Round17 しつこいドラゴン
結局、ファブニールの出現によって、私の目論見はすべてが崩れ去った。
自分の体力のなさでほとんど静養状態にあったのもそうだけど、ファブニールのせいで予定が全キャンセルになったもの。
はあ、これじゃステータスは楽勝になっても、実戦経験皆無の状態で問題のネイリア様のイベントを迎えなくちゃいけなくなるわ。とはいっても、五年後なんだけどね。
「うーん、なんとかして実戦を積む機会が欲しいなぁ……」
家に戻ってきた私は、ベッドで転がりながらこんな愚痴をこぼしていた。
「フィストニーナよ。何ゆえそんなに実戦を求める」
ベッドで転がる私に声をかけてくる存在がいる。それは、ここまでついてきたドラゴンであるファブニールだ。
私の屋敷までやってきたファブニールは、素早く姿を消してしまった。どこに行ったのかと思ったら、私の服の中に小型化して紛れ込んでいたのよ。まったくこのスケベが。
で、部屋の中に戻ってきたらこうやって姿を見せて私にうざ絡みをしてくる。寝かせてよ。
だけど、さすがにうるさすぎて無視ができない。しょうがないので、相手をすることにする。
「私のこれからが、苦難ばかりだからよ。暴走したご令嬢に襲われるとか、魔物の群れに襲われるとか、なんだってヒロインなのにこんな苦難に襲われなきゃいけないのよ」
「ひろいん? ひろいんとは何ぞな?」
しまった。こいつは私のような転生者じゃないんだった。私の知識で話しても通じるわけないじゃないのよ。
とはいえ、口走ってしまった以上は、ちゃんと説明した方がいいかしらね。
「ヒロインっていうのは、物語の中心となる女性のこと。信じられないと思うけれど、この世界はとある物語の世界とよく似ているの。その世界のヒロインこそが、私、フィストニーナ・バイタラルっていうわけよ」
「ほうほう、それは興味深いな。もっと詳しく聞かせてくれ」
「やーよ。全部話してたら一日じゃ足りないもの。そんな面倒をするくらいなら、体を鍛えるわよ」
ファブニールが食いついてくるけれど、私は軽く突っぱねてあげた。本当に相手をしている暇はない。
それにしても、隠し攻略対象のくせに、なんでこんな時期にこんなところにいるのかしらね。わけが分からないわ。
「お前は俺の名前を知っていたしな。一緒にいれば、興味は尽きないだろう」
「あんたねぇ……。自分のところはどうだっていうのよ」
「なぁに、俺は天涯孤独の身。集めた財宝だって、そう容易には見つからぬ場所にあるからな。ふっ、何も心配ないというわけだ」
猫くらいの大きさまで小さくなっているくせに、態度だけはドラゴンのままね。本当にイラついてくる。
ああ、こんなのに構っていられないわ。私は体を鍛えないといけないのよ。
私はベッドから起き上がると、どこからともなくマットを取り出して、その上に裸足で乗っかる。
ただ、この世界の令嬢は基本的にタイツを穿いているから、ちょっとマットの上ではすべりやすい。気をつけなくっちゃね。
「何をしておるというのだ」
「何って、体を鍛えているのよ。腕立て伏せに腹筋、背筋などを鍛えているの」
「ふむ……。最強には興味がないと言っていた割には、鍛えるのだな」
ファブニールの問い掛けに、私は答えている。こういうことはさっさと答えておかないと、すぐに質問攻めになるからね。
ところが、早速質問が飛んできた。ゲーティス辺境伯邸での答えが気になっている模様。ああ、まったくああ言えばこう言うなんだから!
「さっき言ったでしょうに。私の人生には多くの苦難が待ち受けているの。それを突破するには、きちんと鍛えておかないといけないのよ。そうしないと、最初の山場でうちが没落することだってあり得るんだから」
私は腕立て伏せをしながらファブニールの質問に答える。ぐっ、何回やったのか忘れたじゃないのよ。
「なるほどな。ああ、今ので18回だ」
ファブニールは納得しながら、なぜか数字を言ってくる。こいつ、私の思考を読んだわね?!
ぐぬぬぬ……。ドラゴンはやっぱりドラゴンか! 変なところで力を発揮してくれるわね。
「余計なことを考えていると、また数字を忘れるぞ。集中したらどうなのだ」
あんたのせいよ。
相手にするのもなんなので、私は心の中で叫んでおく。
そんなこんなで、私はファブニールに絡まれながらどうにか筋トレを終わらせる。八歳にして全部を100回ずつ消化できるのは、前世を考えてもあり得ないでしょうね。
「なるほどな。こんなことをしているから、俺をあんなに驚かせることができたのか。魔法の才能もかなりあるようだし、これならばかなり鍛えがいがあるというものだな」
筋トレを終わらせ私の横で、ファブニールはやたらと感動しているような様子を見せている。まったく、独り言のうるさいドラゴンだわね。
それにしても、今の言葉は本当に引っかかる。
ゲーティス辺境伯邸内でも言っていたけれど、私に魔法の才能なんてそこまであるのかしらね。疑わしい限りだわ。
「なになに、今夜からでも教えてやれるぞ。俺が隠遁できているのも、魔法があってこそのことだしな」
やたらとにやけているので、なんか殴りたくなってくる。
でも、魔法を教えてくれるというのなら、それに従っておいた方がいいかしらね。
「よし、だったら楽しみにしておけ。明日はあっと驚かせてやろう」
ファブニールはそういうと、私の前からパッと姿を消してしまったのだった。
まったく、どこまでも勝手なやつなんだから。




