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フィストニーナ拳闘記~君と殴り合う乙女ゲーム  作者: 未羊


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Round28 望んでもいない展開

 まったく、本編開始前だというのに、私はグリフィス王子ルートへと強制的に進まされているらしい。

 いや、私の推しで本命は、ゲーティス辺境伯家のファラン様なのよ。頼むから、これ以上王子との間を埋めようとしないでくれないかしら。

 予想もしていなかった展開に、私は本気で頭を抱えてしまう。

 一応、ファブニールの行う魔法の授業では、公爵令嬢であるソニア様も同席なさることになっている。だけどこれね、完全にグリフィス王子ルートなのよね。だって、ソニア様がライバル令嬢になってしまっているんだもの。

 やめてくれないかしらね。本編始まる前にルートを固めるのはさ。ありえない状況に、私は頭が痛くなってくる。

 でも、悪いことばかりじゃないわ。お城で騎士団の訓練を見せてもらえるんだもの。ただし、いつも見れるとは限らないけどね。


 そんなわけで、私はお城に入れている特権を活かして、今日は騎士団の訓練を眺めている。

 拳と魔法の世界ということだけあって、騎士団は誰も武器を持っていない。ただし、鎧と盾は存在している。おかげで見た目のバランスが非常に悪い。

 しかも、盾を持っているなら盾を振り回した方がよくないかと思うんだけど、そこは拳の世界、盾はきちんと防御にしか使われない。

 この状況で盾も攻撃に使えるとか言ったら、絶対にみんな盾を捨て去りそうなんだもの。

 本当なら、投げたり押し当てたりっていうことが可能なんだけど、黙っているのが吉だわね。

 さてと、なんか見ているだけっていうのも面白くもない。私もこの世界に染まってきているのか、体を動かしたくてうずうずしてくる。


「フィストニーナ様? どうかなさいましたか?」


 隣に座って見学をしているソニア様に声をかけられてしまう。


「えっと、なんでもありませんよ。あははは」


 困ったような表情をされてしまったけれど、私は笑ってごまかしておく。さすがに騎士たちの訓練に混ざりたいなんていったら、今のソニア様なら引いてしまうと思うからね。

 しかし、私は思いっきり失念していた。この場に、ものすごく空気の読めないやつがいるということを。


「フィストニーナ、そんなに訓練に混ざりたいのですかね」


 そう、言わずと知れたファブニールだ。

 魔法の先生ということもあって、この場についてきてしまっていたのだ。ああ、何かしらいって遠ざけておくべきだったわね。


「フィストニーナ嬢、それは本当なのですか?」


 訓練に混ざっていたグリフィス殿下が、ファブニールのあほたれの言葉をしっかりと拾ってしまっていた。

 絶対泣かして財宝の一部をくすねてやるからね、覚えておきなさい。

 私はファブニールに怒りを覚えている。

 しかし、王子から声をかけられたとあれば、無視はできない。私は仕方なく反応する。


「ほほほっ、この魔法使いの戯言ですよ、本気にしないで下さい」


 やんわりと断る。

 ところが、今度は別の方向から切り込まれてしまう。


「フィストニーナ様、訓練を眺めながらなんだか我慢できなさそうにしていらっしゃいました。やはり、そういうことだったのですね」


 はい、ソニア様ですよ。ときどき私の方を見ていたのは、私の動きが気になっていたからか。

 ええ、そうですよ。訓練に混ざりたくて貧乏ゆすりをしてましたよ、ホントにね。

 とはいえ、この年齢だとだいたい止められてしまうので、騎士たちの訓練を見て、戦いのイメージをつかもうと必死にしていましたよ。

 13歳の時に戦うことになる、ネイリア様を絶対に突破してみせるためにもね。ステータスで上回っても、立ち回りができなければ意味がないんだからね。


「それでしたら、僕が受けている訓練の内容で、一緒に参加してみませんか? 騎士たちに比べれば内容は控えめですので、おそらくフィストニーナ嬢でもついてこれると思いますから」


 これは思わぬ申し出だと、私は一瞬そのまま乗りかけた。

 だが、私はすぐに思いとどまった。慌てるな、これは孔明の罠だ。

 おそらくグリフィス殿下の誘いを受ければ、ますます王子ルートに入ってしまいかねない。そこに思い至った私は、首を横に振る。


「いえ、殿下の訓練を邪魔するわけにはいきません。私はこのまま見学で十分でございます」


 笑顔で断る。

 ファブニール、舌打ち聞こえたからね?

 背後のファブニールの行動にイラつきながらも、私はとにかく笑顔を保った。


「そうですか。それは残念ですね」


 困ったことに、グリフィス殿下が本当に残念そうに表情を曇らせている。ちょっと待ってよ、罪悪感を抱かせないで。

 私は、殿下の見せた態度に衝撃を受けてしまう。

 やめて、本命(ソニア様)のいらっしゃる前でそんな反応はやめて。

 私は正直言って、心から青ざめた。

 だけど、その時に見たソニア様の表情に、私はさらにぎょっとしてしまう。

 なぜなら、ソニア様も残念そうな顔をしているからだ。どうやらこの場の全員が、私の訓練への参加を期待しているらしい。ちょっと待ってよ、これってどういう状況なのよ。

 私はなぜかいたたまれなくなってくる。


「分かりましたよ、受ければいいんですよね」


 よく分からない罪悪感にさいなまれた私は、やむなくグリフィス殿下と同じ内容で訓練を受けることにした。

 そしたら、グリフィス殿下もソニア様も、なぜか明るさを取り戻していた。


 こうして、お城の騎士団の訓練に参加した私だったけれど、ますますグリフィス王子ルートに入っていってしまっているようで、お腹が痛くなってくる。

 ああ、ここからどうしたらファラン様ルートに戻ることができるのかしら。

 その日の夜は、喜びと悲しみの同居した、複雑な気持ちの夜を迎えた私なのであった。

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