Round5 折れるものと折れないもの
ネイリア・フィンガルス男爵令嬢。
見た目は小動物系の可愛らしいご令嬢で、平均的な身長である私、フィストニーナよりも小さなキャラクターだ。ころころと表情が変わって、さぞかし人気なのだろうと思うところだけど、意外とこの子の人気はそうでもなかった。
それもメインストーリーのせい。ストーリーモードの最初の中ボスがこの子なんだからね。ストーリーモードでは、それ以降はフェードアウトしてしまって出番がないので、どうして最初のボスとして立ちふさがったのか、その背景がはっきりしていない。
その後のガチャで実装された時も、サイドストーリーが追加された時も結局何も語られなかった。そのため、高ステータスをひっさげて、フィストニーナのストーリーを邪魔するご令嬢との認識が完全に定着してしまい、その可愛らしさの割に人気が出なかった。
ついたあだ名は「心折令嬢」。まったく、可哀想なキャラだった。
その心折令嬢が、私の隣に座っている。ちょっとおどおどしてはいるけれど、挨拶はきちんとしている。育成モードの印象同様、しっかりした子なのね。
「初めまして、ネイリア様。私はフィストニーナ・バイタラル男爵令嬢、ニーナとお呼びください」
いろいろと思うところはあるけれど、ひとまず仲良くすることにしておいた。
拳と魔法の世界なので、後々を考えると物騒なものだけど、基本はきちんとしておかないとね。もし、あのストーリー同様に戦うことになったとしてもよ。
ソニア様やネイリア様に気を取られていて気付いていなかったけれど、よく見れば、他のご令嬢もどこかで見たことのある感じの人たちね。
それもそうか、ガチャでは108人のご令嬢がいたものね。一人は隣国の王女様なので除外しても、107人もいればそれなりにヒットするわよね。
(それにしても、公爵令嬢の開くお茶会に、男爵令嬢が二人もいるだなんて不思議な感じよね。もしかして、順番に誘っていらっしゃるのかしら)
私はお茶会のマナーに気をつけながら、テーブルを囲むご令嬢たちを見る。
どこをどう見ても、このご令嬢たちが、後々に拳で殴り合うとか想像がまったくできない。この世界には魔法もあるとはいえど、どう見ても格闘術に向かないフニフニしていそうな腕。私たちの名前からして、『Grip Fist Graffiti』の世界であるのは間違いないのにね。
(ここまで鍛えてきていた私が、なんか間違っているような感覚になるわ)
私は改めて自分の腕を見る。うん、他のご令嬢と比べても、明らかに太い。
転生が分かって以降、ほとんど毎日欠かさずに筋トレをしてきたものね。私の体は、八歳児とは思えないくらいに、ちょっとむきっとしてしまっている。そのことで、ちょっとばかり私はお茶会の中で気まずく過ごしていた。
そんな心配をよそに、八歳児ばかりのお茶会は終わりを告げようとしている。どうやら、今日のお茶会は本格的な社交界デビューへと向けての顔合わせ的な意味合いだったらしい。
そろそろお開きっぽいので、私はサクルに顔を向ける。どんな感じだったのかを確認するためにね。サクルの顔を見る限りは、特に問題はなかったみたい。
「それでは、本日は楽しかったですわ。さっ、みなさまをお見送りしなくては」
ソニア様はそういって、使用人たちに私たちを送らせようとしたその時だった。
「ケェェェッ!」
「ま、魔物?! どこから!」
なんか空から降ってきた。
いやいやいやいや、なんで魔物が出てくるのよ。ここは王都のど真ん中よ?!
ちょっと、国の警備隊、何をしてたのよぉっ!
確かにゲーム内でも、魔物とのタイマン勝負はあったけどさ、よりによって本編前に起きるなんて思ってみないでしょう!
鷲の頭と翼にライオンの体、この魔物はグリフォンかな。
てか、公爵家の警備隊も遅いぃっ!
「きゃああっ!」
ご令嬢や使用人たちが逃げ戸惑っている。拳と魔法の世界とはいっても急なことには対応できないみたいね。
「やだっ、こっち来ないでよ!」
叫び声を聞いて、私は視線を向ける。
いけない。ネイリア様が狙われているわ。
「ネイリア様、逃げてっ!」
「む、無理……。こ、腰が……」
恐怖で腰が抜けちゃったかぁ。ここにいる人たちは戦力にならないし、公爵家の衛兵たちがたどり着くまではもうちょっとかかりそう。
くっ、仕方がない。ここは鍛えた成果を披露するしかない。
私は覚悟を決めて、ネイリア様の前に立ち、グリフォンと向かい合う。
「さあ、来なさい。私が相手よ」
「ニーナ様、危険です!」
「警備兵を待っていたら、その間に被害が出ます。なんとしても、それは阻止しませんとね」
私はネイリア様に向かってにっこりと微笑む。
グリフォンの方は私の挑発を受け取ったようで、目を血走らせながら襲い掛かろうとしている。でも、なんだかちょっとおかしい感じがするわね。
まあ、いい。とにかく今はネイリア様たちを守らないと。私はぐっと構える。
正直言って怖いは怖い。でも、いずれは拳を振るって戦わないといけないから、魔物との戦いはいい経験になると思う。
「あなたには恨みはないけれど、みんなを守らなきゃいけないし、特訓の成果も見てみたい。ここは一発殴らせてもらいます!」
私はグリフォンに向かっていく。
(真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!)
とにかく何も考えず、最短距離で堂々と! 私の渾身の右ストレートがグリフォンに炸裂する!
「いったーーいっ!」
大人なグリフォンに対して八歳のパンチなど、何の効果があろう。骨折はしていないと思うけれど、完全に当たり負けをしてしまっていた。痛くて思わず叫んでしまう。
ところが、私の一撃は、完全にグリフォンにとっては予想外だったようだ。
「ケェェェッ!」
慌てた様子で、グリフォンは飛び去っていく。
私は当たり負けをした痛みに耐えながら、小さくなっていくグリフォンの姿をじっと見送っていた。
みんなを守れたと思った私は、痛みと安心でその場に倒れ込んでしまった。




