Round54 黒幕の存在
気を失ったスラステア様を医務室まで運んだ私たちは、人払いをした部屋に集まっている。
それというのも、スラステア様に取り付いていた虫について話をするため。
ドレスがボロボロになるほどに膨れ上がったからだといい、牙の生えた顔といい、おおよそ令嬢らしからぬ状態になってしまっていた。
ゲーム中では普通の令嬢のグラフィックだったけれど、もしかしたら、あんな感じの状態になっていたのかもしれない。
ネイリア様も、同じだったかもしれないと思われるわね。だったら、あの高ステータスも納得がいくというものだわ。
なんとも重苦しい空気の中、殿下がファブニールに声をかける。
「ファブニール、そろそろ説明をしてもらってもよいでしょうか」
「うむ。では少しずつ話をするとしよう」
ファブニールは、いよいよ虫のことについて話を始める。
スラステア様についていた虫は、魔王と呼ばれる存在の配下にいる虫使いが取りつかせたものらしい。
今回の虫は、心に秘められた負の感情を増幅させるというもので、スラステア様は私への感情を強く抱いていたらしく、それを増幅させられたという。
だけど、どうして夜中の内に襲ってこなくて、一度外へと飛び出していったのだろうか。これがまったく分からない。
ファブニールの推測では、虫につかれる最中に心の抵抗にあったためではないかということらしい。つまり、私への敵意とスラステア様の理性とがせめぎ合い、その混乱によって外へと飛び出していったのではないかということだった。
「虫使いの力は思ったよりも弱い。だが、虫に支配された対象は、凄まじい力を手に入れるのでな。魔王はおそらく、じわじわこちらをいたぶって遊んでいるということなのだろう。自分が出てくれば、一瞬で終わるからな」
「なんて奴なの」
私たちは、魔王に対して強い憎悪を抱いた。
裏で人を操り、弄び、その様子を見て愉悦に浸っているなど、誰が許せるというものだろうか。
しかし、その肝心の魔王の所在については、ファブニールですら知らないという。
かつて、自分の集めた財宝の類を狙ってきた魔王の配下といざこざがあり、その際に少しだけ戦って引き分けたという実績があるくらいなのだという。
なんにしても、ろくでもない連中だということは間違いなさそうだ。
(それにしても魔王かぁ……。ゲーム本編では一切語られなかったけれど、そんな存在がいるんだったら、あれだけいろんなトラブル系のイベントが用意されているのも納得がいくわね)
本編中には実際にいろいろと問題が起きるのは本当の話で、それらについては黒幕が語られることはなかった。
その問題の一つが、今は私の家で執事をしているエル・ドゥラードの獣人の国が滅ぼされたこと。それとは別に、本編三年間が終わった後の拡張イベントでも、大きな出来事がある。
それが、隣国のグラプラー王国の侵攻。本当にあれも、唐突に発生するのよね。
侵略戦争が発生するパターンと未然に防げるパターンがあるけれど、どちらをたどっても攻略対象としてグラプラーの王子が解放される。彼の攻略の障害となるのが彼の妹の王女だったわね。
二人揃って高火力だから、このパターンにぶち当たった人たちはみんな苦労してたっけかなぁ。
あっ、その王女はガチャキャラの一人なんで、育成モードでは留学生として出てくるのよね。高火力だけど、判断と敏捷が悪いんで、トリッキーなキャラになっていて使用率はそうでもなかったかな。
私が前世のことに考えが巡っていると、殿下たちはずいぶんと考え込んでいるようだった。
「つまり、今回のことのように魔王はちょっかいをかけるような感じで、我が国を亡ぼすために手を出すようになってくると?」
「まあ、そう考えてもらってよいだろう。ただ、どのような形で手を出してくるのかは、さすがに俺も分からん。奸計を吹き込んでくるやもしれんし、今回のように何かしら悪い心を持ったやつを利用するやもしれんし。はぁ、あいつの考えていることなど知りたくもない」
殿下の質問を肯定しつつ、ファブニールはいろいろと可能性を考えているようだ。だけど、魔王に対しては一度敵対したこともあってか、相当嫌っているみたいね。
でも、そうやって人を利用してくるのなら、私だって嫌いだわね。
みんな仲良く和気あいあい。脳内お花畑といわれても、私はそれが一番だと思っているもの。
そんなわけで、魔王という存在への警戒が私たちの中で強まったわけだけど、殿下たちはさらにファブニールから話を聞くために一度場所を変えることにしたみたい。
私とネイリア様は引き続き、スラステア様の横について、彼女が目を覚ますまで見守り続けることにした。
なにぶん、スラステア様があんなことになったのは、私への感情が原因のようなんだもの。だったら、私と一度話をする必要があると思うからね。
それにしても、私たち人間を弄ぶとは、魔王とかいうやつは許せないわね。
いずれ直接対決するようなことがあれば、この私が鉄拳制裁をしてあげるから、覚悟なさいよね。
私は拳にぎゅっと力を込めた。




