Round40 実力試験
初日から、ネイリア様が伯爵令嬢や子爵令嬢に絡まれるというハプニングがあったものの、翌日の学園生活のスタートは特に問題はなかった。
今日は二日目。朝から学園内にある訓練場に私たちは集められていた。
いわゆるチュートリアルってやつね。
ゲームでは、戦闘に慣れてもらおうということで、二日目にこういうイベントが入っていた。
戦闘場面は、横スクロール式のアクション性のあるもので、タッチパネル状に出ている操作ボタンをタップして戦闘を行う。
対人戦は基本的に一対一だけど、対モンスター戦は複数対複数になることもある。こちらは最大三人までで、向こうは五体まで出てくる。
ストーリー中の戦闘では操作ができるんだけど、対戦モードではオート戦闘で操作ができない。ステータスをいかに盛るかが対戦モードではカギになるのよね。
ゲームだといくら殴っても気にならないんだけど、さてさて、現実となったこの世界ではどんな感じになるのかしらね。
私たちの前には、なんか妙ちくりんな人形が用意されている。一応、鎧兜を装備しているので、兵士に見立ててあるみたい。
興味深そうにみんなが眺めている中、教師たちが前に出てくる。
「新入生たちよ、入学おめでとう。二日目である本日からは、本格的に授業を始めていくことになる。まずは、その能力を測るためにこの人形に思い思いの拳をぶつけてもらいたい」
どうやら、鎧兜を装備した人形を殴るみたいね。そうすることで、能力を測るというわけか。
たいていのゲームモチーフの話だと、こういうのは初日に全部終わらせちゃうものだけどね。昨日は一年間の大まかな行事の説明と、教科書の配布で終わっちゃったのよね。
さらに教師たちの話を聞いていると、魔法を習得している学生は、魔法を使ってもいいらしい。
それじゃ、私は魔法を使わせてもらおうかしらね。
ちなみにこの試験は、爵位の下の方から順番に行っていくみたい。
最初は男爵家からかぁ。だとしたら、私はネイリア様よりも先に出番が回ってくるということかしらね。
爵位が同じ場合は家名の順番だから、五十音順にしてもアルファベット順にしても、私の方が先に回ってくる。
え、なんでかって?
私の家は『バ』イタラルで、ネイリア様の家は『フ』ィンガルスだからね。アルファベットだとネイリア様の家は『F』ingerousで、私の家は『B』itaralなのよ。バイタルから来ているから『V』だと思った? 残念でした。
というわけで、私はそわそわと順番を待っていた。
ところがだった。
私の順番が飛ばされた。
「次、ネイリア・フィンガルス」
「はい!」
ネイリア様が先に呼ばれたことに、私は耳を疑った。順番を間違えてないか、私は抗議のひとつでも入れてやろうかと思った。
「フィストニーナ様、私頑張ってきます」
「あっ……。ええ、頑張って下さいね」
だけど、ネイリア様の見せた笑顔に、私は文句を言うことをやめた。
とりあえず、ネイリア様がどのくらいの実力か見守ることしましょう。
「やああっ!」
ポコンッ!
勢いのある声に対して、なんとも可愛らしい音が聞こえてきた。いや、金属の鎧と拳がぶつかって、なんでそんな音が聞こえてくるのよ。本当にわけがわからない。
次の瞬間、兜の上の方に評価が表示される。これもまた謎の技術よね。
可愛らしい音が鳴ったけれど、ゲーム内のストーリーではステータスがお化けじみていたのに、ここにいるネイリア様は育成モードの初期値みたいな数値が並んでいた。なんとも意外な結果だった。
その後も、私は名前を呼ばれることなく、ガチャで見たことのなる名前を聞きながら自分の順番を待った。
子爵、伯爵、辺境伯、侯爵と順番に進んでいっているのに、なんで私の名前が出てこない。次はもう公爵じゃないのよ。
私が少々イライラし始めたその時だった。
「フィストニーナ・バイタラル」
「はい!」
ようやく呼ばれた。
いや、なんで私が公爵家の前に呼ばれるのかしら。
当然だけど、訓練場の中にはどよめきが起きている。
「それでは、あの人形を思うように殴って下さい」
「はい」
順番について疑問に思いながらも、とにかく今は試験に集中する。
グリフィス殿下やソニア様がご覧になってられるし、ネイリア様も私を応援してくれている。ならば、その期待に応えるのがヒロインってものでしょ。
私は人形を目の前にしてしっかりと立つ。
私は右手に得意の風魔法を発生させて待機をする。いつでも殴り飛ばせるようにしておくためだ。
「では、どうぞ」
教師から合図があったので、私は思い切って人形めがけて踏み出していく。
風魔法をまとった拳を、渾身の力を込めて人形へと叩きつける。
私の拳と人形がぶつかった瞬間だった。
「あっ……」
目の前で起きた現象に、私は思わず絶句をしてしまう。
何が起きたのかというと、風魔法が強力すぎて、鎧をずたずたに切り刻み、兜にいたっては上空に吹き飛ばしてしまっていた。
あちゃあ……。
はっきり言ってやり過ぎた瞬間だった。
兜は吹き飛んでしまったものの、人形の頭上には他のみんなと同じようにテストの結果が表示されている。
風が暴れ回っていて慌てふためいていた教師たちも、冷静になって私の試験の結果を見にやって来る。
さて、一体どのような結果が表示されているのやら。
私は見るのがとても怖かった。




