Round30 お宝を狙うもの
ゲーティス辺境伯領内のはずれにある山中。あまり人の来なさそうなその場所に、ファブニールのお宝が隠された洞窟がある。
ここは本来、学園に入学後の一年目の中で私フィストニーナのシナリオだけで出るエクストラストーリーとして出てくる洞窟だ。このイベントをこなすことで、学園卒業のアフターストーリーにおいてファブニールが登場するフラグが立つ。それが乙女ゲームの本来の筋書きである。
なので、本来は16歳で起きるイベントを、私はよりにもよってグリフォンを退治(正確には追い返し)してしまったことで8年間も前倒ししてフラグを立ててしまい、今に至っている。
さて、そんなファブニールの洞窟に、私たちはやって来ている。
それというのも、ファブニールが異変を感じたためだ。そんなわけで、ファブニールは魔法の先生をやめると宣言してまで、財宝を隠した洞窟へと戻ってきたというわけだ。
私たちは洞窟の中へと入っていく。
「よかった。まだ問題はなさそうだな」
洞窟の中を確認したファブニールは、ほっとした表情を浮かべている。
ところが、すぐに表情を険しくしてしまい。隣に立つ私は思わず驚いてしまう。
「だが、この俺の財宝を狙う輩がいるとは、許しがたいな……」
うわぁ、めちゃくちゃ怖い顔をしてくれているじゃないのよ。魔力があふれているせいか、髪の毛がふわふわとしているわ。
これ、ゲーム通りに進めていたら、私に向けられていたのよね。なるほど、それでゲームではケンカを売って来たわけね。いろいろと納得がいくというものだわ。
「悪いな、フィストニーナ。やはりこれは俺の問題だ。お前は今すぐにでもゲーティス辺境伯のところへ送り届けよう」
「いやよ。ケンカを売ってくる連中がどんな連中か見てみたいもの。状況によっては、私も混ざらせてもらうわよ」
「お前な……。子どものケンカじゃないんだからな」
こんな面白そうなことに関われないなんて、諦められるわけないでしょうに。私は拳をがっしりと合わせながら、やる気十分の姿を見せている。
私が両手の拳をがっしりと何度も突き合わせていると、さすがのファブニールも呆れ果てていた。
「ああ、もう。好きにしろ。だが、危険だと思ったらとっとと逃げるんだぞ」
「了解」
あまりにも楽しそうな私を見て、追い返すのは無理と悟ったようである。
だけど、私は外には出してもらえなかった。相手は私を見たら、弱点になると思って飛び掛かってくるだろうと考えられたからだ。
そりゃそうよね。相手の弱いところを攻めるのは、戦いの基本ともいえる戦術だものね。
私を隠すようにして、ファブニールはドラゴンの姿へと変身する。
ドラゴンの姿じゃないのかと思うだろうけど、財宝を確認するために洞窟に入った時に、一度人型になっていたのよ。
それで、ドラゴンの姿に戻ったファブニールは、洞窟の入口をふさぐようにして相手を待ち続けた。
しばらく待っていると、やがて洞窟の近くの茂みががさがさと揺れ始める。音から察するに、どう考えても野生動物とは違う感じだった。
「こっちで合ってるんですかね」
「間違いない。このガキんちょがこっちにお宝があるといってるんだ。せっかく高い金を出して手に入れた奴隷だぞ。元を取らせてもらわないと、俺たちは大赤字なんだからよ」
ファブニールのせいでちょっと聞こえづらいけれど、今奴隷とか言っていたわね。
この『Grip Fist Graffiti』で奴隷といったら、一人しかいない。いや、本編に出てくる奴隷っていう意味でだけどね。
私の推測が当たっているのなら、その奴隷は犬の耳としっぽを持っていて、その毛色は光り輝くような褐色だったはず。
そう、獣人族のエル。エル・ドゥラードという名前で、攻略対象の一人だ。
ちなみに、このエルが本編で初登場登場するのが、さっき言ったエクストラストーリー。クリアできなくてもイベントを起こすだけでも大丈夫。こっちは学園三年間の間にもがっつりイベントが発生する。ただし、エクストラストーリーが後付けであるために、フィストニーナ専用の追加攻略対象になっている。
詳しい話はネタバレになるので、今は話さないわよ。
それにしても、ファブニールの登場が早まったせいで、まさかエル絡みのイベントまで早くなるとはね。これは予想外だわ。
私はファブニールと岩の隙間から、外の様子をちまちまと確認している。うーん、よく見えない……。
「へっへっへっ。財宝を見つけりゃあ、俺たちは大金持ちですねぇ、アニキ」
「ああ、なんとしても無事に手に入れて、一生遊んで暮らそうじゃねえか」
なんともにやけた顔をしている。その後ろでは、エルが首輪をつけられた状態で引っ張られている。なんてひどいことをするのかしらね。
よく見てみると、私と同じくらいの年齢の子どもじゃないのよ。
「フィストニーナ、絶対に動くな。こいつらは俺が始末してやるからな」
段々と近付いてくる怪しい連中に対して、ファブニールは漆黒の岩のふりをして息をひそめている。
ファブニールの財宝を狙いに来た連中はもうすぐそこだ。
私たちは、じっと連中の動きを見つめて、攻撃を仕掛けるタイミングを待ち続けるのだった。




