただけでこれだ。どんな状態になっているのよ。
その次の瞬間、私は思い出した。
「そ、そうだ。グリフォンは? みんなは?」
唐突にお茶会に乱入してきた招かざる客であるグリフォン。私はその成獣のグリフォンに対して、拳を一発入れたんだった。
特訓の成果もあって威力あったと思うんだけど、いかんせんまだ八歳の体。私の拳はグリフォンに当たり負けをしてかなり痛みを発生させている。だから、動かそうとしたら激痛を感じているというわけよ。
「お目覚めですか、フィストニーナ様」
「フィストニーナ様!」
「ソニア様、ネイリア様」
部屋の扉がノックされたかと思うと、ソニア様とネイリア様が入ってこられた。ってことは、ここはバトリョーシカ公爵邸の中ってことかしら。
私が少し考え込むと、ネイリア様が抱きついてきた。
「ありがとうございます、フィストニーナ様。目を覚まさなかったら、私、どうしようかと思っておりました!」
顔を擦りつけるようにしているネイリア様だけど、ものすごく泣きじゃくっている。
私がグリフォンに立ち向かった理由が、グリフォンがネイリア様を襲おうとしていたことだものね。こうなるのも無理はないかしら。
「はっ、そうだ。グリフォンはどうなりましたか?」
私は思い出してお二人に尋ねてみる。けれど、ソニア様はあんまりよろしくない表情を浮かべていた。
「逃げられましたわね。ですが、なぜこの公爵邸にグリフォンが出没したのか、それが気になります」
私のパンチに驚いたグリフォンは、そのまま王都の外まで逃げ切ってしまったらしい。
でも、こんなイベントは、ゲームの中では聞いたことがない。もしかして、私がプレイしている間には実装されなかったサイドストーリーか何かかしら。
ゲームでは、五年間をかけてすべての令嬢がガチャ実装された。その際に各令嬢にサイドストーリーも実装されたけれど、ネイリア様にはそういうサイドストーリーはなかった。ストーリーモードの心折令嬢だからか、これは不遇というしかなかった。
ついでに、中ボスとして立ちふさがった後のネイリア様は、メインストーリーからは永遠の退場をしているため、もしかしたらその後に不幸があった可能性はある。育成モードでしか生きて成長している彼女を見られないなんて、バッドエンドまみれの私並みに不幸な方だと思う。
まったく、こんな可愛らしくて素直なお方なのに、これではいくらなんでも可哀想というものだわ。
ただ、そのせいでかネイリア様のことは本当に分からないことが多いのよね。
私が考え込んでいる間も、ネイリア様は私からまったく離れようとしない。様子を見かねたソニア様が、声をかけてくる。
「ほら、ネイリア様。フィストニーナ様から離れなさい。グリフォンを殴った右手は折れておりますのよ」
えっ。
ソニア様の言葉を聞いて私はぞっとした。
やっぱり、折れてたのね、この右手……。
私が青ざめながら自分の右手を見ていると、ネイリア様が私から離れていく。代わりに、ソニア様が近付いてくる。
「まだ修練中ですが、成功することをお祈りいたします」
ソニア様はそう言われると、私の右手に手を添えている。
さすがに、ちょっと触られただけでも痛いわね。
しかし、次の瞬間、ソニア様の手から温かい光があふれ出てくる。これは、治癒魔法?
間違いない。王子告白ルートにおけるラスボスであるソニア様を倒しづらくしている治癒魔法だわ。
だけど、その光に包まれている間に、私の右手の痛みはどんどんと引いていっている。これは、ケガが治っていっているということなのかしら。
ゲームの中では厄介のひと言でしかなかった治癒魔法も、こういう体験をすると、必要な能力なんだと実感させられる。だって、私の骨折を、このように治してくれているんだもの。
骨折を治してもらいながら、私はソニア様にあの後の状況を確認する。
お茶会に参加していた令嬢たちは、公爵家の護衛をつけた上で家まで送り届け、すぐに王家にグリフォンのことを報告し、討伐隊を結成したとのことだった。
「それで、公爵家にグリフォンが現れた理由は?」
私のこの質問には、ソニア様は答えられなかった。まあ、さっきの今で答えられるわけもないか。
とりあえず、みんなが無事だったことを喜ぶしかないわね。
無事にソニア様の魔法による治療が終わり、私は慌てて駆けつけてきた両親とともに家に戻ることになった。グリフォンを撃退してみんなを守ったことは褒められたけど、さすがに無茶をしたのでそこは怒られた。
同時にネイリア様のフィンガルス男爵家もご両親が迎えに来たようで、私たちは公爵家から両親とともに帰ることになる。
その別れ際のことだった。
「あの、フィストニーナ様……」
なにやらネイリア様が、もじもじとしながら私に話しかけてきた。
「本日は、助けていただき、ありがとうございます。もし、もしよかったらですが……」
お礼を言っているのだけど、何か言葉が続いているので、私は黙って聞いている。
「こ、今度、私のお家でお茶会をしませんか?」
唐突なネイリア様からのお誘いである。だけど、彼女のことは分からないことが多いので、これはチャンスと思った私は、その誘いを受けることにしたのだった。




