Round35 入学直前
時は流れ、いよいよ私は『君と殴り合う乙女ゲーム』……じゃなかった『Grip Fist Graffiti』のゲーム本編時間軸に突入することになる。つまり、学園に入学する時が来たのよ。
学園に入る前のこの一年間は、お茶会を開くなどしてライバル令嬢たちとの交流も続けてきた。特に、最初の夏休みのイベントで戦うことになるネイリア様とは、よく一緒にお茶をする友だちとなっていた。これだけ仲良くなったのなら、最初の中ボスとして立ちはだかる展開は回避できるのかしらね。
学園は前期と後期の二学期制なので、タイミングとして五か月後かぁ。
うん、仲良くなったとはいっても、まだまだ油断はできない状況にあるわね。
それから、我が家にはまだまだ他に変化がある。
隠し攻略キャラであるファブニールとエル・ドゥラードが、いろいろあって住み着いているのよ。
まあ、ファブニールは私の魔法の先生として迎えたわけだし、当然といえば当然。エルの方も、早くから奴隷の立場から脱出できたので、今は執事として勉強中。エルは元々獣人の王族なのに、よく頑張るわね。
さて、あと入学まで十日を切ったくらいのことね。いよいよ学園の制服が私の手元に届いた。
別に貴族であるのなら自前のドレスでもいいんだけど、私は前世のこともあって、制服を着るというのが選択肢としてすんなりと浮かんでしまった。というわけで、半年前の時点、つまり、エルを助け出した後くらいに街の仕立て屋さんに注文を出していた。
「これが学園の制服かぁ。ゲームで見たままのデザインでびっくりすわね」
「だから、そのげぇむとやらなんなのだ。お前は俺と初めて会った頃から、ずっとその意味不明な単語を言い続けている。分かるように説明をしてくれ」
私が制服を体に当ててくるくると回っていると、ファブニールが文句を言ってくる。
転生者ということは言っていないけれど、ついつい私の口からは前世の言葉が口を突いて出てくる。そういうこともあって、ファブニールにはそのことをよく突っ込まれているというわけね。
だけど、説明しようにも難しいよねぇ。分かるような言葉に置き換えるというのは、私はどうも苦手みたい。
というわけで、私はファブニールとエルを、部屋から追い出すことにする。
「お、おいっ! 俺の質問に答えないで、なぜ部屋から追い出そうとする」
「これから学園の制服の試着をするの。私の着替えを見ようだなんて、なんて破廉恥なドラゴンなのかしらね」
「くっ! 卑怯だぞ」
「つべこべ言わず部屋を出る! エルもごめんだけど、外に出ててちょうだい」
「はい、畏まりました、お嬢様」
エルは聞きわけがいいわね。それ比べて、このドラゴンときたら……。
そんなわけで、二人を部屋から追い出した私は、サクルの手によって、制服に着替えさせてもらう。いや、自分だけでも着替えられると思うんだけど、この服の構造がよく分からないから、着せてもらった方が確実と思うのよ。
それで、学園の制服について説明するわね。
ボクシス王国のカラーは青色。青とはいっても紺色といった方がいいかしらね。それを基本としている。
下に着るブラウスは白色。長袖のボレロとハイウェストのひざ丈のミドルスカートが、その紺色になっている。リボンは学年によって色が違っていて、進級するたびに色が変わる。一年が赤、二年がクリーム、三年が濃い緑。
靴下と靴は自由。私は7cmヒールの褐色のミドルブーツに、白のタイツを合わせている。いや、黒の方がよかったかもしれないけれど、白タイツなのは元々の服装で履いていたからよ。
正直、このかかとの高さで走り回ったり殴り合ったりというのは正気の沙汰じゃないと思うんだけどね。でも。この世界だと不思議と動けるのよ。なんてファンタジーなのかしら。
「お嬢様、よくお似合いです」
「ええ、ありがとう、サクル」
私も自分で感動している。
モブヒロインと揶揄されてはいるけれど、こうもきちんと着こなせるあたり、さすがはヒロインだと思われる。
あとは、髪の毛にもアレンジを入れてあげると、もっといい感じになるかもしれないわね。
というわけで、着替え終わったので、部屋の外に追い出した男性陣二人を部屋に呼び戻す。
「ほう、なかなか似合っているな」
ファブニールはあごに手を当てながら私を褒めてくる。意外と素直に褒めてくるものだから、私は信じられなくて口をあんぐりとさせてしまったわよ。
「なんだ。せっかく褒めたのにマヌケ面をさらしおって」
「うるさいわね」
予想外だっただけなのに、言ってくれるじゃないの。まったく、もうちょっとで五年になる付き合いだけど、相変わらずの調子だわ。
さて、エルの方はどうかしら。
私がちらりと顔を向けると、どういうわけかエルは顔を真っ赤にしていた。え、どういう反応なの?
「エル、どうしたの?」
「あ、いえ……。お嬢様が美しすぎると思いまして。なんだか、真っすぐ見ていられないのです」
顔を真っ赤にしたエルは、そういいながら、私から顔を背けていた。
まあ、なんともうぶな子なのやら。可愛くて抱きしめたくなっちゃうじゃないの。
だけど、そうするとますます大変なことになりそうだと思ったので、私は我慢をしていた。
そんなこんなで、学園へと通う準備も順調に進んでいっている。
さぁ、いよいよこれからが本番よ。
いろいろとシナリオは変わってしまったけれど、絶対にシナリオを失敗させやしないんだから。
没落エンドは回避するのみ。
がんばれ私!




