表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

優秀な人間ほど、異常に気づく

 最初に気づいたのは、教師だった。



「……止めろ」



 訓練場。



 模擬戦の最中。



 教師の声が、途中で割り込む。



 珍しい。



 いや。



 初めてだった。



 全員が止まる。



 視線が集まる。



 教師は、前を見ていた。



 私を。



「ミナ・アッシュ」



 呼ばれる。



「なにをした」



 質問。



 でも。



 確認に近い。



「別に」



 答える。



 本当に。



 何もしていない。



 少なくとも。



 私の感覚では。



「……そうか」



 教師が黙る。



 視線だけが残る。



 重い。



 でも。



 前みたいな嫌悪じゃない。



 理解できないものを見る目。



 それに近い。



 原因は分かっている。



 さっきの模擬戦。



 私は、ただ避けただけ。



 相手の攻撃を。



 最短で。



 最適で。



 当然みたいに。



 でも。



 それだけで。



 相手は、崩れた。



 呼吸。



 重心。



 魔力の流れ。



 全部。



 乱れていた。



 たぶん。



 “合わせすぎた”。



 私の基準に。



「今の……見えた?」



 誰かが呟く。



「いや、でも……」



「消えたように——」



 ざわめき。



 小さい。



 でも広がっていく。



 私は、少しだけ考える。



 隠した方がいいか。



 たぶん。



 その方がいい。



 この世界は。



 “天才”を嫌う。



 正確には。



 理解できないものを。



 怖がる。



 だから。



 前の私は、合わせていた。



 壊れないように。



 浮かないように。



 でも。



 今は。



 その感覚が、少し分からない。



「次」



 教師が言う。



「ミナ。お前も入れ」



 一瞬、空気が止まる。



 誰かが息を呑む。



 当然だ。



 今まで外されていた私が。



 急に。



 戻される。



「……いいんですか」



 聞く。



「判断するのは私だ」



 短い。



 でも。



 少しだけ。



 強張っている。



 教師も。



 警戒している。



 私を。



「……了解」



 前に出る。



 相手は三人。



 学院でも上位。



 普通に強い。



 以前なら。



 立った瞬間に終わっていた相手。



「……」



 全員、構えている。



 誰も前に出ない。



 慎重。



 それだけで、少し面白かった。



 前までなら。



 油断されていたのに。



「始め」



 教師の合図。



 同時に。



 魔法が来る。



 三方向。



 速い。



 連携も綺麗。



 無駄がない。



 でも。



 遅い。



 違う。



 “粗い”。



 全部。



 隙間だらけに見える。



 私は、一歩だけ動く。



 それだけ。



 たったそれだけで。



 全部、外れる。



「な——」



 相手が固まる。



 当然だ。



 避けたんじゃない。



 “そこにいなかった”。



 そんな感覚に近い。



 次の瞬間。



 私は、相手の後ろにいる。



 無音で。



 自然に。



 移動したみたいに。



「っ!?」



 一人が反応する。



 速い。



 かなり。



 でも。



 遅い。



 私は、その魔法に触れる。



 軽く。



 ただ指先で。



 その瞬間。



 魔法式が、崩壊する。



 音もなく。



「え……?」



 相手が固まる。



 理解できない顔で。



 当然だ。



 私も少し前まで、分からなかった。



 でも今は分かる。



 魔法は。



 “流れ”だ。



 順番。



 接続。



 積み重ね。



 だから。



 少し順序をズラせば。



 簡単に壊れる。



「——っ!」



 後ろから攻撃。



 反射で振り返る。



 その瞬間。



 相手の動きが止まる。



 いや。



 止めた。



 無意識に。



 “合わせた”。



 私の基準に。



「……ぁ」



 相手が膝をつく。



 呼吸が乱れている。



 立てない。



 壊したわけじゃない。



 ただ。



 世界との同期を、少しズラしただけ。



 それだけで。



 戦闘にならない。



 静かだった。



 訓練場が。



 誰も喋らない。



 教師すら。



「……終了」



 ようやく声が出る。



 その瞬間。



 ざわめきが爆発する。



「なんだ今の」



「魔法じゃないだろ……」



「いや、でも魔力反応は——」



 混乱。



 困惑。



 恐怖。



 全部混ざっている。



 その中で。



 一人だけ。



 何も言わないやつがいた。



 ユナ。



 ずっと。



 こっちを見ている。



 怖がるみたいに。



 でも。



 目を逸らせないみたいに。



「……ミナ」



 小さく。



 名前を呼ぶ。



 その声を聞いて。



 私は、少しだけ思う。



 ああ。



 たぶん。



 もう。



 前には戻れない。



 理解される側には。



 戻れない。



 でも。



 それでいい。



 今は。



 それで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ