Round39 分からないから備えるだけ
私の代わりに、ネイリア様が上位の貴族に絡まれるという事件が起きてしまった。これは、私の今後を考える上で、とんでもない疑念を持たせることになってしまった。
とはいえ、ヒロイン交代が起きるというわけではないと思うんだけど、一応警戒はしておいた方がいいかしらね。
初日の学園を終えた私は、家の馬車に乗って自宅に戻ってきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
家に帰ると、エルが私を出迎えてくれた。ちなみにサクルは馬車の中に乗って迎えに来ていたので、サクルも同様にエルに出迎えられている。
「お出迎えご苦労様、エル。部屋に戻って服を着替えます。サクル、お願いね」
「はい、お任せ下さい」
私は真っすぐに、部屋へと戻って制服から普段着に着替えることにする。
正直なところ、今日のことですぐさま対策を考えたいところなのだけど、今の私の頭はまだ整理がつかない。
ひとまずは、今日あったことを両親に報告するところからかしらね。
その前に、今日もらってきた教科書を整理することにする。物を片付けると同時に、頭の中も整理しようという魂胆だ。
なんといってもネイリア様が私に間違われて絡まれてしまったのから、私の気持ちは思ったよりも混乱している。なので、報告の前に一度落ち着く必要があると思うよね。
いきなり片付けを始める私を見たサクルは、何かを怪しんでいるようだに見える。
「お嬢様、もしかして、今日の学園で何かがございましたか?」
さすがは小さい頃からずっと私に仕えているサクル。何かを勘付いてしまったらしい。
おっかしいなぁ。そんなに動揺を表に出したつもりはなかったんだけど、これが一流の使用人というやつなのかしらね。
「うーん、私自身に何かがあったというわけじゃないんだけどね。ちょっと気になることがあったのよ」
「左様でございますか。でしたら、私が侍女としてお話をお伺いしましょうか?」
サクルは頼りになることを言ってくれるけれど、これは両親に報告すると決めたので、この場でサクルには伝えなかった。そしたら、サクルはちょっと残念そうにしていた。ごめんね。
とりあえず、その代わりと言っちゃなんだけど、もらってきた教科書を整理することを手伝ってもらった。その間、教科書を手にしながら、サクルはどこか懐かしそうな表情を浮かべていたように思う。
王国の人間である以上は、貴族なら誰しもが学園に通うことになる。なので、サクルもそういった過去があったのだと考えられる。だからこそ、そういう表情になったのだと思われる。
そうして、お昼の時間を迎える。
その食事の席で、私は学園で起きたことを両親に話をした。私は部外者ではあるんだけど、学生である以上は学園の関係者だ。
「ふむ、庭園に連れ込んで脅しとはね」
「懐かしいですわね、あなた」
「だな。だが、私たちにしてみればそれが出会いだったわけだ。第一印象は最悪だったがな」
私の話を聞いて、なぜか両親は盛り上がっている。というか、フィストニーナの両親って、そういう間柄だったの?
どうしてそんな二人から、こんなおとなしい少女が生まれるわけよ。わけがわからないわ。
私が驚いていると、両親がこちらへと顔を向けてくる。
「ニーナよ。もし友人がまた絡まれるようなことがあれば、恐れずに拳を叩き込め。この国では拳がすべてにおいて正義だ」
「そうですよ、ニーナ。それで向こうがケンカを吹っかけてきたのなら、この拳ですべて決着をつけなさい。どうにもならなくなったら、私たちにすぐに相談しなさい。代わりに殴ってあげるから」
「あははは……。そうさせていただきます」
脳筋の世界、怖い!
というか、両親ともに拳には相当自信がありそうだわね。そんな二人がなんで男爵どまりなのかしら。この乙女ゲームの知られていない謎なのかもしれない。
だけど、はっきりと両親からこのように言われれば、私も安心ができるというもの。とても言い返すようなことができなかったので、私は黙って素直に両親のいうことに頷いていた。
お昼を食べ終わると、今度はファブニールとエルを呼んで、稽古をつけてもらうことにする。
ゲームではなにかといろいろと面倒が舞い込んでくるのがヒロインというもの。それに完璧に対処できるようになっておく必要があるからね。
エルをつき合わせるのは、彼が獣人の王国の生き残りだからこそ。彼には将来的に獣人の王国を再び興してもらわないといけないからね。そのためには、しっかりと強くなってもらう必要がある。だから、つき合わせているのよ。
「ふんっ、どうした獣人。勢いがあるのはその口だけか?」
「うるさい。僕は、強くならなくちゃいけないんだ。必ずお前に一撃を当ててやる!」
「できるものならやってみるがいい。今のお前の攻撃など、目をつぶってでも躱せそうだ!」
おうおう、まったく熱い連中だわね。
私は先に稽古をつけてもらったので、今は汗をぬぐいながら休憩をしている。
ふふっ、これも役得かしらね。イケメンに化けたドラゴンと、金色の毛並みが美しいケモ少年の殴り合い。ああ、いくら見てても飽きないわね。
「……お嬢様。顔がにやけております。気持ち悪いですよ」
「もう、正直に言わないでちょうだいよ」
サクルの毒舌に、私は思わず唇を尖らせてしまう。
だけど、こういう憎まれ口を叩き合えるというのは、今の世界が平和だという何よりの証拠。
それでも、いつ何が起きるか分からない。その時に備えて、私はしっかり鍛えておこうと、さらに意気込みを見せるのだった。




