Round19 ファブニールによる魔法授業
中庭にやってきた私は、ファブニールにまずは魔力の使い方を実演で教えてもらう。この間の風の拳はグリフォンの羽による特殊効果ということで、ノーカン扱いになっている。
「いいか? 魔法を使うには体の中にある魔力の流れを感じ取らなければならない。それができないと、魔法を使うなんてことは夢のまた夢だ。これまでの座学で大体は頭で理解しただろう。今日はその実践だ」
「はい」
ファブニールの説明を聞いて、私は元気よく返事をしておく。
だけど、私の気持ちはとにかく先走っていて、魔法を使いたいという願望が体中から漏れ出ていた。そのせいでファブニールにすんごい渋い顔をされてしまっている。
「早く使いたいのは分かるが、俺みたいなドラゴンならまだしも、お前ら人間は段階を踏まないと暴走して地獄を見るぞ」
「ぼ、暴走……?!」
なんとも物騒な単語を聞いて、私はファブニールへと慌てて顔を向ける。
「座学で少し説明しただろうが。正しく体の中で魔力を循環させねば、行き場を失った魔力が一か所に留まって大爆発を起こすと」
「ひっ!」
ファブニールの脅すような言葉を聞いて、私はその凄惨な状況を思い浮かべてしまった。モザイクかかりまくりのグロ画じゃないのよ。あぁ、吐きそう……。
私が口を押さえて青ざめる様子を見て、ファブニールは楽しそうに笑っている。この鬼畜ドラゴンめ。
とにかく、そんな地獄絵図になるわけにはいかないので、私は魔法を使うために体の中の魔力の動きをしっかりと感じ取ろうとする。
ちなみにだけど、魔法を使えない状態の方が、魔力の循環はとても自然らしい。つまり、魔法を使おうとするとその循環が乱れることになるので、しっかりとした段階を踏む必要があるのだという。実に面倒くさい。
とはいえ、将来的に戦うことになる相手を思えば、ここでしっかり魔法を身につけておかないと、ケガで済まなくなる可能性がある。
特に、私のメインストーリーで攻略対象になっている隣国の王子様。彼はたった一撃で、ステータス最大となった私のHPバーを三分の一ほど削ってくる。頑丈と体力のステータスカンストでこれよ?! どんだけ火力バカなのよ。
それを思えば、魔法によるスキルがなければ、その王子の一撃で私に風穴が開くというわけだ。ヤッテラレナイネ。
なんとも恐ろしい未来が待っているからこそ、私にとって魔法は急務。脅しに負けず、なんとしても魔法をこの年でものにしてみせるわよ。
結果、朝から鍛練を始めた私は、夕方には……うん、無理でした。
さすがはモブヒロイン。転生者チートなんてものはなかった。さすがに私は両手をついて落ち込んでしまう。
「筋はいいんだがな。どこかちぐはぐだな、お前は」
ファブニールにもこんな風に言われる始末だ。どんだけなのよぉっ!
これがッ、圧倒的ッ、モブヒロインッ!
私が落ち込んでいると、見かねたファブニールが声をかけてくる。
「しょうがない。魔法はまた明日にして、ちょっと俺と拳でも交えるか?」
「えっ?」
私は驚いて思わず顔を上げてしまう。
殴っていいの? 合法で殴っていいの?
思ってもみなかった提案に、私は目をキラキラと輝かせてしまう。
「そこまで喜ぶとは思ってもみなかったな。一応俺はドラゴンでお前の魔法の先生ということになっている。手加減はしてやるから、持てる力の全力でかかってこい」
よっしゃーっ!
私は心の中でガッツポーズをする。
だったら、遠慮なくやらせてもらうわよ。これまでの筋トレの成果、あんたの体に叩き込んでやるわよ。
というわけで、私はファブニールと拳を交えることになった。
そもそも乙女ゲームでは、学園三年間を終えた後のエクストラクエストで出くわす相手。ただ、ドラゴンじゃなくて人間形態なんだけどね。
とりあえず、そんな相手と本編前の時間軸で戦えるんだから、めっちゃ燃えるに決まってるじゃないの。
「俺から手を出せばケガで済まない可能性はあるから、一方的に攻めさせてやる。遠慮はするなよ?」
「分かったわよ」
私はファブニールと向かい合う。ファイティングポーズを取り、じりじりと攻撃を仕掛けるタイミングを窺う。
(ここっ!)
走り込みで鍛えた足を使って、私は真っすぐファブニールに突っ込んでいく。対処できないように、小さく体を捻って拳を少し後ろに引き、鋭くファブニールの脇腹めがけて振り抜く。
だけど、外した。ええ、躱されたのよ。
おかしい。隙は小さくしたはずなのに、こうも簡単に躱されるなんて……。
だけど、驚いて動きを止めるわけにはいかない。振り抜いた拳を引き戻す反動を使って、左拳による次の一撃をファブニールに叩き込もうとする。
……空振り!
ファブニールはあざ笑うかのように、後ろにバックステップをしていた。しかも、最小限の動きだ。
「うわっとっとっ……」
大きく拳を振りすぎてしまった私は、そのままバランスを崩してしまう。
このまま地面に倒れてしまうかと私だったけど、私は倒れることはなかった。
「まったく。体は大丈夫そうだというのに、気合いが空回りして、体も同じように振り回されている。少しは落ち着いたらどうなのだ」
私はファブニールに体を支えられていた。それに加えて優しく注意までされてしまう。
恥ずかしくって顔が真っ赤になってしまうわ。
「わ、悪かったわね。どうせ子どもですよ」
ファブニールから慌てて離れた私は、強がりながらファブニールに背中を向けている。ええい、なんで私はこんなドラゴンにドキドキしてるんだ。
「とりあえず、まだまだ実戦には立てんな。これからは俺が鍛えてやるから、覚悟することだな」
ファブニールの言葉に、私は悔しそうにしながら振り返って、小さく一度首を縦に振った。
ああ、悔しくて仕方がない。
絶対に、このドラゴンをぶん殴ってやるーっ!




