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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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4/47

ここにいる理由がない

 静かだった。


⸻


 やけに。


⸻


 いつもより。


⸻


 教室に入った瞬間、分かる。


⸻


 空気が違う。


⸻


 昨日までのざわつきとは、別物。


⸻


 視線はある。


⸻


 でも、すぐ逸らされる。


⸻


 関わらないために。


⸻


 巻き込まれないために。


⸻


 それが一番、正しいから。


⸻


「……」


⸻


 席に座る。


⸻


 隣は空いている。


⸻


 昨日まで座っていたやつは、いない。


⸻


 少し離れた席に移動している。


⸻


 理由は聞かなくても分かる。


⸻


 分かりすぎるくらいに。


⸻


「おはよー」


⸻


 声がした。


⸻


 いつもと同じ。


⸻


 少しだけ明るすぎる声。


⸻


 ユナ。


⸻


 でも。


⸻


 今日は、少し違った。


⸻


 距離がある。


⸻


 物理的にじゃない。


⸻


 視線が、合わない。


⸻


「……おはよう」


⸻


 返す。


⸻


 短く。


⸻


 それだけ。


⸻


 会話は続かない。


⸻


 続けない。


⸻


 続けられない。


⸻


 どっちでもいい。


⸻


 教師が入ってくる。


⸻


 いつも通り。


⸻


 何も変わらない顔で。


⸻


 でも。


⸻


 変わっている。


⸻


 決定的に。


⸻


「ミナ・アッシュ」


⸻


 名前を呼ばれる。


⸻


 最初に。


⸻


 それだけで、十分だった。


⸻


 周りの空気が固まる。


⸻


「前に出ろ」


⸻


 立ち上がる。


⸻


 足は、少しだけ重い。


⸻


 でも、止まらない。


⸻


 止まる理由もない。


⸻


 前に出る。


⸻


 教壇の前。


⸻


 全員の視線が、刺さる。


⸻


 逃げ場はない。


⸻


「昨日の件についてだ」


⸻


 教師が言う。


⸻


 淡々と。


⸻


 感情を乗せずに。


⸻


「訓練中の暴走。味方への被害」


⸻


 一つ一つ。


⸻


 事実だけを並べる。


⸻


「重傷者一名。現在、回復室で安静」


⸻


 胸の奥が、少しだけ沈む。


⸻


 でも。


⸻


 驚きはない。


⸻


 知っていたから。


⸻


 あの感触で。


⸻


 分かっていた。


⸻


「本来であれば、即時退学も検討される事案だ」


⸻


 ざわめき。


⸻


 小さいけど、確かに広がる。


⸻


 当然だ。


⸻


 むしろ、遅いくらいだ。


⸻


「だが——」


⸻


 一瞬、間が空く。


⸻


「原因不明の能力干渉と判断。経過観察とする」


⸻


 終わり。


⸻


 それだけ。


⸻


 軽い。


⸻


 軽すぎる。


⸻


 処分としては。


⸻


 でも。


⸻


 それ以上に重いものがある。


⸻


「ただし」


⸻


 続く。


⸻


 分かっていた。


⸻


 ここからが、本題だ。


⸻


「当面の間、単独行動を命じる」


⸻


 静かに。


⸻


 確実に。


⸻


 切り離される。


⸻


「実技、連携、全ての訓練から除外」


⸻


 完全に。


⸻


 戦力外。


⸻


 それどころか。


⸻


 “混ぜるな危険”。


⸻


「他生徒との接触も、必要最低限に制限する」


⸻


 決定だった。


⸻


 これで。


⸻


 終わり。


⸻


 教室の一部としての役割が。


⸻


 完全に。


⸻


 なくなった。


⸻


「以上だ。席に戻れ」


⸻


 言われる。


⸻


 戻る。


⸻


 席に。


⸻


 でも。


⸻


 そこに意味はない。


⸻


 ただの場所。


⸻


 ただ座るだけの場所。


⸻


 誰とも関わらない場所。


⸻


 授業は続く。


⸻


 何事もなかったみたいに。


⸻


 魔法の理論。


⸻


 応用。


⸻


 連携。


⸻


 全部。


⸻


 私には関係ない話。


⸻


 ただ聞くだけ。


⸻


 ただ時間が過ぎるのを待つだけ。


⸻


 昼。


⸻


 食堂。


⸻


 いつもより広く感じる。


⸻


 座る場所は、どこでもいい。


⸻


 どこでも同じだから。


⸻


 適当に座る。


⸻


 周りの席が、自然に空く。


⸻


 誰も来ない。


⸻


 来る理由がない。


⸻


「……」


⸻


 食べる。


⸻


 味は、しない。


⸻


 しているはずなのに。


⸻


 分からない。


⸻


 その時。


⸻


 足音が止まる。


⸻


 目の前で。


⸻


「……」


⸻


 顔を上げる。


⸻


 ユナ。


⸻


 立っている。


⸻


 少しだけ迷うように。


⸻


 でも。


⸻


 座らない。


⸻


「……大丈夫?」


⸻


 聞いてくる。


⸻


 距離を保ったまま。


⸻


「何が」


⸻


「その……いろいろ」


⸻


 曖昧な言い方。


⸻


 踏み込まないための言い方。


⸻


 優しさ。


⸻


 でも。


⸻


 中途半端な優しさ。


⸻


「大丈夫」


⸻


 答える。


⸻


 短く。


⸻


 それだけ。


⸻


 それ以上はいらない。


⸻


「……そっか」


⸻


 ユナは頷く。


⸻


 少しだけ。


⸻


 安心した顔で。


⸻


 でも。


⸻


 そのまま。


⸻


 どこかへ行った。


⸻


 隣には、座らなかった。


⸻


 それが。


⸻


 全部だった。


⸻


 夜。


⸻


 部屋。


⸻


 一人。


⸻


 静か。


⸻


 何もない。


⸻


 何も変わらない。


⸻


 でも。


⸻


 全部変わった。


⸻


 手を見る。


⸻


 あの力。


⸻


 あのズレ。


⸻


 あの暴走。


⸻


 考える。


⸻


 初めて、ちゃんと。


⸻


「……使えたら」


⸻


 呟く。


⸻


 もし。


⸻


 制御できたら。


⸻


 これは。


⸻


 “強い”。


⸻


 そう思ってしまう。


⸻


 一瞬だけ。


⸻


 ほんの一瞬だけ。


⸻


 でも。


⸻


 すぐに消す。


⸻


 そんな考え。


⸻


 今の私には、いらない。


⸻


 だって。


⸻


 その前に。


⸻


 決まっている。


⸻


 私は。


⸻


 ここにいる理由がない。


⸻


 必要とされていない。


⸻


 関わらない方がいい存在。


⸻


 それが。


⸻


 今の私。


⸻


 だから。


⸻


 折れる。


⸻


 まだ。


⸻


 足りない。


⸻


 もっと。


⸻


 深く。

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