Round46 決闘から一夜が明けて
結党から一夜明けて、私はいつものように目を覚ます。
目が覚めれば、サクルが用意してくれた洗顔用の水を使ってしっかりと目を覚ます。
「はぁ、朝は気持ちいいんだけど、気持ちは憂鬱だわ……」
私がこんな風に漏らすのには理由がある。
実は昨日、あの後はとにかく大変だった。
ディザリア様を一方的に打ち負かしたのはいいんだけど、そのケガを治す時に、回復魔法を使ったことで大騒ぎになってしまった。いやぁ、ここまでとは思ってもみなかった。
私はなんだかんだといって、決闘を終わらせるととっとと家に戻らせてもらった。
その場からは逃げたとはいえど、その後どうなるかなんてまったく考えてなかったからなぁ。
なので、今日は学園をずる休みしたい気分となっている。
だけど、それじゃ結局先延ばしになるだけだし、もしかしたら家に誰か詰めかけてくるかもしれない。だったら、学園に向かうのが一番というもの。
そう、私は諦めた。
学園に到着した私は、校門からすでに昨日の洗礼を受けている。
「おはようございます、フィストニーナ様」
「えっと……。おはようございます、ディザリア様」
学園に到着すると、なんてことはない、ディザリア様の待ち伏せを受けていた。
昨日の決闘で軽くあしらったことと、負ったケガを治したこと、それに加えて私が無礼を許したことで、すっかりとこの通りになってしまっていた。
なんていうか、これじゃもう信者の状態よ。
ええ、私は頭が痛かった。
そこへ、遅れてやって来たソニア様が姿を見せる。
「おはようございます、フィストニーナ様」
「おはようございます、ソニア様」
「さぁ、さっさと教室に行きましょう。ディザリア様はクラスが違いますから、ついて途中でお別れくださいな」
「はい、もちろんでございます」
挨拶を交わしたソニア様は、ディザリア様もしっかりと対処をしていた。
下手に引き離すよりは、途中まで一緒にいさせるという方法を取ったのである。こうすることで、ディザリア様を満足させつつ、自分に対してヘイトが向かないようにしているのだ。さすがは公爵令嬢、人心の扱いはお手の物といった感じだった。
約束通り、クラスの違うディザリア様は途中で名残惜しそうに別れていく。
教室にやって来ると、私のところにご令嬢たちがわっと集まってきた。まるで餌に群がる動物たちを見ている気分だった。
みんな口々に昨日の決闘のことを話している。うまく聞き取れないけれど、雰囲気から察するにそういう感じだった。
ところが、そんなクラスメイトたちだけれど、とある人物が登場すると、ぴたりと話が止まる。
何が起きたのかは、すぐに分かった。
「やぁ、フィストニーナ嬢、おはよう」
「おはようございます、グリフィス殿下」
そう、いわずもがな王太子の登場よ。彼が現れたのであるならば、そりゃ誰だって引き下がるというもの。王族相手に失礼は働けない。
「すごかったね、昨日の戦いは。まさか、相手の攻撃をすべて同じように拳を繰り出して受け止めてしまうとはね。普通は一発一発躱すはずなんだけどね」
「うっ……」
実に鋭い指摘だと思う。
そう、私はディザリア様が繰り出した拳を、すべて同じ位置に拳を繰り出してすべて相殺してしまった。これは普通ではできる芸当ではないというのは、私だって重々理解をしている。
でも、なんでそれをしたかっていうと、逃げるという選択肢がなかったから。バッドエンド回避をするためには、すべての拳を受け止めて勝つのが一番だろうと思ったのよね。
逃げはそれだけ評価が下がってしまうというリスクがあるんだもの。こういう選択肢になるのはしょうがないと思うのよね。
だけど、それを実行しようと思えば、相当に高い技術力が求められる。だからこそ、対人戦の特訓をファブニールとエルに手伝ってもらったというわけね。昨日の戦いは、その特訓がきちんと実を結んだ証であるということね。
他の人たちには聞かれないように、私はグリフィス殿下とソニア様だけに話をする。
さすがにネイリア様にはお話しできないわ。夏休みに戦う可能性がある相手なんですからね。変に技術を教えてイベントの難易度をあれ以上上げられても困るんだから。
ちなみにだけど、ネイリア様は空気を読んで、グリフィス殿下とソニア様からは距離を取っている。彼女も私と同じ男爵令嬢ですものね。さすがに王太子と話をするというのははばかられるというわね。
「それはそうと、君は最後にディザリア嬢のケガを治したそうじゃないか。ということは、フィストニーナ嬢は、回復魔法が使えるということでいいのかな?」
「うっ……」
やっぱり話がいっている。
どうしよう、さすがにごまかす手段は用意できていないわ。ここはどうするのが正解なのだろうか。
グリフィス殿下に迫られた私は、答えに窮してしまう。
悩み抜いた私は、二人にこっそり耳打ちをすることにした。秘密を守ってもらうためにもね。まあ、あれだけの目撃者がいるので、ごまかし切れるわけではないんだけどさ。
そしたら、二人とも黙ってくれることを約束してくれた。話をしてみるものだわね。
だけど、これがまた、私とソニア様との間で起きている争いに大きな変化をもたらすことになるとはね。この時の私は、いろいろと見通しが甘すぎたようだった。




