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フィストニーナ拳闘記~君と殴り合う乙女ゲーム  作者: 未羊


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Round32 解放せよ

 家に戻った私は、当然ながら両親にこっぴどく叱られた。だって、また勝手にいなくなったんだもの。

 いなくなっただけならまだしも、犬の耳としっぽをつけた見るからに奴隷と思われる人物を拾ってきたのならば、そこでも怒られて当然というわけだった。

 結果、私は一週間の外出禁止を言い渡された。

 勝手なことをやった自覚はあるので、私はそれを甘んじて受けることにするだ。ただし、ひとつだけ条件をのんでもらうことにした。

 拾ってきたエルを保護して、私に預けさせてもらうこと。

 というのも、エルはおそらく人間に対して強い恨みを持っているからだ。なので、知らない人間たちには敵意をむき出しにするだろう。

 だったら、助けた現場にいた私がそばにいてあげるのが一番いいというわけなのよ。

 そのことを力説した結果、両親は私の側にエルを置くことを許可してくれた。

 ちなみにだけど、エルは現時点で帰る場所を失っているのよね。だから、両親がいくら元の場所に帰そうとしても、その場所を見つけることはできないわ。


 実はエル・ドゥラードは、獣人たちの国の王族。そう、王子様っていうわけ。

 本編中では好感度を上げることはかなり難しいんだけど、アフターストーリーに突入した時に、ある条件を満たすとエル・ドゥラードの話に進める。そこで語られたのが、獣人の国の話。

 実は、私がこっちの世界で目を覚ました頃とほぼ同じ時期に、私の住むボクシス王国や、同じ隠し攻略対象が住む隣国グラプラー王国とは別の国によって、ドゥラード王国は滅ぼされてしまっている。

 どうにか逃げ出した王子であるエルも、この通り奴隷商に捕まって酷い目に遭わされて、三年生の時のイベントで登場するというわけ。

 私が条件を満たせなかった場合は、ライバル令嬢の誰かの婚約者として収まるか、行方不明エンドを迎えることになる。ちなみにマルチエンディングのトゥルーエンディングは、ドゥラード王国の再建。つまり、私がドゥラード王国の王妃となるエンディング。

 ライバル令嬢たちではボクシス王国にそのまま留まることになるので、複数あるエンディングのうち、国を再興できるのはたった一つしかないという険しい道のりなのよね。


 で、現時点でのエルの状態は、そんな厳しい状況にあったわけで、人間不信に陥っている。しかも、重度のね。

 ただ、私が助けたということもあって、エルは私にだけは懐いている。あとはファブニールにもね。

 この状態で私と同じ学園に通わせることは、ほぼ不可能だろうと思われるけど、まあやれるだけやってみましょうか。私が関わらなくてもトゥルーエンドを迎えられるようにしてあげなきゃ。

 そのためにはまず、全身をきれいに洗ってあげないといけない。


「ファブニール、この首輪を外せるかしら」


「この程度、なんてことはない。任されよ」


 ファブニールはそういって、エルの首輪に手をかけている。

 ちょっと、まさか強引に力で壊すつもり?!

 心配にはなるんだけど、私はファブニールを信じてその様子を黙って見守ることにする。

 ファブニールは手をかけたところで、首と首輪の間に魔力を流し込んでいる。


「ふん。また面倒な拘束魔法をかけてくれているものだな。奴隷契約というのは、相当厳重にかけられた魔法のようだ。無理に外そうとすれば、奴隷が死ぬように仕向けられている。まあ、そんなもの、俺の魔力の前では無意味だがな」


 なるほど。それで首と首輪の間に魔力を流し込んだのか。

 自分の魔力を流し込むことで、エルと奴隷契約を切り離し、魔法を行使する相手を錯覚させているというわけね。さすがは魔法の先生をこなすだけのことはあるわね。ここまで魔法に精通しているなんて知らなかったわ。


「フィストニーナ、悪いが手伝ってくれ」


「え、ええ。いいけれど何をすればいいの?」


 急に話を振られたものだから、私はファブニールに内容を尋ねている。

 それによれば、奴隷の首輪の継ぎ目部分に、得意の風魔法を込めた拳をぶつけてほしいとのことだった。

 頼られれば、私はがぜんやる気が出てくる。人気キャラであるエルを助けることができるんだからね。

 なにせこの奴隷解除のいきさつ、ものすごく端折られてて、劇中ではどうやったのか分からないのよ。

 それを目の前で、しかも私の手で行えるとなれば、そりゃ燃えるってもんでしょ。あ、私の最推しがファラン様なのは変わりないから。

 とりあえず、私は拳にたっぷりと風魔法をまとわせる。


「分かっているな。この首輪の継ぎ目だからな」


「了解。一発で決めてやるわよ」


 私は右手の拳に風魔法をがっつりと込めている。


「さあ、解放されるのだ。この拳の一撃でぇっ!」


 しっかりと狙いを定めて、私は渾身の一撃をエルの首輪に叩き込む。

 その時だった。

 カタカタといいながら首輪の隙間が広がった瞬間、私の拳から、真っ白な光があふれ出した。

 一体何が起きているのかまったく分からない。

 人払いをさせるために部屋のドアのところに立たせていたサクルも、思わず反応してしまうほどのできごとだった。


「お嬢様!?」


 ざあっと広がった光が消え去ると、ゴトンという音とともに、エルの首に着けられていた重そうな首輪が床へと転がり落ちたのだった。

 どうやら無事に、奴隷という呪縛からエルを解放できたみたい。

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