Round13 辺境伯の洗礼
私がやってきたのは訓練場。そこにはゲーティス辺境伯家の騎士たちはもちろんだけど、お母様たちもいる。
わけも分からずにつれてこられた私だけど、しばらくして全員が急に動き始める。
何が始まったかと思うと、早朝のランニングだった。
辺境伯家の近くでは魔物との戦いが尽きることはない。そのため、とにかく体力が必要。それで、早朝から走り込みを行っているというものだった。
よかった。ランニングなら私も毎日欠かしていない。起きた時間自体は早いけれど、相当に早いけれどね。この時点では。
やがて、朝食の時間を迎える。
「た、助けて……」
私はすっかりげっそりとしていた。
それというのも、まだ八歳という私に対して、大人と同じ鍛練プログラムを課してくれたからだ。
私自身、それなりに鍛えたつもりなんだけど、さすがにゲーティス辺境伯家の訓練は格が違った。
屋敷と近くの森の入口を、何往復もしていた。途中までは数えていたんだけれど、疲れてきて最後にはどうでもよくなっていた。
確認すれば、十往復したらしい。私はその半分の五往復でギブアップだった。
一緒に参加されていたファラン様とバトリシア様は、それを見事完遂なされていたのだとか。いや、同い年とは思えない。
(なるほどねぇ……。相手の攻撃に耐えるHPの項目がSランクになっていた理由が、よく分かるわ……)
私はゲームでのバトリシアのステータスを思い出していた。
あのゲームには、全部で六つのステータスが存在している。
直接的な攻撃や一部の物理系スキルに影響を与える『力』。
相手からの物理攻撃のダメージに対する軽減度に影響する『頑丈』。
魔法スキルの威力に対する影響を及ぼす『魔力』。
魔法スキルのダメージを軽減させる『精神』。
オートの時の行動精度を高めたり、スキルの使用回数やクールダウンに影響を与える『知力』。
そして、なにより相手の攻撃に耐えるための根本的なHPというステータスに影響を与える『体力』。
バトリシア様は、この中でも体力と頑丈のステータスの数値が高く、伸び率も高いSランクを持っている。守りのゲーティス辺境伯というのを体現している。その分、魔法関係のステータスは若干低いんだけどね。
なんといっても、火力が最大級である隣国の王子王女の攻撃にも軽く四発は耐えられるステータスを持ってるものね。納得だわ。
そんなことを思い出して、私はのどを通らない食事のつらさをどうにか忘れようとしていた。
すごいわね。疲れすぎると逆に食事を受け付けないんだから。
「おや、ニーナ。いつもは残さず食べるのにどうしたのかしらね」
母親に心配される始末だ。
こういう母親は、私と違って食事をがっつり食べている。なんで食べられるのか、私は甚だ疑問に感じてくる。
ちなみに私は、固形物がほぼ全滅。スープとそれに浸して食べられるパンだけがなんとかのどを通ったくらい。うん、とてもじゃないけど体が受け付けない。
「お母様、申し訳ありません。朝の鍛練で、食事がのどを通らないのでございます」
「まあ、そうだったのね。でも、ニーナは半分でやめていたじゃないの。そんなに食べられないの?」
お母様には信じられないって顔をされている。ええ、本当に食べられないの。そんなにいつまでも疑問だなんて顔をしないで下さいませ。
「まあまあ、バイタラル男爵夫人、そのくらいにしておいてあげなさい。夫人も最初の頃はそのような感じではなかったですか」
「あら、そうでしたっけ? あまり覚えがありませんわね」
ゲーティス辺境伯様に指摘されるも、お母様はまったく覚えがないととぼけている。
ああ、これはあれだ。都合の悪いことは忘れてしまうというやつだ。多分、お母様は私よりもひどかったのだろう。
「さすがに初日から、屋敷と近くの森の入口との間を十往復というのは、ご令嬢には厳しすぎたか。だが、これくらいこなす体力がないと、我が領で生き延びることは厳しいのだ。そのことを、胸にしっかり刻んでおいてくれ」
「はい、承知致しました」
私はこのように返事をしておく。
なんといっても私の推しはファラン様だ。将来的に嫁ぐ可能性があるので、私はこの訓練に慣れておく必要があるというわけだわね。
さすがに無茶はできないけれど、できる限り付き合わせてもらいますとも。
私は、食事がのどを通らないくらいに疲れてはいたけれど、やれるだけやってみようと改めて決意を固めることにした。
だが、そんな決意もあっさり崩れ去る。
その後の訓練も、想像を絶する厳しさ。こんなことを毎日繰り返しているっているのかしら。はっきり言って頭がおかしいと思う。
でも、弱音なんて吐いていられない。私はモブヒロインで終わらないためにも強くなる必要があるんだから。
そんなわけで、無理やりゲーティス辺境伯の鍛錬に付き合った結果、初日の私は途中からまったく意識がなかった。
改めて気が付いた時には、翌日の夕方。そう、まるっと一日ほど気絶をしていた。
目を覚ましたのはいいけれど、さらにまる一日の安静を命じられてしまった。
つ、強くなるのは簡単じゃないわね。
改めて思い知らされる私なのであった。




