Round42 イレギュラーイベント発生!
満を持して最後に登場したのは、グリフィス・ボクシス王太子殿下。
本来のシナリオならば、フィストニーナがグリフィス殿下に遭遇するのは、昨日の帰宅前のトラブルは初めて。それをスルーしていた場合でも、必ずこの試験の会場で会うことになる。
今のは私は既に8歳の時にお会いしているので初めてではないけれど、13歳まで成長した殿下は、もう見るからに王子らしくて油断をするとそのまま落とされてしまいそうになる。これがイケメンの破壊力。
この手の類の王子というのは、結構ダメンズになったりするものだけど、グリフィス殿下は実に実直で真面目に育ってくれた。ファブニールが魔法の手ほどきをしてのだけれど、かなりしっかりと魔法を覚えていってくれていたわね。
その真っすぐで努力家の殿下が、今から私たちの目の前で鎧に拳を一発入れる。
はっきりいって、この『Grip Fist Graffiti』でなければ見ることのできないシーンだと思うわ。通常なら、大体剣を握っているもの。
「では、グリフィス殿下、お願いします」
「はい!」
試験官である教師に声をかけられ、グリフィス殿下は元気に返事をしている。
しっかりとファイティングポーズを取って、殿下はまさに今から、目の前の鎧に渾身の拳を叩き込もうとしている。
(ファブニールが魔法と拳を見ていたから、きっと殿下なら素晴らしい結果を出して下さるでしょうね)
私たちはその様子をじっと見守っている。
そう、今まさに、全員の視線が、殿下の一撃に注がれている。
構えたグリフィス殿下の右手に、光が集まっていく。
やはり、王族は光属性の魔法を使うみたいね。
これは、ファブニールとの間で特訓をしている時に分かっていたこと。グリフィス殿下は光と風の属性に適性がある。
「おお、あれは」
「光属性だわ」
「さすがグリフィス殿下」
光属性を発動させているだけで、周りが騒がしくなっている。
光属性だけなら、ソニア様も中程度のランクを示していたんだけどな。これも王子ゆえの補正なのかしらね。
「やああっ!」
利き腕である右手で、しっかりとストレートを繰り出す。
結構しっかりとした金属音が響き渡る。これだけの音がするっていうことは、かなり強力な一撃で間違いない。
『拳ランク高、風属性稍高、光属性高』
おおっ、二つの項目で高ランク評価が出たわ。さすが殿下だわ。
風属性の方はサブ扱いらしく、稍高になっている。属性は少ないけれど、これなら拳神も狙えるんじゃないのかしら。
体力などのステータスもかなり高い。さすがは王子、高スペック。
周りがキャーキャーと騒ぐ中、グリフィス殿下が私とソニア様の方を見てにこりと笑っている。
いやいや、ソニア様は公爵令嬢であり婚約者候補。私は男爵令嬢でおまけのような婚約者候補。やはりその笑顔は、正当な婚約者となるソニア様に向けてしかるべきなのではないかしら。
だけど、グリフィス殿下はそんなことを思っている様子はなく、私にまで笑顔を向けている。
ああ……、周りの令嬢たちの視線が厳しくなってきたじゃないの。
なんというか怖い。
原作のフィストニーナってこういう視線を向けられていたのかしらね。本当に寒気がするレベルの視線だわ。
「納得いきませんわね」
試験も終わり撤収しようとする中、一人の令嬢が声を上げた。
当然ながら、全員から視線を集めてしまう。
「どうかしましたかね、ディザリア・レフェリアル子爵令嬢」
次の授業に移らなければならないというのに、突然の令嬢の発言に、試験会場ではどよめきが起きている。
まったく、こんなイベントは見たことも聞いたこともない。私が言うのは、もちろん乙女ゲームの中でのお話。現実ならこういう出来事があっても不思議ではない。
だけど、周囲の反応を見ている限り、明らかに異常事態ということで間違いなさそうだった。
「ディザリア・レフェリアル子爵令嬢、あなたは私たちの計測結果に不服があるとでも仰るのですかな?」
当然、ディザリア様は教師たちに厳しい視線と意見を投げつけられている。
それでも、この時点ではディザリア様は退こうとはしない。
うん、これって私を確実に敵視をしているということのようだわ。
そりゃまぁ、私の試験の順番が、最初の男爵家の時点ではなく、公爵と侯爵との間に挟まっているんだもの。特別扱いされていると取られても仕方のない順番だった。
「フィストニーナ・バイタラル男爵令嬢。私、ディザリア・レフェリアル子爵令嬢は、あなたに決闘を申し込みます」
ディザリア様はそう仰られる、どこからともなく手袋を出して叩きつけてきた。ちょっと待ってよ。すぐさま自分のところから出てくるって、常に持ち歩いているってことよね?
こうなってしまっては、教師たちはもちろん、グリフィス殿下にも止めることはできない。予想外の事態に、教師たちはともて頭が痛いらしい。
そして、結局はディザリア様の要求は通ってしまった。
決闘の日付けは、最初の週末のお休みの日。場所はこの訓練場と決まった。
まったく、なんだっていうのよ。
能力の測定ってことで、さっさと調べて終わりだと思ったら、妙なご令嬢に絡まれてしまったわ。
だけど、売られたケンカには、しっかりと返してあげなくちゃね。
学園最初の戦闘イベントを、まさかこんなイレギュラーな形で迎えるとは、まったくもって思ってもみなかったのだった。




