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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ


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5/10

触れなければよかった



 昼。



 訓練場の外れ。



 人の少ない場所。



 最初から、そこにいた。



 混ざれないから。



 混ざらない方がいいから。



 それが正しいと、分かっているから。



 でも。



「ミナー!」



 呼ばれる。



 振り返る前に分かる。



 ユナ。



 あの声。



 あの軽さ。



 あの、変わらない感じ。



「何してんの、こんなとこで」



 近づいてくる。



 ためらいなく。



 距離を詰めてくる。



「……見てるだけ」



「そんなんつまんなくない?」



 即答だった。



 迷いもなく。



「関わるなって言われてるだろ」



「言われてるねー」



「じゃあ来るなよ」



「でも来た」



 笑う。



 何も考えてないみたいに。



 でも。



 少しだけ。



 強引に明るくしてる感じがあった。



「……エリス、大丈夫なの」



 聞く。



 避けてた話。



 避けられなかった話。



 ユナの表情が、ほんの一瞬だけ止まる。



「……うん、生きてるよ」



 軽く言う。



 軽く。



 でも。



 その“軽さ”が、重かった。



「しばらくは動けないって」



 続ける。



 視線を逸らしたまま。



 それ以上は言わない。



 言えない。



 その沈黙が、全部だった。



「……そっか」



 それしか言えない。



 それ以上は、言えない。



「ねえミナ」



 ユナが言う。



 少しだけ、声を落として。



「ちょっとだけでいいからさ」



 間。



「試してみない?」



「……は?」



 意味が分からない。



「その力」



 指をさす。



 私の手。



「ちゃんと向き合った方がいいって」



 真面目な顔。



 珍しく。



 軽くない。



「制御できたらさ、絶対強いよ」



 言い切る。



 迷いなく。



「……無理だろ」



「無理かどうかはやってから決めよ?」



 近い。



 距離が。



 物理的に。



 あと一歩で触れる距離。



 ダメだ。



 それは。



 分かってる。



 触れたら。



 また。



 壊す。



 分かってるのに。



「……少しだけ」



 口が、勝手に動いた。



 止められなかった。



 関わりたかった。



 ほんの少しだけ。



 まだ。



 大丈夫かもしれないって。



 思ってしまった。



 それが。



 間違いだった。



「じゃあ来るよー」



 ユナが、軽く構える。



 攻撃じゃない。



 ただの水の流れ。



 弱い。



 明らかに。



 試すためだけの動き。



 それを見て。



 私は。



 集中する。



 初めて。



 ちゃんと。



 逃げじゃなくて。



 “使うために”。



 ズレを、意識する。



 来る。



 タイミングを読む。



 遅らせる。



 順番を、ずらす。



 できる。



 いける。



 そう思った瞬間。



 崩れた。



 全部。



 感覚が、裏返る。



 遅らせたはずのものが、先に来る。



 自分の動きが、後から来る。



 時間が、噛み合わない。



「ミナ——」



 ユナの声。



 その位置が、ズレる。



 近い。



 遠い。



 分からない。



 そして。



 手が触れる。



 ほんの一瞬。



 ユナの腕に。



 その瞬間。



 全部が引きずられる。



 時間も。



 位置も。



 順番も。



 無理やり。



 ねじ曲げられる。



「——っ!!」



 音が、二重になる。



 遅れて。



 先に。



 同時に。



 ユナの体が、弾かれる。



 本来ありえない角度で。



 本来ありえない速さで。



 地面に叩きつけられる。



「……え」



 理解が追いつかない。



 でも。



 分かる。



 やった。



 私が。



 また。



「ミナ……」



 声。



 かすれている。



 でも。



 生きてる。



 動いてる。



 よかった。



 そう思った瞬間。



 次の言葉が来る。



「……ごめん」



 ユナが言う。



 私に向かって。



「ちょっとだけ……今は……怖い」



 その一言で。



 全部、終わった。



 責めてない。



 怒ってない。



 でも。



 拒絶してる。



 はっきりと。



 優しく。



 確実に。



 距離を置いている。



「……あ」



 声が出る。



 でも。



 何も続かない。



 何も言えない。



 だって。



 正しいから。



 全部。



 正しい。



 私が悪い。



 私が壊した。



 私が触れた。



 だから。



 当然だ。



「……もう」



 口が動く。



 勝手に。



 でも。



 止めない。



 止められない。



 これが。



 一番、正しいから。



「……もう、関わらないで」



 言った。



 自分から。



 はっきりと。



 切るために。



 壊さないために。



 もう。



 これ以上。



 誰も。



 巻き込まないために。



 ユナが、何か言おうとする。



 でも。



 言わない。



 言えない。



 そのまま。



 視線を逸らす。



 それで。



 終わりだった。



 夜。



 一人。



 完全に。



 一人。



 もう誰も来ない。



 来させない。



 手を見る。



 震えが止まらない。



 でも。



 もう分かっている。



 これは。



 力じゃない。



 呪いだ。



 関われば壊す。



 触れれば終わる。



 そんなもの。



 いらない。



 いない方がいい。



 だから。



 私は。



 ここで。



 完全に折れた。



 戻らない形で。

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