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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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7/47

ズレていたのは、世界の方だ

 静かだった。


⸻


 音が、ない。


⸻


 正確には。


⸻


 “合っていない”。


⸻


 全部が。


⸻


 少しずつ。


⸻


 噛み合っていない。


⸻


 それが。


⸻


 普通だった。


⸻


 今までは。


⸻


「……やめるか」


⸻


 呟く。


⸻


 もう一度、自分を壊すのを。


⸻


 やめる。


⸻


 理由は、ない。


⸻


 ただ。


⸻


 さっきの感覚が、残っている。


⸻


 あの一瞬。


⸻


 “揃った”感覚。


⸻


 あれが。


⸻


 離れない。


⸻


 手を見る。


⸻


 震えは、止まっている。


⸻


 代わりに。


⸻


 違う感覚がある。


⸻


 静かで。


⸻


 深い。


⸻


 底の見えないもの。


⸻


「……合わせない」


⸻


 言う。


⸻


 小さく。


⸻


 でも。


⸻


 はっきりと。


⸻


 今までと逆。


⸻


 世界に合わせない。


⸻


 自分を。


⸻


 曲げない。


⸻


 その瞬間。


⸻


 何かが、切り替わる。


⸻


 音が。


⸻


 戻る。


⸻


 いや。


⸻


 初めて、合う。


⸻


 足音。


⸻


 風。


⸻


 遠くの声。


⸻


 全部が。


⸻


 遅れない。


⸻


 先走らない。


⸻


 ただ。


⸻


 正しい位置にある。


⸻


「……は」


⸻


 笑う。


⸻


 少しだけ。


⸻


 自然に。


⸻


 初めて。


⸻


 力を使う。


⸻


 意識して。


⸻


 でも。


⸻


 無理にじゃない。


⸻


 ただ。


⸻


 “そうするだけ”。


⸻


 指を、軽く動かす。


⸻


 それだけで。


⸻


 空間が、揃う。


⸻


 歪みが。


⸻


 消える。


⸻


 いや。


⸻


 “従う”。


⸻


 私に。


⸻


「なるほど」


⸻


 理解する。


⸻


 一瞬で。


⸻


 今までの全部が、繋がる。


⸻


 ズレていたのは。


⸻


 失敗じゃない。


⸻


 暴走でもない。


⸻


 ただ。


⸻


 基準が違っただけ。


⸻


 世界と。


⸻


 私の。


⸻


 だから。


⸻


 合わせれば壊れる。


⸻


 当然だ。


⸻


 合ってないんだから。


⸻


 でも。


⸻


 合わせないなら。


⸻


 話は別だ。


⸻


「……簡単じゃん」


⸻


 呟く。


⸻


 乾いた声で。


⸻


 今までの苦労が。


⸻


 少しだけ、馬鹿みたいに思える。


⸻


 外に出る。


⸻


 廊下。


⸻


 人がいる。


⸻


 変わらない景色。


⸻


 でも。


⸻


 違って見える。


⸻


 全部。


⸻


 “遅い”。


⸻


 いや。


⸻


 違う。


⸻


 “揃っている”。


⸻


 私に。


⸻


 誰かとぶつかりそうになる。


⸻


 反射的に。


⸻


 動く。


⸻


 軽く。


⸻


 それだけで。


⸻


 完全に避ける。


⸻


 無駄がない。


⸻


 迷いもない。


⸻


 最短。


⸻


 最適。


⸻


「……え?」


⸻


 相手が驚く。


⸻


 当然だ。


⸻


 でも。


⸻


 どうでもいい。


⸻


 関係ない。


⸻


 訓練場。


⸻


 人がいる。


⸻


 戦っている。


⸻


 魔法が飛ぶ。


⸻


 ぶつかる。


⸻


 音が鳴る。


⸻


 全部。


⸻


 見える。


⸻


 正確に。


⸻


 ズレなく。


⸻


「……なるほど」


⸻


 もう一度、言う。


⸻


 今度は。


⸻


 少しだけ納得して。


⸻


 足を踏み出す。


⸻


 一歩。


⸻


 それだけで。


⸻


 空気が変わる。


⸻


 近くにいた数人が、振り向く。


⸻


 理由は分からないはずだ。


⸻


 でも。


⸻


 分かる。


⸻


 “何かがおかしい”って。


⸻


 その中に。


⸻


 ユナがいる。


⸻


 目が合う。


⸻


 一瞬だけ。


⸻


 時間が止まる。


⸻


 いや。


⸻


 “揃う”。


⸻


「……ミナ?」


⸻


 名前を呼ばれる。


⸻


 久しぶりに。


⸻


 その声で。


⸻


 少しだけ。


⸻


 懐かしいと思う。


⸻


 でも。


⸻


 それだけだ。


⸻


「……」


⸻


 答えない。


⸻


 必要がないから。


⸻


 近づく。


⸻


 ゆっくり。


⸻


 逃げ場を与えない距離で。


⸻


 でも。


⸻


 圧はかけない。


⸻


 ただ。


⸻


 そこにいるだけ。


⸻


「……大丈夫なの?」


⸻


 ユナが聞く。


⸻


 前と同じ言葉。


⸻


 でも。


⸻


 意味は違う。


⸻


 今は。


⸻


 少しだけ。


⸻


 怖がっている。


⸻


 その違いが、分かる。


⸻


「大丈夫」


⸻


 答える。


⸻


 短く。


⸻


 でも。


⸻


 今度は、本当だ。


⸻


 嘘じゃない。


⸻


 そのまま。


⸻


 横を通り過ぎる。


⸻


 触れない。


⸻


 何も起きない。


⸻


 壊れない。


⸻


 当然だ。


⸻


 もう。


⸻


 ズレてないから。


⸻


 後ろで。


⸻


 小さく息を呑む音がする。


⸻


 気にしない。


⸻


 振り返らない。


⸻


 もう。


⸻


 必要ないから。


⸻


 私は。


⸻


 理解した。


⸻


 やっと。


⸻


 全部。


⸻


 繋がった。


⸻


 だから。


⸻


 もう。


⸻


 折れない。


⸻


 その代わり。


⸻


 もう。


⸻


 戻らない。

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