Round37 周りは敵だらけ
私の学園生活では、交流のある貴族令嬢のうち、ソニア・バトリョーシカ公爵令嬢とネイリア・フィンガルス男爵令嬢の二人が同じクラスになっていた。
教室に入った私の視界には、そこそこというか、半分くらいは見知った顔がある。
もちろん、今世になってから知った顔というのはほとんどいない。
そう、半分くらい見知った顔の理由は、乙女ゲームのガチャのせい。なにせ、私に以外にも108人のご令嬢が参加しているんだもの。
私と同じように学園で三年間を過ごし、そして、攻略対象たちに告白を行う。なので、必然としてガチャヒロインたちは私とは同い年になる。その108人っていうのは、この学園における私と同い年の学生の人数とほぼ同じ。そりゃ見知った顔ばかりになるってものよ。
そのヒロインの中で、本編では出てこないのは、はっきりいって隣国グラプラー王国の王女様くらい。そんな彼女も、育成モードではこっちに留学してきて学園で三年間を過ごす。まっ、私と同じ転生者でもかかわっていない限り、そんなことは起きないでしょうけれどね。
ちなみにだけど、攻略対象はその限りではないわよ。
実際、攻略対象のうち、私の推しであるファラン様は、ひとつ上ですもの。隣国の王子様も一つ上。ファブニールにいたっては年齢差が不明。年上には違いないんだけどね。
それで、私はソニア様と同様に、グリフィス殿下の婚約者候補にされてしまっている。こういうこともあって、本来ライバル関係にあるはずのソニア様とはなぜか仲がいい一方、周囲のご令嬢たちからはものすごい視線を向けられることになっていた。
初日は入学式と、簡単な学園での生活での話を聞かされる。
とはいえ、拳と魔法の世界だと、あんまり長ったらしい話はされない。それだけあんまり人の話を聞きたがらないということかしら。拳を使うから、少々短気なのかもしれない。
それはともかく、魔法や座学で扱う教科書の類はちゃんと配られていた。ものすごく重そうだわ。まっ、鍛練だと思えば、これもこれでいいかな。
「ニーナ様、校門までご一緒いたしましょうか」
「よろしいのですか、ソニア様」
いよいよ学園の初日が終わって、家に帰ることになる。
もはやシナリオが意味をなしておらず、初日に起きるはずだったイベントが何も起きない。まったく、どうしてこうなった。
まあ、何も起きないのならそれに越したことはない。私はソニア様と一緒に校門まで移動することになった。
……って、ネイリア様はどこかしら。
「ソニア様、ネイリア様を見ませんでしたか?」
「ネイリア様でしたら、先に帰られたようですけれど。どうかなさいましたか?」
いや、友だちだから、一緒に帰るものだと思っていたんだけど。
ただそれだけの理由で、私はソニア様に声をかけてみたのよね。だけど、ここまで不思議がられるとは思ってもみなかったわ。
……なんだろう、嫌な予感がする。
「ソニア様、ネイリア様は下校なさったということでよろしいですよね?」
「ええ、その通りです」
「ならば、校門に向かう途中か。急ぎましょう、なんだか胸騒ぎがします」
「わ、分かりましたわ」
なぜかものすごく気がかりになった私は、ソニア様と一緒に校門へと向かって走っていく。
本来であれば、ネイリア様は、現時点ではその他大勢のモブの一人にすぎない。そして、夏休み中のイベントでぽっと出てきて、そのまま退場してしまうという不遇っぷり。ただ、その強さが相まって、心折令嬢とまで呼ばれて人気があまりない。やはり、その時だけにしか出てこないからでしょうね。
そんな心折令嬢であるネイリア様も、私の今世では大事な友人の一人。放ってはおけないのよね。
私はとにかく気になって、ネイリア様を探す。
校舎の出入り口から外に出て、私は校門へと向かっていく。しかし、ネイリア様らしき姿は見えない。
ならば帰ったかなと思われるのだけれど、校門に到着したところで、それは違うとはっきりと分かった。
「あれっ、フィンガルス男爵家の馬車だわ」
「本当ですね。帰られたのであれば、ここにいるわけがありません。……ということは、まだ学園の中に?」
私たちがこう結論付けたのは、御者の態度だ。待っているらしく、そわそわとした様子を見せている。つまり、これはまだ来ていないということ。
そのことに気が付いた私とソニア様は、学園の中を探して回ることにした。
私たちのクラスから校門まではほぼ一本道。迷うことはそうそう考えられない。
となれば、途中で誰かに捕まってどこかに連れ去られたということ。
学園の校門にはお迎えの馬車がたくさん集まっているので、この校門を気付かれずに通り抜けるのは不可能。
……間違いない。ネイリア様はまだ学園の中にいる。
「まさか……、こういう形で入学式の日のイベントを回収するつもりなの?」
私は妙な感覚に襲われた。
もし、これが正解だとするならば、ネイリア様がいらっしゃる場所はおのずと絞られる。あそこしかない。
目星をつけた私は、一目散にその場所へと駆け抜けていく。
頼むから、こういうイレギュラーなイベントはやめてほしいのよね。
私はなんともいえない気持ちを抱えながら、学園の中を颯爽と走り抜けていった。




