Round49 拳だけの歴史
無事にゲーティス辺境伯家の好感度を上げてしまった翌日のこと、この世界のこの異常な状況の原因を探るべく、学園の図書室にやって来た。
いやぁ、昔からも気になってはいたんだけど、やっぱり改めて辺境伯家の訓練を見ていたら、なんで拳と魔法だけなのかというのが気になってくるのよ。
図書室にやって来ると、私は歴史書のある辺りへと向かう。そこから適当な書物を引っ張り出すと、図書室に備え付けの読書スペースへとやって来る。
(適当に選んできたけれど、何か分かることがあるかしらね)
椅子に座り、最初の一冊目から順番に目を通すことにする。
「あれっ、フィストニーナ様って、歴史に興味がおありですか?」
読書をし始めてからしばらくすると、私は声をかけられる。
声に反応して顔を上げると、そこにいたのは緑色の髪の毛を三つ編みにして眼鏡をかけた女子学生だった。
この子のことはよく覚えている。この『Grip Fist Graffiti』における数少ない眼鏡キャラだもの。
ブクリナ・インテリージュ子爵令嬢。敗北時の立ち絵で、眼鏡が外れて『3』の目をさらしているギャグみたいな扱いをされている。
しかし、今の私はこの子とは初対面。名前を呼ぶわけにはいかない。
「えっと、私のことはご存じなのですか?」
「はい、あの決闘はとても印象的でしたから」
ああ、なるほど。ディザリア様との決闘をご覧になっていたのか。あれのせいで、私はすっかり有名人になっているようだ。
「申し遅れました。私はブクリナ・インテリージュです。父は子爵です」
「フィストニーナ・バイタラルでございます。初めまして、ブクリナ様」
向こうが名乗ってくれたので、私は名乗り返す。
「フィストニーナ様、ずいぶんと歴史書ばかりをお持ちになっておられるのですね」
「ええ。改めてなぜ戦いには拳と魔法だけを使うことになったのかということが気になりまして。道具を使った戦いをしない理由というものを探りに来ました」
「確かに、そうでございますね。せっかくですので、私もご一緒してよろしいでしょうか」
私が理由を話すと、ブクリナ様も興味を抱かれたのか、読書を一緒に行ってくれることになった。
よかった。一人で読むには本をたくさん持ってき過ぎてしまったもの。少しでも労力が分散するのであるのなら、それに越したことはないわ。
「はい、よろしくお願いします。この通り、数を持ってき過ぎてしまいましたので助かります」
積まれた本の数を見て、ブクリナ様は笑っている。
さすがはガチャキャラ108人の中の一人。笑顔がまた可愛らしい。
眼鏡をかけていて笑顔が素敵な彼女ですらも、ゲーム中では拳で戦うという姿を披露してくれる。まったく、なんて罪深いゲームなのかしらね。
「フィストニーナ様、どうかなされましたか?」
「いえ、なんでもございません。それでは、早速読んでまいりましょう」
ついゲーム内描写が頭をよぎってしまって、ブクリナ様の顔をじっと見つめてしまっていた。それに気づかれて、声をかけられてしまったので、私はごまかすように本へと再び視線を落とす。
私の態度を訝しんだのか、ブクリナ様は首を傾げているみたい。
不思議な視線を向けられつつ、私は本を読み続けていた。
今日一日を使って読み続けた結果、どうやら、大昔の建国の王が影響していることが判明する。
なんでも、その身一つで当時の戦争状態にあった現在のボクシス王国の範囲内を統一してしまったのだとか。その時の攻撃手段こそ、拳。
つまり、建国の王の武器が拳であったことから、そのことに敬意を払い、今では拳を使った戦いだけが残っているということらしい。
まったくなんて破天荒な王様なのかしらね。武器を使った戦いを全否定してみせたわけだもの、普通の人じゃなさすぎる。
「まぁ、大昔には武器を使った戦いというのがあったのですね。これは知りませんでした」
「そうですね。でも、そのような事実を示す書物が、このように学園の中に存在しているというのも、なんとも不思議な感じがしますね」
「確かに、そうですね」
冷静に考えるとおかしな話である。
現在のボクシス王国では道具を使った戦いというのはタブー視されるので、こういう書物は禁書にでもして人の目に触れないところにしまい込んでいそうなものよ。
それが、学園の書庫の中に、誰でも閲覧できる状態で置かれているというのは、本当に考えられない。
一体、誰が何のためにこんなことをしているのかしら。謎は深まるばかりである。
「っと、一日読書に耽ってしまいましたね。うっかり授業をさぼってしまいましたし、今日のところは帰ることとしましょうか」
「本当ですね。もうそんな時間になってしまっていたのですか」
私は立ち上がって、本を元の位置に戻すことにする。一緒に読書をして下さったブクリナ様も手伝ってくれる。
それにしても、確かに外は既に日が傾き始めている。思った以上に読書にのめり込んでしまっていたらしい。
こんなに本を読んでいたなんてのは、前世の私にはあったかしらね。
不思議な気持ちになりながら、私たちはきちんと本を元の位置に戻すと、図書室を後にする。
「また、ご一緒に読書をしましょうね、フィストニーナ様」
「はい、その時は喜んで」
私たちは約束をして、その日は別れた。
読み友だちができた瞬間だったのだが、この時の私はあんまり気にしていないのだった。




