Round34 焦土に立つ災厄
むぅ、この気配は……。
我は焼き尽くした焦土に立ちながら、ある気配を感じ取っていた。
それは、過去に我と戦いを何度も繰り返し、いまだに決着のつくことのなかった大きな存在の気配だ。
我とは永遠のライバル関係にあるそやつは、数年前に一度地上から姿を消した。
それが、今しがた気配を一時的にだが復活させたのだ。
我は嬉しく感じたな。死んだわけではなく、ただ単に行方をくらましていただけだと分かってな。
だが、再び気配を消してしまったとあっては、後を追うのは困難であろう。ならば、目の前のことを片付けねばな。
我は、上げていた顔を再び広がる焦土へと向ける。
ここには、つい先ほどまで人間の国があった。それはもう、賑やかな国であったぞ。
そのような国であっても、我の手にかかればこのありさまだ。実に、人間というのはもろいものだ。
「こ、この魔族風情が……っ!」
ほぉ……、まだ何か声が聞こえるな。
我が視線を向けると、そこには鎧兜に身を包んだ人間が一人立っていた。
周りの連中は皆、我の攻撃で焼き払われたというのに、まさか無事なやつがいるとはな。
だが、魔族風情とは、ずいぶんとなめた口を利いてくれるものだ。怒りが込み上げてきた我は、一瞬で目の前の人間を葬り去りたくなる。
しかしだ。それではいささかつまらぬというものだ。
我の攻撃を受けて生き残っているようなやつなのだ。もしかしたら、我を楽しませてくれるやもしれん。どれ、ここはひとつ思うようにやらせてやるか。
「人間よ、悔しいか?」
我は上体をそらし、人間を見下すようなポーズで声をかける。
「くっ……!」
人間の方は、どうやら屈辱を感じたらしく、醜い顔がますます醜くなっている。
ふっ、その顔だ。その顔こそが我の愉悦をかき立てるというものだ。
「俺だって王国騎士の一人だ。魔族になんぞ後れを取りやしない!」
ふっ、威勢だけはいいものだな。
我に襲い掛かってくる男は、拳に火の魔法をまとわせながら近づいてくる。
どれ、わざと殴られてみるか。
力のこもった男の拳が、我に命中する。その瞬間、我は炎に包まれる。おお、なんと心地よい……。
「はっ、どうだ! 俺の力を思い知っ……なに?!」
男はずいぶんと自信たっぷりのようだが、この程度の炎、我にとってはそよ風にも等しい。
我はまったくの無傷だ。
やはり、人間というのは脆弱で矮小な生き物だな。
「一人だけ生き残ったことは褒めてやろう。獣人の国も滅ぼしてくれたわけだし、極上の褒美を取らせてやる」
「く、くそっ! 俺は逃げない。魔族などに負けてたまるものか!」
我がまだしゃべっているというのにな。まったく、人間というのは礼儀がなっていないな。我ですらこれほどまでに丁寧に接しているというのに、実に愚かしい。
我は男の拳に向けて、一発軽く拳をぶつけてやる。
「あがっ!? いってぇ……、いてえよっ! お、折れてやがる!?」
軽く当てただけだというのに、こての上からでも男の腕は折れてしまったらしい。ふっ、弱すぎる。
これ以上は見苦しくて見ておれんな。さっさと片付けてしまおう、耳障りだ。
「この魔王の手で死ねること、光栄に思え」
「なっ、魔王?!」
「それ以上の無駄口はなしだ。我が灼熱の拳で、灰燼と化すがよい!」
骨が折れたことでのたうち回る男に、我は遠慮なく渾身の拳をぶつけてやった。
男は声を出すこともできず、一瞬で青色の炎に包まれる。
ふんっ、我の炎に耐えたのは、ただの偶然か。期待はずれにもほどがあるな。
我の炎によって燃え尽きた男は、もはや原形をとどめていない。一陣の風が吹けば、さらさらと崩れ去ってしまった。
これでこの国も、完全に滅びたな。
「魔王様、お疲れ様でございます」
「この程度、肩慣らしにもならぬ。一度城に帰還するとするぞ」
「はっ、承知致しました。それでは、我らが軍勢に声をかけてまいります」
我の配下が声をかけてくる。労いの言葉など掛けてくるが、この程度は準備運動にもならぬというものだ。
まったく、この程度の国を亡ぼすのに、部下どもはなぜこれほどまでに時間がかかったというのだ。どいつもこいつも無能が過ぎる。
「これで、我が領土は広がったな。残りは三国だが、すぐに亡ぼすのはなんとも味気がない。人間同士のつぶし合いでも眺めて、楽しまさせてもらうとしようか」
焦土と化した小国の跡地を眺めながら、我はそのように考えた。
我がしばらく周囲を見渡していると、部下どもが我の周りに集まってきた。
「魔王様、帰還の準備が整いました」
「うむ。それでは、城に帰還する」
「はっ!」
我は配下の魔族どもを連れて、城へと帰還する。
さあ、次はどのようにしてやろうかな。
世界征服の手始めとして、この大陸の国々を掌握する。
人間どもはぜい弱だが、世界を支配した時には重要な労働力やおもちゃになる。亡ぼすだけが魔王のやり方ではない。
くくくっ、次が楽しみというものだ。
あやつの気配が消えた今、この我を止められるやつなどいるものか。人間どもを自由に支配させてもらおうではないか。
ふふっ、ふはははははっ!




