Round53 裏に潜む影
スラステア様との二度目の拳の応酬になる。
さっきは私がリーチの差で負けてしまい、スラステア様の一撃を、魔法でどうにかしたとはいえどもろに食らってしまっていた。
だけど、さすがに二度も同じ結果にしてやられてしまうわけにはいかなかった。
とっさの判断でそれが実行できるか分からないけれど、私はやるしかないのである。
「二度も同じ目に遭うもんか!」
私は右の拳を放ちながら、首を左へと傾ける。
すると、スラステア様の拳が私の右頬をかすめながらも、見事命中を回避。私の右拳は止まることなく、そのままスラステア様の顔面を捉えていた。
「ウガァッ!」
よりにもよって、スラステア様は私の拳を顔面の真正面から食らっていた。
うっわぁ、痛そう。
だけど、私はそこで拳を止めない。
「スラステア様、気絶していて下さい!」
私は顔面に当たったところで拳を止めることなく、そのまましっかりと拳を振り抜いた。
スラステア様はそのまま派手に吹っ飛び、地面へと倒れ込む。
そうかと思えば、脳震とうを起こしたのか、そのまま地面でぴくぴくとけいれんを起こしていた。
「ふぅ……」
どうやらしっかりと決着がついたようで、私は肩で息をしながらも、やっとこさ安心できたのだ。
だけど、そのまま呆けるつもりはない。
どうしてスラステア様がこのような化け物のような姿になってしまったのか。それを解明する必要があるんだもの。
「あれ……?」
私がひょっこりと顔をのぞかせると、スラステア様の体が元の状態に戻っていく。
それと同時に、耳からひょりと何かうごめくものが飛び出てきた。
(これは……虫?!)
気持ち悪い動きを見せる、虫のようなものが出てきた。
逃がしてなるものかと、風魔法を使ってしっかりと捕まえる。直接触るのは気持ち悪いし、何かあったら怖いから、三重に空気の層を作って捕まえてやった。二重じゃなくて三重よ。
すっかり元の姿に戻ったスラステア様を眺めていると、ようやく人を呼びに行っていたネイリア様が戻ってきた。
だけど、連れてきた人を見て、私は思わずぎょっとしてしまう。
「ぐ、グリフィス殿下、ソニア様?!」
よりによって、未来の国王とその将来の伴侶を連れてくるのかい。一応、教官と騎士もいるけれど、状況から考えた場合、その選択肢はよかったとは言えないわよ、ネイリア様。
「無事だったのかい、フィストニーナ嬢」
「はい、殿下。どうやら、スラステア様が奇妙な虫に取り憑かれて、化け物となっていたようです。こちらがその虫ですけれど、危険性があるということで、風魔法で三重に層を作って封じてあります」
私はその風魔法を手に取っている。
「なんだ。これは魔界の虫じゃないか」
「うわぁ、ファブニール!?」
教官の中に紛れて、ファブニールがひょっこりと顔を出してきた。
ってか、魔界の虫って何よ。そんな設定、『Grip Fist Graffiti』の中では見たことも聞いたこともないわよ。
「ファブニール、その魔界の虫っていうのはなんなのですか」
「ああ、言葉の通りだ。魔界に住んでいる虫の一種で、取りついた相手の憎悪の感情を増幅させて魔物に変えてしまう虫だ。見た目もこんな感じだし、取りつかせる時も耳から出し入れするんで、とてもじゃないが見たくもない光景だな」
マジで気持ち悪いやつじゃんか。
にしても、そんな危険なもの使った連中がいるというわけか。でも、なんだってスラステア様に取りつかせたのかしらね。
戦っている最中に、私に対する強力な殺意を放っていたのは知っているんだけど。
「背後に魔王がいるのは間違いないな。あいつの部下に、あらゆる虫を使うやつがいたのでな。大昔に半殺しにしてやったが、しぶとく生き残っていたか」
「ファブニール。あなたは一体何を言っているんですか」
殿下たちの前だということを忘れて、私と二人っきりの感覚でしゃべってんじゃないわよ。
「俺はただの宝集めが好きなドラゴンだ。だが、その最中に何度となく魔王にちょっかいをかけられたことがあってな。その時に虫使いの姿を見たことがある」
こいつ、さらりと自分の正体を明かしやがった。
私は殿下たちの方を見てみると、やっぱり驚きであんぐりと大口を開けている。
しかし、ファブニールは構わずに話を続けている。
「フィストニーナ、そいつを寄こせ。生かしておいても面倒だ。研究だけなら殺した状態でも問題はないからな」
「わ、分かったわよ」
そういうわけで、私は風魔法に包み込んだままの虫を、ファブニールへと手渡す。その次の瞬間。
「ふんっ!」
ファブニールはその拳で、虫を無残な姿に叩き潰していた。
なんともさらに描写できない状態になってしまっている。
あまりに気持ち悪い状態に、私は吐き気がしそうになるし、ソニア様とネイリア様は気絶しそうになっていた。
なんにしても、学生が一人行方不明になった事件は、こうして無事に解決した。
ただし、その背後にはとんでもない存在がいることが分かり、事態はより深刻さを増している。
被害者は実質一人だったとはいえど、止められなかったらもっとひどい状況になっていた可能性はある。
こんな段階で止められたのは、はっきりいって不幸中の幸いだったでしょうね。




