Round15 ドラゴン襲来
ゲーティス辺境伯邸にて、私がバトリシア様とお茶を楽しんでいると、突如として私たちのいる場所が暗くなる。
何が起きたのだろうかと、私たちはそろって部屋の下から飛び出して、上空をふと見上げる。
なにやら巨大なものが、空中を漂っている姿が見える。一体何が現れたというの。
「あれは、ドラゴン?!」
「は?」
空を見上げたバトリシア様の言葉に、私は目が点になった。
ゲーティス辺境伯邸の上空に、なんとドラゴンが現れたのだ。いやいやいや、なんで待ってどうなってんの。
そもそも、この『Grip Fist Graffiti』のゲームの中で、ドラゴンとか聞いた覚えがないんだけど?!
と思ったのも束の間、私はとある情報を思い出した。
それは、攻略対象の一人の情報だった。
私、フィストニーナの攻略対象の一人に、それっぽい記述があったことを思い出した。
その記述があった場所は、学園三年間を終えた後のエクストラストーリーだ。
全部で十人いる攻略対象のうち、追加で実装された攻略対象の一人が……。
「ファブニール……」
このファブニールというのは、ドラゴンであるファフニールの表記ゆれであり、その攻略対象の名前よ。
私の把握している限りは、ドラゴンであるということは明言されていない。ただ、ボクシス王国にひょろっと現れて、数回戦闘を繰り返すことで攻略できるというちょろメンという扱いだったかしら。
そして、私がこの情報に軽くたどりつけた理由は、このイベントが、このゲーティス辺境伯関連で発生するから。
「フィストニーナ様?!」
次の瞬間、私は走り出していた。
この時の私は、なぜかここにいてはいけない気がしたから。だから、要塞のようなゲーティス辺境伯邸の一番高い場所へと私は移動していく。
「はぁ、はぁ……」
私は病み上がりの体を押して、どうにか辺境伯邸の一番高いところへとやってきた。
その瞬間、辺りを見回していたドラゴンの視線が、私の方へと向く。
チックショー、ビンゴだよ。狙いは私だ。
いや、なんだって私がドラゴンに狙われないといけないのよ。理由が分からない。
だけど、私に視線を向けたという以上、私がどうにかしてこのゲーティス辺境伯邸を守らないといけない。来るなら来い!
はっきり言って怖い。足はがくがくと震えている。
上空からはドラゴンが近付いてくる。
(ああ、もう。どうにでもなれーっ!)
そう思った私は、右腕をぐるぐると回し、近付いてくるドラゴンに向けて思い切り突き出す。
ゴオォッ!!
次の瞬間、私は目を丸くした。
私の拳から、とんでもない風魔法が発生したからだ。
一体どういうことなのよ。
だけど、驚くのはまだ早かった。
私の右手から発生した拳の形をした風の塊は、空から降ってくるドラゴンの眉間に命中していた。
「ゴハッ!」
なんかすごい声が響き渡っている。
それと同時に、どういうわけかドラゴンが吹き飛んでいく。
「えっ……」
私はとにかく呆然としてしまう。
いや、何が起きたのよ、今……。
次の瞬間、吹き飛んだドラゴンに向けて、ゲーティス辺境伯の抱える騎士たちによる攻撃が一斉に放たれている。今が好機とばかりに畳みかけるような攻撃だ。
「はえー……。この世界のドラゴンとの戦いってこんな感じになるのかぁ」
私は慌てて手すりに手をかけて、騎士たちとドラゴンの戦いを眺めている。
わらわらと集まった騎士たちが拳で直接ドラゴンに殴りかかったり、遠距離から拳を振るって魔法を放つ様子が窺える。いや、分かってはいたけれど、なんともシュールな光景でしかなかった。うん、例えるなら獲物に群がるアリのような感じ。
ところが、騎士たちに襲撃されているドラゴンは、どういうわけか攻撃を加えようとはしなかった。それどころか、そのまま飛び去って行ってしまう。何しに来たんだろ……。
ただ、その飛び去る瞬間に、私の方へとちらりと視線を向けてきた。
ということは、やっぱり私に用事があったというのかしら。
「フィストニーナ様!」
「ニーナ様、ご無事ですか?」
私が呆然とドラゴンが飛び去っていく様子を見守っていると、バトリシア様とサクルが私のところまでやって来ていた。
急に走り出したものだから、心配でついてきたようだった。
「まったく、病み上がりだというのに、無茶をしないで下さい。何かありましたら、奥様に叱られてしまいます」
「あっ、ごめんなさい、サクル……」
息を切らせながらお小言を言うサクルに、私は一応謝っておく。
そして、バトリシア様にも心配をかけたので、こちらにも頭を下げて謝罪をした。
結果として、ドラゴンが襲来したにもかかわらず、まったく被害が発生することなく撃退できた。
けれど、あのドラゴンはどう見ても私に対して用事があったように見える。しかしながら、私にはドラゴンに狙われるだけの心当たりがない。本当に何をしに来たんだろう。
とはいえど、ドラゴンの襲撃を受けたということで、ゲーティス辺境伯は客人である私たちを送り返す決定をしてしまった。
明日は王都に向けて出発しなければならない。
ファラン様をほとんど拝めないままでの帰還に、私はすこぶるショックを受けてしまう。けれど、命には代えられないかぁ。
その夜の私は、ショックのあまりに枕を涙で濡らすことになったのだった。




