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フィストニーナ拳闘記~君と殴り合う乙女ゲーム  作者: 未羊


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Round23 ゲームと現実の違い

 ファブニールの秘法の隠し場所を見せてもらった私は、実戦稽古と称してビッグディアーと向かい合っている。

 ビッグディアーというのは、名前の通り、バカでっかい鹿。日本で見たことのある鹿と比べて、倍くらいの大きさはあると思われる。頭にある角がとにかく怖い。

 デザインとしては、トナカイを踏襲したような感じね。

 突進から繰り出される角はとにかく痛い。魔法をしっかり使って防御しないと、ゲームではかなりのHPを持っていかれる。火力自体は、隣国の王子であるヒール・グラプラーよりは下だけど、痛いことには違いない。

 ゲーム本編及び私フィストニーナだけが体験するその後の話で何度か対戦できるし、練習モードでも戦うことができる。つまりは、私が13~16歳の時に戦う相手ってことね。

 だけど、今の私は9歳という未熟な状態よ。ならば、確実に一撃は致命傷につながりかねない。この辺りもゲームと現実の違いってやつよね。

 危険は危険だけど、実戦経験を積みたいといったのは私だから、逃げ出すわけにはいかないわよねぇ。

 ビッグディアーはあごを引いて角を前に出し、前足は頻繁に土をすくっている。いつでも攻撃が仕掛けられるということなのだろう。私とビッグディアーのにらみ合いはしばらく続いている。

 仕方がない。危険なのは承知で、私から仕掛ける仕草を見せた方がいいだろう。そう考えて、私はぐっと体を沈みこませる。

 ビッグディアーは、私のその小さな動作を見逃さなかった。攻撃を仕掛けてくると思ったらしく、ついに私に向かって突進してきた。

 思ったよりも速い。

 だけど私だって今回は冷静だ。右手にしっかりと魔力を練り込み、角がぶつかるかどうかのところで拳をしっかりと突き出す。


「やあああっ!」


 私は気合いのこもった声とともに勢いよく拳を突き出すと、その拳から風魔法が発動する。

 気合いを入れ過ぎたせいか、私の拳から放たれた風魔法は、至近距離にあったビッグディアーの角をへし折っていき、そのままビッグディアーを突き飛ばしてしまった。

 大きく吹き飛んだビッグディアーは地面に叩きつけられ、ぴくぴくとけいれんしている。


「えっ、ちょっとぉ……」


 あまりにも強力な一撃だったせいで、放った私自身が固まってしまっている。


「さすがは俺が教えただけのことはあるな。お前も筋がいいから、予想以上に高い威力が出たようだ」


 ファブニールはものすごく楽しそうに笑っている。


「角は粉砕してしまったが、これでも問題はあるまい。砕いて粉末にしてやれば、薬などに使えるからな」


 ああ、こっちの世界にもそういうのがあるのね。私の前世にも、鹿茸だったかしら、漢方にそういうものがあったはず。


「さぁ、こいつにとどめを刺してやれ。持って帰って土産にするぞ。なぁに、俺が魔法で持って帰ったことにすれば、お前には迷惑は掛からんだろう。安心しろ」


 ファブニールは笑いながらとんでもない提案をしてきた。私にビッグディアーのとどめを刺せと言っている。

 私はずいぶんと考え込んでしまう。ここで私を悩ませているのは、前世の経験だ。

 私が前世で殺したことがあるといえば、小さな虫程度。哺乳類にはそういう経験がない。なので、ついちゅうちょししてしまうのよね。

 だけど、ファブニールからは強く注意をされてしまう。

 魔物というのは、中途半端に生かしておくと、強い生命力で回復した時に再び襲い掛かってくるらしい。つまり、一度遭遇してしまえば、殺してしまうか、遠くへ吹き飛ばすか、十分な恐怖を与えるのどれかを行わなければならないとのこと。

 その話を聞いた私は、やむなく一番残酷な選択をすることにした。


「ごめんなさい。その血肉は私たちの役に立てさせてもらいます」


 私は先程と同じように拳を構え、心臓の部分に向けて思いっきり土魔法で強化した拳をぶつける。

 ビッグディアーはその衝撃で口から血を吐くと、しばらくけいれんしたのちぴくりとも動かなくなった。

 なんだろう、この罪悪感は。

 そっか、これが生き物を殺すっていうことなのね。

 ゲームの中だと平然と倒していたのに、いざ自分で経験してみると、これほどまでに後味が悪いものだとはね。

 ふぅ……。これが現実とゲームの違いか。

 どことなく割り切ってはいたと思っていたけれど、やはり実体験をしてみるとなんとも気持ち悪いものだわね。


「よく倒せたな。とりあえず、血抜きだけはしておくぞ」


 私が立ち尽くしていると、ファブニールがどこからともなくナイフを取り出して解体を始めている。ああ、この時ばかりは刃物を使うんだ。


「気持ち悪いのなら、後ろを向いておけ。だが、腐敗が酷くならないように血抜きをしておくだけだから、そこまでグロテスクな状況にはならんぞ」


 ファブニールはビッグディアーの首筋にナイフを入れている。これが血抜きらしい。

 確かに、血が残っているとえぐみの原因になるとか言ってたっけかな。

 十分な血抜きが終わると、ファブニールは空中に妙な空間を出現させている。


「わっ、何よ、それ」


「これが我が財宝を集めてこれた一番の理由だ。これさえあれば大量の物品を一度に安全に運べるのだよ。なんか使いたければ、引き受けてやってもよいぞ」


 ファブニールが言うには、亜空間収納だとか。この世界にも亜空間なんて単語があるのね。魔力で作り出した空間のような何かということで亜空間らしい。

 興味はあるけれど、私で覚えられるかなぁ……。

 さっきまでの気持ち悪いような罪悪感はどこかへと吹き飛び、私はファブニールの持つ亜空間収納に完全に興味を奪われた。

 この後、その日の食事用にもう一頭を狩ろうということになって、私はさっきの要領でビッグディアーをもう一頭狩ることに成功したのだった。

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