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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ


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9/10

理解されないものは、怪物になる

 噂が広がるのは、早かった。



 次の日には。



 もう。



 学院中が知っていた。



「見た?昨日の」



「ミナ・アッシュだろ」



「やばかったって」



 廊下。



 食堂。



 訓練場。



 全部。



 どこに行っても。



 私の話。



 でも。



 前とは違う。



 “無能”じゃない。



 “危険”。



 評価が変わった。



 ただ、それだけ。



「……」



 別に。



 どうでもよかった。



 席に座る。



 静か。



 前みたいに避けられてはいる。



 でも。



 空気が違う。



 今は。



 恐れている。



 理解できないものを見る目。



 それが、一番近い。



「ミナ」



 声。



 教師。



「放課後、第一訓練室へ来い」



 短い。



 拒否権もない言い方。



「……了解」



 頷く。



 周りがざわつく。



 第一訓練室。



 学院で一番広い場所。



 実戦用。



 つまり。



 まともな話じゃない。



 放課後。



 訓練室の扉を開ける。



 広い。



 静か。



 そして。



 人がいる。



 三人。



 教師じゃない。



 大人。



 黒い制服。



 学院の人間じゃない。



「……誰」



 自然に口から出る。



「中央管理局」



 一人が答える。



 女。



 短い銀髪。



 目だけが冷たい。



「危険能力監査部門」



 長い名前だな。



 最初の感想が、それだった。



「ミナ・アッシュ」



 名前を呼ばれる。



「君の能力について、確認を行う」



「拒否したら」



「拘束対象になる」



 即答。



 迷いなし。



 なるほど。



 そういう世界か。



「……別にいいですけど」



 本当に。



 別に。



 困らない。



 逃げる理由もない。



「では始める」



 一人が前に出る。



 男。



 背が高い。



 魔力が、重い。



 学院の教師より強い。



 たぶん。



 かなり。



「防御は自由。こちらも本気で行う」



 その瞬間。



 空気が変わる。



 重圧。



 押し潰すみたいな魔力。



 普通なら。



 立ってるだけで無理だ。



 でも。



 私は思う。



 “雑”。



 力が大きいだけ。



 流れが粗い。



 隙間だらけ。



「行くぞ」



 速い。



 一瞬で距離を詰める。



 拳。



 魔力を纏った打撃。



 普通なら見えない。



 でも。



 見える。



 遅いから。



 私は動かない。



 その場で。



 ただ。



 “合わせる”。



 男の動きに。



 じゃない。



 世界そのものを。



 私に。



 その瞬間。



 男の拳が。



 止まる。



「——なっ」



 完全停止。



 空中で。



 不自然に。



 ありえない形で。



 空気ごと固定されたみたいに。



 静止する。



 私は。



 少し考える。



 ああ。



 これ。



 簡単すぎる。



「離れろ!」



 別の監査官が叫ぶ。



 同時に。



 魔法陣展開。



 高速。



 かなり優秀。



 でも。



 遅い。



 私は視線を向ける。



 それだけ。



 魔法陣が崩れる。



 接続が噛み合わなくなる。



 順序が乱れる。



 成立しない。



「っ……!」



 監査官の顔色が変わる。



 理解した顔。



 “これはまずい”って。



 その瞬間。



 少しだけ。



 懐かしい感覚がした。



 前まで。



 私も、同じ顔をしていたから。



「能力名を確認」



 銀髪の女が言う。



 冷静に。



 でも。



 声が硬い。



「……不明」



 答える。



 本当に。



 まだ名前はない。



「系統は」



「分からない」



「発動条件」



「合わせるだけ」



 沈黙。



 その場が止まる。



 監査官たちの顔が変わる。



 その言葉の意味を。



 理解したから。



「……認識干渉型か」



 銀髪の女が呟く。



「いや、違う」



 別の監査官。



「空間制御……いや」



「時間?」



「違う、同期だ」



 議論が始まる。



 でも。



 誰も断定できない。



 分類できない。



 つまり。



 未知。



 その瞬間。



 空気が変わる。



 明確に。



 警戒へ。



 私は、少しだけ理解する。



 ああ。



 そうか。



 この世界。



 “分からないもの”を。



 怪物って呼ぶんだ。



「ミナ・アッシュ」



 銀髪の女が言う。



「君は今後、監視対象となる」



 やっぱり。



 そうなる。



「行動制限も入る。許可なく学院外への移動は禁止」



 淡々と。



 事務的に。



 でも。



 その実態は。



 ほぼ拘束だった。



「……別にいいです」



 答える。



 本当に。



 どうでもいい。



 その時。



 訓練室の入口が開く。



 視線が向く。



 立っていたのは。



 ユナだった。



「……ミナ」



 顔が青い。



 たぶん。



 ここに来る途中で。



 話を聞いた。



 監視。



 危険指定。



 そういう単語を。



「入るな」



 監査官が止める。



 でも。



 ユナは止まらない。



 少し震えながら。



 それでも。



 こっちへ来る。



「大丈夫だから」



 私は言う。



 自然に。



 前みたいに。



 壊さないように。



 怖がらせないように。



 でも。



 ユナは、少しだけ泣きそうな顔で笑った。



「……それ、全然大丈夫な顔じゃないよ」



 その一言だけ。



 なぜか。



 少しだけ。



 胸に残った。

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