Round44 拳の決闘
そして、いよいよ決闘の日がやって来た。
会場は学園の訓練場……ではなく、なぜかお城の訓練場。
学園の訓練場では、見学人を入れることができないので、公正な判定を下すために、たくさんの人が入れるお城の訓練場を使うことになったのだとか。なんでそういうことになるのよ。
「なにこれ、私とディザリア様の決闘って、王国中に見られるわけ?」
お城まで連れてこられたと思ったらこれだものね。これこそ公開処刑じゃないのよ。まったく、いい趣味してるわ。
「だっはっはっはっ。これいい余興だな」
「他人事だと思って笑わないでよ。負けた方がいいさらし者になるだけじゃないのよ。家族も含めて」
ファブニールは思いっきり笑っている。
だけど、フィストニーナはイベントで敗北をすると、そのままバッドエンドまっしぐら。イレギュラーイベントとはいえど、これも私は負けるわけにはいかないというわけなのよね。イベントはイレギュラーでも、結果がイレギュラーとは限らないんだもの。
「お嬢様、絶対に負けないで下さい」
ファブニールの態度のせいで不機嫌になっていた私だけど、エルのおかげでだいぶ持ち直してきた。
ああ、獣人の心は温かい。
そうしている間に、私は呼ばれてしまった。どうやら、決闘がもう始まってしまうようだ。
「それじゃ、私は行ってくるわね」
「おう、思う存分暴れてこい」
「どうかご無事で」
ファブニールとエルに見送られながら、私は訓練場のど真ん中に出ていく。
反対側からは、私にケンカを売ってきたディザリア様が歩み出てくる。子爵令嬢ではあるものの、その態度は実に大きなものだわね。それだけ、この勝負に自信があるというわけなのね。
だけど、私だって負けるわけにはいかない。私のため、ひいては家族のため。そう、私には負けられない理由があるのよ。
訓練場に出た私は、周りを確認する。
周囲にはとにかく国中の貴族が集まっている。さすが娯楽のない世界は、暇人だらけだ。私たちの決闘というのも、貴族たちにとってしてみれば数少ない娯楽のひとつ。こんな状況になるのも当然というわけ。
訓練場のど真ん中には王族のための席もある。そこには国王陛下と王妃殿下、それとグリフィス殿下が勢ぞろいしている。
……王族までみんないるのね。
この状況には、さすがに呆れるというものだわ。
でも、これだけの観客がそろってしまっている以上、私はますます負けられないというものだわ。特訓の成果というものを、ここで見せつけてやろうじゃないのよ。
とにかく私は気合いを入れている。
決闘である以上、この戦いには審判がつく。
気絶するか、相手が参ったをするか、審判が止めて判断をするかで勝敗がつく。
ちなみになんだけど、拳と魔法の世界なので、女性同士や、男性と女性との間の決闘もそれなりに行われる。男女間はだいたいあの話題。まあ、想像に任せるわ。
私とディザリア様は、中央に出て歩み寄る。
ちょっと攻撃をしようものなら、その攻撃は届いてしまいそうだ。それくらいの至近距離なのよ。
だけど、審判が合図をするまでは、一切の攻撃は許されていない。なので、私たちはただ睨み合うだけ。
「構え!」
審判がこういえば、私たちはそれぞれファイティングポーズを取る。ご令嬢がドレス姿で拳を構える様は、なんとも不思議な気分になるわ。
だけど、余計なことは考えていられない。私はこの戦いに勝つのよ。
「始め!」
審判の声が響き渡り、いよいよ決闘が始める。
「フィストニーナ様、お覚悟を!」
合図とともにディザリア様が突っ込んできた。何も考えていない玉砕覚悟の突進のように思える。
拳で戦うわけだから、接近は当然なんだけど、だからといって真正面から突っ込んでくるとは誰が思ったかしらね。何も考えてないの?!
本気でやれば、多分一瞬で終わる。
それじゃあ、面白くないし盛り上がらない。じゃあ、ちょっとだけディザリア様にも華を持たせなきゃ。
私は拳をぐっと構える。
「やあっ!」
ディザリア様が拳を真っすぐ放ってくる。それを私は合わせるように拳を放って相殺する。
対人戦はまだ苦手だけど、このくらいの芸当はやってのけられるわよ。どんだけファブニールに付き合わされたことか。
こうしてやれば、はたからは拳の応酬に見えるから、白熱した戦いを演出できるのよ。
「な、なかなかやりますね」
しばらくすると、ディザリア様が攻撃をやめて距離を取っている。
あれっ、もしかしてもう終わりなのかしら。
と思ったら違ったみたい。ディザリア様は、自分の拳に火をまとわせている。ディザリア様は、火属性を扱うのね。
「これは使いたくなかったけれど、あなたは絶対に許さないから、使ってやるわよ!」
なにやら大技のようだ。
私はどっしりと拳を構えて攻撃に備える。
「燃え尽きなさい! バーニングストレート!」
ディザリア様の拳から炎の拳が飛び出してくる。おおっ、飛び道具。
だけど、飛び道具なら私の方が得意なのよね。
「風よ」
私は拳に風をまとわせる。
加減を間違えると、周囲やディザリア様に被害が出る。なので、風の威力を調整してしっかりと構える。
「やああっ!」
ディザリア様の炎の拳を包み込むような風を、私は拳から一気に放つ。
私の風と、ディザリア様の炎がぶつかり合う。
さあ、勝つのはどちらかしらね。
拳から放たれた魔法同士は、しばらくそのままぶつかり合っており、会場中が息をのんでその光景を見守っていた。




