Round4 お茶会に誘われて
気が付けば私も八歳になっていた。
フィストニーナになってもう三年が経過したというわけね。
私は前世の影響もあって特訓は嫌がったけれど、部屋の中にトレーニング用の道具を増やし回っていた。パンチングボールを作ったのはやりすぎたかしらね。
対人の特訓ができなくても、鍛える方法はいくらでもある。そこから少しずつこの世界のルールになじんでいかなくちゃね。
五年後に迎えることになる乙女ゲームのメインストーリーに向けて、私は着実に準備を進めている。おかげで、この年齢ながらすでにしっかりと力こぶが作れるくらいにはなっていた。これなら、きっと最初のネイリア・フィンガルス男爵令嬢との戦いは楽になるだろう。
そんな私だったけれど、ある日のこと、お茶会の誘いを受け取った。
すっかり忘れていた。拳と魔法の世界とはいえ、この世界は貴族社会。そう、貴族同士の付き合いの基本は、このお茶会だということを。
私は差出人の名前を確認する。
『ソニア・バトリョーシカ公爵令嬢』
乙女ゲーム『Grip Fist Graffiti』におけるLRのキャラクターの一人だ。
全部で108人登場するガチャのキャラクターは、その爵位によってレアリティが割り当てられている。
男爵令嬢がレア(R)、子爵令嬢がスーパーレア(SR)、伯爵令嬢がウルトラレア(UR)、辺境伯令嬢、侯爵令嬢、公爵令嬢、王女はレジェンダリーレア(LR)と割り当てられている。
まあ、私は全員が確実に手に入れられるメインストーリーのヒロインだから、レアリティはノーマル(N)なんだけどね。男爵令嬢なのに、なんで私だけこうなのよ。
というわけで、爵位的にもゲーム中の能力にしても、私よりも格段に上の人物だ。だというのに、私のところにまで招待状を出してきた。名誉といえば名誉なんだけど、どうしたものかしら。
お母様やサクルに相談をしてみた結果、「行け」という判断だった。ですよねー。
よっぽどの事情がない限り、上の立場の人からの誘いは断れないもの。それが貴族社会なのよ。
仕方がないので、私はサクルに付き添ってもらってお茶会に向かうことにした。
お茶会当日。
「わぁ……」
私はバトリョーシカ公爵邸の大きさに立ち尽くしていた。
これが、爵位による財力の違いというものだろうか。いや、うちの男爵邸だって決して小さくはない。小さくはないけれど、庭の広さからして違いすぎた。門から屋敷が見えない。こっわ。
門番に招待状を見せると、私たちは中に入ることができた。
お茶会の会場は、途中にある噴水の右手だそう。というわけで、私とサクルは言われた通りの場所へと向かって歩いていく。
予想通りにかなり歩くことになったけれど、普段から走って鍛えている私にはまったく問題にならなかった。
到着すると、輝く金色の前髪を全部上げておでこを丸見えにしている少女がいた。この子こそ、今回のお茶会の主催であるソニア・バトリョーシカ公爵令嬢。
(うわぁ、公式立ち絵をそのまま小さくした感じだわ。可愛いしきれい)
私は思わず立ち止まって見入ってしまう。
「お嬢様」
「あっ」
私はサクルに小突かれて我に返る。
お茶会に招待をされたのだから、きちんと挨拶をしなければならない。
「本日はお招きに与り光栄でございます。フィストニーナ・バイタラル男爵令嬢でございます。お初にお目にかかります、ソニア様」
私は精一杯のカーテシーをして、ソニア様に挨拶をする。普段から鍛えているから、この程度の動きはなんのその。私はきれいに決まったと自画自賛だ。
「ようこそおいで下さいました。わたくしはソニア・バトリョーシカでございます。フィストニーナ様を席にご案内してあげて」
「かしこまりました、ソニア様」
ソニア様の家の使用人の案内で、私たちは自分の席へと向かう。
このお茶会、十人掛けの円形のテーブルが一台置かれている。結構人数を呼んだみたいね。
お茶会の主催であるソニア様は、ストーリーモードにしても育成モードにしても、当人以外のシナリオでは、王子を攻略する際に最終ボスとして君臨する。彼女を超えなければ、この国の王子であるグリフィス殿下と結ばれることはない。
見た感じではおしとやかないかにも令嬢という感じの女性なのだけど、なんとも最終ボスらしくスキルが豊富。回復魔法まで持っているから、高火力で押し切るしかないという相手だったかな。
使用人の後ろを歩きながら、私はちらちらとソニア様の方へと視線を向けていた。
「あの……、初めまして」
いろいろとソニア様のことを思い出しながら歩いていた私に呼びかける声が聞こえてくる。誰かと思って顔を向けてみる。
そこにいたのは、私よりも小さい実に可愛らしい少女がいた。
だけど、この少女を見て、私はそれが誰だかすぐに分かってしまった。
軽く波打った薄い茶髪のいかにもおとなしそうな少女。その少女は席を立つと私に挨拶をしてきた。
「ネイリア・フィンガルス男爵令嬢でございます。本日は隣の席に座らせていただきます」
そう、私に声をかけてきたこのご令嬢こそ、数多のプレイヤーの心を折り続けてきた通称『心折令嬢』ことネイリア・フィンガルス男爵令嬢なのだった。




