Round25 下手こいた
数日後、対人対戦の経験をどうやって積むかと悩んでいた私の耳に、思わぬ話が入ってきた。
それは、私の魔法の先生をしているファブニールを、王家で魔法を教える先生としてはどうかという話が持ち上がったからだ。
理由は、先日のビッグディアーの素材の一件。
短時間で移動できる方法を持っていたり、大量の素材を持ち歩くことができたりと、男爵令嬢である私の先生であるのはもったいないという話が持ち上がったのだ。
そういった提案が出てくる理由は分かるのだけど、さすがに私はその提案をおいそれと受け入れることはできなかった。
だって、ファブニールは私専用の隠し攻略対象だもの。あんまり表に出すのはよろしくないわ。私以外に転生者がいないとは限らないもの。もしいたとするなら、絶対狙ってくるわ。できることなら隠し通しておきたいというものよ。
だけど、私の気持ちなんて素直に言えるわけがもない。あれよあれよという間に、ファブニールは王子であるグリフィス殿下と顔を合わせることになってしまった。ああ、無力だわ。
それでも私は、王国の騎士たちと拳を交えられる絶好の機会として、開き直ることにした。
というわけで、結局ファブニールは王家で魔法を教えることになってしまった。ああ、私の手元から離れてしまうのは実に惜しい。
ちなみに、その際に、私も同行することを許可された。それというのも、ファブニールの魔法の先生としての評価を直に訴えるため。
私は、緊張した面持ちでお城へとやってきた。
「フィストニーナ・バイタラル男爵令嬢よ、よくぞ参ったな」
「本日はお招きいただき、光栄に存じます。フィストニーナ・バイタラル男爵令嬢でございます」
国王陛下のお言葉を受けて、私はきちんと挨拶を返しておく。普段から体を鍛えているから、カーテシーも完璧よ。少しも体の芯がぶれないわ。
「で、そちらが件の魔法使いか」
私に視線を向けていたのも束の間、国王陛下はすぐさま私の隣にいるファブニールに視線を向けている。完全に魔法使いに興味を持っているということね。
ファブニールは、跪いて黙り込んでいる。
「その方、名をなんと申す」
「ファブニールと申します」
国王陛下がファブニールに名前を聞いている。さすがに尋ねられたら、答えないわけにはいかない。さすがのドラゴンであるファブニールも空気を読んですんなりと答えている。
「なにやらすごい魔法使いだと聞いているのだが、一部を見せてもらうことはできるかな?」
「ここで使うには、いささか狭いと思われます。どうしてもというのでしたら、私の弟子であるフィストニーナの魔法でも見てもらえれば分かると思います」
は?
ファブニールは自分で使うことなく、私に対して無茶振りをしてきた。こいつ、何を考えているのよ。
私がその顔をじっと覗き込めば、とんでもなく悪い顔で笑っている。鬼、悪魔、ろくでなし!
私が発言できる状況にないことをいいことに、ファブニールの無茶振りに従って、国王陛下が動いている。
気が付くと、私たちがいる謁見の間の中に、盾を持った兵士が入ってきた。拳ばかりの世界だと思っていたけど、盾はあるのね。これはびっくりだわ。
「フィストニーナよ。そこにいる兵士に対して、魔法を何か使ってみせよ」
なんでか、私が魔法を披露する流れになっている。どうしてこうなった。
とはいえ、この状況では断れない。仕方がないので、私は要求通りに魔法を使うしかなかった。
ゆっくりと盾を持った兵士に対して、私は向かい合って立っている。
……よく思えば、これって対人の経験ができるってことよね。まさか、ファブニールってばそのために私に無茶振りをしたわけ?
なんかうまく乗せられている気がするけれど、今はそんなことを言っていられない。私の結果がファブニールの評価にもつながるし、さらにいえば推薦した私の両親の評価にもつながる。
ああ、もう。やるしかないわけか。さすが扱いがぞんざいなモブヒロインだわよ。
私は一度深呼吸をして、拳をしっかりと構える。
相手はかなりどっしりとした盾を構えている兵士だ。多少力を込めても、まだ九歳の私の力なら大丈夫だろう。
そんなわけで、思いっきりぶち当たってみることにする。
右の拳に魔力を集中させ、散々何回か放ってきた得意の風魔法を放つ準備をする。
場はしんと静まり返り、私に視線が集中している。だけど、今はそんな視線も気にならない状況になっている。
「いきます!」
十分風魔法をチャージした私は、これから放つという宣言を行う。その方が安全だから。
目の前の盾を持った兵士が、がっちりと構え直す。
私は、その兵士に向かって風魔法の乗った拳を思いっきり突き出す。
次の瞬間、兵士が吹き飛んでいた。
謁見の間の壁まで吹き飛ばされていっていたけれど、さすがは鍛えられた王国の兵士、しっかりと盾でダメージを防いでいた。
だけど、この広い謁見の間で、国王陛下の前から入口の壁まで吹き飛ぶなんてまったく思ってもみなかった。
あれっ、これって、まさか……。私、もしかしてやっちゃいました?
拳を突き出した姿勢のまま、私はまったく動けなくなってしまったのだった。




