Round48 推しと騎士に囲まれて
気がついたら、私はゲーティス辺境伯邸の訓練場に立たされていた。一体何がどうなってこうなった。まるで狐につままれた気分だわ。
さっきまでお茶会をしていたはずなんだけど?
私の視線の先では、バトリシア様がファラン様に文句を言っている光景が見られる。
わぁ、推しとその妹による兄妹ゲンカだわぁ……(棒)
ゲーム世界では味わえない不思議な光景を目の当たりにして、私はどのような反応をとっていいのかまったくわからなかった。
そうやって呆然としていると、バトリシア様が私のところへとやってくる。
「申し訳ございません、フィストニーナ様。私は拳を交えたいとは申しておりましたが、お兄様ってば、フィストニーナ様を騎士たちと戦わせようとしているのです」
バトリシア様の仰れた言葉を聞いて、私の後ろでは宇宙空間が広がっている気がした。
確かにこの世界は拳がすべてを決める。決めるとはいえど、さすがに同意もないまま、勝手に令嬢を騎士の訓練に参加させるのはどうかと思うのよね。
いやはや、ファラン様の思わぬところを見た気がするわ……。
それで結局、私は辺境伯邸の騎士たちの訓練に参加することになってしまった。まあいいわ、対人戦のいい練習だと思いますかね。
で、最初は結局見学からスタート。
さすがにご令嬢をいきなり騎士の中に投げ込むような真似はしてこなかった。そこはちゃんとしてくれているみたい。
とはいえ、小さい頃にも見たのよねぇ、辺境伯領内で。
改めて見てみても、鎧を着込んでの拳での殴り合いは、不思議な光景だと思うわ。
こういうファンタジー世界だと、剣を持ってキンキンキンって感じでぶつけ合うんだけどね。この世界はよりよって戦いには拳しか使わない。蹴りもない、頭突きもない。あるのは拳と魔法だけ。
そんなわけで、戦いは見事に地味といわざるを得ない。それでも、使えるものを使っての工夫というものはちゃんと見受けられる。
「えっと、フィストニーナ嬢だったかな。ちょっといいかな」
「なんでございましょうか、ファラン様」
私は、ファラン様に呼ばれてしまう。
「ちょっと君の拳を見せてもらいたいんだ。もちろん、魔法を使ってもらっても構わない。ディザリア嬢との決闘で見せた君の拳を見せてもらいたいんだ」
何かと思えば、私の拳を見せてみろという話だった。
この様子では、あの時の決闘を見に来ていたのだと思われる。
さすが国境での戦いに明け暮れる辺境伯の一族。戦いがあるところにその姿があるというわけだ。
あれを見られていたのならば、どう転んでも披露をせざるを得ない。
バトリシア様もそんなに目を輝かせないでくださいな。
こうも好奇の目を周囲から向けられれば、私はやるしかない。だったら見せてやるわよ。その目をよく凝らしてご覧くださいな。
なーんて思っていたら、目の前にはファラン様が立っている。
これはつまり、ディザリア様との戦いで見せた、拳を相殺し合うあれを見せろというわけね。
あれって、実はかなり高い格闘センスを求められるんだけどなぁ……。とはいえ、目の前でやる気になられてしまっては、要求に応えるしかなかった。
「では、ファラン様が拳を打ってきて下さい。力を調節して、相殺し合いますので」
「分かった。でも、無理はしなくていいよ」
ファラン様は気遣ったような言葉をかけてくるものの、態度はどう見たって本気モードだった。やーめーてー。
とはいえ、こちらもドラゴンであるファブニール直々の指導で身につけた格闘センスがある。ええい、どうにでもなれ。
やけくそになって構えると、ファラン様が早速動き出す。ああ、本当にやる気満々じゃないのよ。何度かのサイドステップからのフェイント挟み、私の正面へと飛び込んでくる。
(速い!)
私との距離をあっという間に詰めたかと思うと、その拳に力が入る様子が見受けられた。
(くるっ!)
ファラン様の体が静かに沈み込む。次の瞬間、ファラン様から攻撃が繰り出される。
私はすぐに反応し、拳をしっかりと見定める。魔法もかぶせて、うまくファラン様の攻撃を潰すのよ。
「やああああっ!」
覚悟を決めた私の攻撃は、ファラン様の攻撃を迎え撃つ。
しかし、ディザリア様の時と同じようにはいかなかった。半分くらいは相殺できなかったのだ。やはり、相手の攻撃をうまく潰すというのは不可能だったわ。
「やぁ、参ったね」
そうすると、ファラン様はそんな風に言葉を漏らしていた。
「結構本気で拳を打ったのに、半分くらい潰されちゃったか。やはり、君の格闘センスは半端ないね」
ファラン様は、半分ほど迎撃されたことを悔しがっているようだった。
そ、そんなに悔しいんだ。
私がその様に思っていると、他の騎士たちの様子もなんだかおかしい。かなり激しく動揺しているようなのだ。
「すごいですよ、フィストニーナ様。お兄様の攻撃にここまで対応できるだなんて!」
バトリシア様もなんだか興奮している。
かなりミスってしまったと思ったのだが、どうやら辺境伯家の中では評価がまったく違うようだった。
なんにしても、私はそれなりの評価をされてしまったようで、この後はしばらく、辺境伯家の騎士たちに囲まれてしまうことになったのだった。




