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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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6/47

自分で壊した方が、楽だった

 呼び出しは、簡単だった。


⸻


 名前を呼ばれて。


⸻


 行くだけ。


⸻


 それだけ。


⸻


 重くもない。


⸻


 軽くもない。


⸻


 ただの流れ。


⸻


 教師の部屋。


⸻


 入る。


⸻


「座れ」


⸻


 言われる。


⸻


 座る。


⸻


 向かい合う。


⸻


 距離は、近い。


⸻


 でも。


⸻


 遠い。


⸻


「結論から言う」


⸻


 教師が言う。


⸻


 いつも通りの声で。


⸻


 何も変わらない声で。


⸻


「お前は当面、実技から外す」


⸻


 予想通り。


⸻


 驚きはない。


⸻


「理由は分かるな」


⸻


「はい」


⸻


 短く答える。


⸻


 説明する必要もない。


⸻


 分かりきっている。


⸻


「制御不能の能力。再発の可能性が高い」


⸻


 淡々と。


⸻


 事実だけ。


⸻


「以上だ」


⸻


 終わり。


⸻


 短い。


⸻


 あっさり。


⸻


 それでいい。


⸻


 それくらいでいい。


⸻


「……一つ、聞いていいですか」


⸻


 口が動く。


⸻


 考える前に。


⸻


「なんだ」


⸻


「もし、私がいなくなったら」


⸻


 少しだけ間が空く。


⸻


 でも。


⸻


 言い切る。


⸻


「困りますか」


⸻


 沈黙。


⸻


 一瞬だけ。


⸻


 本当に一瞬だけ。


⸻


 教師の目が止まる。


⸻


 それから。


⸻


「……困らない」


⸻


 答え。


⸻


 迷いなし。


⸻


 正確で。


⸻


 正直で。


⸻


 必要十分な答え。


⸻


「そうですか」


⸻


 頷く。


⸻


 それでいい。


⸻


 それで。


⸻


 全部、終わった気がした。


⸻


 部屋を出る。


⸻


 廊下。


⸻


 人がいる。


⸻


 でも。


⸻


 関係ない。


⸻


 誰とも。


⸻


 関係ない。


⸻


 視線はある。


⸻


 でも、意味はない。


⸻


 もう。


⸻


 何も。


⸻


 刺さらない。


⸻


 部屋に戻る。


⸻


 一人。


⸻


 静か。


⸻


 座る。


⸻


 何もせずに。


⸻


 時間が過ぎる。


⸻


 何もしない時間。


⸻


 それが。


⸻


 一番、楽だった。


⸻


 考えなくていいから。


⸻


 関わらなくていいから。


⸻


 壊さなくていいから。


⸻


 手を見る。


⸻


 この手。


⸻


 これが全部。


⸻


 原因。


⸻


 理由。


⸻


 結果。


⸻


「……いらない」


⸻


 呟く。


⸻


 小さく。


⸻


 でも。


⸻


 はっきりと。


⸻


 この力が。


⸻


 このズレが。


⸻


 この存在が。


⸻


 全部。


⸻


 いらない。


⸻


 なら。


⸻


 消せばいい。


⸻


 簡単な話だ。


⸻


 使わなければいい。


⸻


 考えなければいい。


⸻


 動かなければいい。


⸻


 関わらなければいい。


⸻


 それで。


⸻


 全部、終わる。


⸻


 そう思った。


⸻


 思ってしまった。


⸻


 だから。


⸻


 私は。


⸻


 試す。


⸻


 自分で。


⸻


 意図的に。


⸻


 あの感覚を。


⸻


 呼び出す。


⸻


 ズレ。


⸻


 時間の歪み。


⸻


 順番の崩壊。


⸻


 それを。


⸻


 自分に向ける。


⸻


「……っ」


⸻


 来る。


⸻


 確実に。


⸻


 今までより、強く。


⸻


 深く。


⸻


 逃げない。


⸻


 止めない。


⸻


 むしろ。


⸻


 引き込む。


⸻


 全部。


⸻


 自分の中に。


⸻


 ねじ込む。


⸻


 痛み。


⸻


 遅れて。


⸻


 同時に。


⸻


 何重にも。


⸻


 体が、ついてこない。


⸻


 思考が、分裂する。


⸻


 でも。


⸻


 やめない。


⸻


 やめたら。


⸻


 また同じだから。


⸻


 また壊すから。


⸻


 なら。


⸻


 ここで壊れる方がいい。


⸻


 自分だけで。


⸻


 終わるなら。


⸻


 それが一番いい。


⸻


「……は、はは」


⸻


 笑う。


⸻


 少しだけ。


⸻


 壊れた音で。


⸻


 ようやく分かる。


⸻


 これが。


⸻


 一番、楽だ。


⸻


 誰も巻き込まない。


⸻


 誰も壊さない。


⸻


 自分だけ。


⸻


 壊れるだけ。


⸻


 それでいい。


⸻


 それがいい。


⸻


 その時。


⸻


 ふと。


⸻


 思う。


⸻


「……なんで」


⸻


 言葉が漏れる。


⸻


 自然に。


⸻


「なんで、合わせてるんだ」


⸻


 誰に。


⸻


 何に。


⸻


 分からない。


⸻


 でも。


⸻


 はっきりと。


⸻


 違和感がある。


⸻


 今までの全部に。


⸻


 ズレてるのは。


⸻


 力じゃない。


⸻


 世界でもない。


⸻


 私が。


⸻


 “世界に合わせようとしているから”ズレる。


⸻


 なら。


⸻


 逆なら。


⸻


 どうなる。


⸻


 合わせるのを。


⸻


 やめたら。


⸻


 その瞬間。


⸻


 感覚が、変わる。


⸻


 ズレが。


⸻


 止まる。


⸻


 いや。


⸻


 違う。


⸻


 “揃う”。


⸻


 初めて。


⸻


 噛み合う。


⸻


 自分と。


⸻


 何かが。


⸻


「……あ」


⸻


 息が止まる。


⸻


 でも。


⸻


 まだ。


⸻


 そこで止める。


⸻


 完全には、踏み込まない。


⸻


 まだ。


⸻


 その資格がない気がした。


⸻


 まだ。


⸻


 折れきっていない気がした。


⸻


 だから。


⸻


 私は。


⸻


 もう一度。


⸻


 自分を壊す方を選ぶ。


⸻


 楽だから。


⸻


 そっちの方が。

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