Round33 金色の天使
無事にエルを奴隷から解放できたわけだけど、元王族である彼の処遇についてはどうするか悩んだものだわ。
とはいえ、いきなり獣人国の王子ですなんて言っても、誰が信じるかというものよね。
とりあえずは、邪魔な首輪が取れたことで、しっかりと一度体をきれいに洗ってもらうことにした。屋敷の男性の使用人を呼んで、彼らにエルをしっかりときれいに洗ってもらうことにした。
暴れるかと思ったんだけど、私がおとなしくするように言い聞かせたせいか、使用人たちはケガをすることなく、無事にエルの体を洗うことができたそうよ。
で、執事の衣装を身にまとって、エルは私の前に戻ってきた。
「まぁ……、きれい」
こうして私の前に戻ってきたエルは、金色の体毛をたなびかせた、実に美しい姿を披露していた。本当にびっくりすくらいのきれいな体だわ。
それにしても、エルはまったくといって何も話さない。
まあ、ゲーム中でもほとんど無口だったものね。どんなセリフがあったのか思い出そうとしても、まったく思い出せないくらいにしゃべらない。
だけど、私がきれいってつぶやいたことが聞こえていたのか、なんだか照れくさそうにしている。ふふっ、可愛いわね。
そんなわけで、私にはちょっと心を開いているようなので、私の専属の執事にさせてもらうことにした。
あっ、サクル。あなたをクビにするわけじゃないから安心してね。
ただ、今日のところはファブニールに任せて休んでもらうことにしたわ。まずは奴隷にされて落ちてしまっているいろんなものを取り戻させないとね。
ファブニールに連れられて部屋を出ていくエルは、時々私の方へと振り返っていた。本当にこの行動は可愛いばかりだわ。
そして、夜が明ける。
いや、そもそもそこまでの話でも夜にはなっていなかったんだけどね。ほら、一日が経過したっていうと、やっぱりこういう表現をしたくなるじゃないの。
それはともかくとして、翌日にを迎えてファブニールに連れられて部屋にやってきたエルは、相変わらず無口だけど、私に向かっては固い表情をすることはなかった。サクルには相変わらずの仏頂面なんだけど。
とはいえ、昨日に比べれば、いくぶん雰囲気は和らいでいるようだった。あと、血色がよくなったように思える。目の下にはクマがあったもの。それだけ奴隷の時にひどい扱いを受けてきたということだわ。
さて、朝食の間はファブニールに任せておいて、朝食から戻ってくると再びエルに向かい合う。
祖国を滅ぼされた王子様ということで、私の中では正直なところ扱いに困っていた。
だけど、私の方を見て目をキラキラとさせつつ、しっぽまで振っているという様子を見せられると、私の中の母性というものが刺激されてしまう。
「ああっ、可愛い!」
「ひゃうっ!」
私が思わず抱きしめてしまうと、これまた可愛い声が聞こえてきた。
「ねえ、サクル、ファブニール。今のって……」
「はい、お嬢様。そのエルとかいう少年の声でございます」
「うん、エルの声だな」
二人に確認すると、そろって同じ答えが返ってきた。
エルの声に関しては前世での記憶もあんまりないせいで、なんとも可愛らしい声が新鮮でたまらなかった。
私はエルから体を離すと、今度はその両手をしっかりと握っている。
「エル、あなたは私の家で保護してあげるわ。独り立ちできるようになるまで、しっかりと面倒を見てあげるからね」
「は、はい……。よろしくお願いします。えっと……」
「私はフィストニーナ・バイタラルよ。名前が長いなら、ニーナって呼んでちょうだい」
「あ、はい。お世話になります、ニーナ」
あまりにも可愛らしい姿に、私は胸がキューンとしてしまう。
その様子を見ていたファブニールが、私の方へと歩いてくる。
「フィストニーナ、悪いがこいつを借りるぞ」
「えっ、ファブニール?」
なんだか声が荒いように聞こえる。一体どうしたというのかしら。
「こんな貧弱な状態では、またさらわれかねん」
そういいながら、ファブニールはエルへと厳しい視線を向けている。この時のファブニールの剣幕に、エルは思わず怯んでしまっている。
まったく、ファブニールってばどうしてそんな風にエルに突っかかるのかしらね。
「来い! お前は俺が鍛え直してやる。二度とくだらん連中のおもちゃにされぬようにな!」
「えっ、ちょっと。助けて、ニーナ!」
エルは私に助けを求めてくるものの、ファブニールの気配がただ事ではなかったので、助けてあげることはできなかった。
「ごめんなさい。ファブニール、あんまりやり過ぎないでよ?」
「保証はできんな。一人前に育ってもらわねば困るからな」
ファブニールはそういって、私の部屋から出ていってしまった。
当然ながら、戻ってきた時のエルは、ちょっと下を向きながら、私に恨めしそうな視線を向けてきた。ホント、ごめんって。
だけど、ファブニールの言い分も分かるだけに、エルの味方だけというわけにはいかなかった。そこで、私はエルを慰めながら声をかけることにした。
「エル、もし私に感謝しているというんだったら、私が困っている時に助けてあげられるような強い人にならなきゃね」
私が膝の上で抱えながらそういうと、エルは黙って聞いていた。
祖国を失ってしまった彼にとっては、ちょっと冷たい感じに聞こえたかもしれない。でも、私は甘やかすだけということはできなかった。
「だからね。大切な何かを守れるだけの力を、しっかり身につけておきましょう」
「……うん」
私が諭すと、エルはこくりと頷いてくれた。
ふう、これでエルとの仲はこじれずに済むわね。
さすがに三年間も出会いが早まると、どうしていいのか分からないわね。
ひとまずこれで、すっかり狂ってしまったシナリオの軌道を修正できていればいいんだけどね。
私はエルをあやしながら、将来への不安をちょっとだけ感じてしまうのだった。




