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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ


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ここにいる理由がない

 静かだった。



 やけに。



 いつもより。



 教室に入った瞬間、分かる。



 空気が違う。



 昨日までのざわつきとは、別物。



 視線はある。



 でも、すぐ逸らされる。



 関わらないために。



 巻き込まれないために。



 それが一番、正しいから。



「……」



 席に座る。



 隣は空いている。



 昨日まで座っていたやつは、いない。



 少し離れた席に移動している。



 理由は聞かなくても分かる。



 分かりすぎるくらいに。



「おはよー」



 声がした。



 いつもと同じ。



 少しだけ明るすぎる声。



 ユナ。



 でも。



 今日は、少し違った。



 距離がある。



 物理的にじゃない。



 視線が、合わない。



「……おはよう」



 返す。



 短く。



 それだけ。



 会話は続かない。



 続けない。



 続けられない。



 どっちでもいい。



 教師が入ってくる。



 いつも通り。



 何も変わらない顔で。



 でも。



 変わっている。



 決定的に。



「ミナ・アッシュ」



 名前を呼ばれる。



 最初に。



 それだけで、十分だった。



 周りの空気が固まる。



「前に出ろ」



 立ち上がる。



 足は、少しだけ重い。



 でも、止まらない。



 止まる理由もない。



 前に出る。



 教壇の前。



 全員の視線が、刺さる。



 逃げ場はない。



「昨日の件についてだ」



 教師が言う。



 淡々と。



 感情を乗せずに。



「訓練中の暴走。味方への被害」



 一つ一つ。



 事実だけを並べる。



「重傷者一名。現在、回復室で安静」



 胸の奥が、少しだけ沈む。



 でも。



 驚きはない。



 知っていたから。



 あの感触で。



 分かっていた。



「本来であれば、即時退学も検討される事案だ」



 ざわめき。



 小さいけど、確かに広がる。



 当然だ。



 むしろ、遅いくらいだ。



「だが——」



 一瞬、間が空く。



「原因不明の能力干渉と判断。経過観察とする」



 終わり。



 それだけ。



 軽い。



 軽すぎる。



 処分としては。



 でも。



 それ以上に重いものがある。



「ただし」



 続く。



 分かっていた。



 ここからが、本題だ。



「当面の間、単独行動を命じる」



 静かに。



 確実に。



 切り離される。



「実技、連携、全ての訓練から除外」



 完全に。



 戦力外。



 それどころか。



 “混ぜるな危険”。



「他生徒との接触も、必要最低限に制限する」



 決定だった。



 これで。



 終わり。



 教室の一部としての役割が。



 完全に。



 なくなった。



「以上だ。席に戻れ」



 言われる。



 戻る。



 席に。



 でも。



 そこに意味はない。



 ただの場所。



 ただ座るだけの場所。



 誰とも関わらない場所。



 授業は続く。



 何事もなかったみたいに。



 魔法の理論。



 応用。



 連携。



 全部。



 私には関係ない話。



 ただ聞くだけ。



 ただ時間が過ぎるのを待つだけ。



 昼。



 食堂。



 いつもより広く感じる。



 座る場所は、どこでもいい。



 どこでも同じだから。



 適当に座る。



 周りの席が、自然に空く。



 誰も来ない。



 来る理由がない。



「……」



 食べる。



 味は、しない。



 しているはずなのに。



 分からない。



 その時。



 足音が止まる。



 目の前で。



「……」



 顔を上げる。



 ユナ。



 立っている。



 少しだけ迷うように。



 でも。



 座らない。



「……大丈夫?」



 聞いてくる。



 距離を保ったまま。



「何が」



「その……いろいろ」



 曖昧な言い方。



 踏み込まないための言い方。



 優しさ。



 でも。



 中途半端な優しさ。



「大丈夫」



 答える。



 短く。



 それだけ。



 それ以上はいらない。



「……そっか」



 ユナは頷く。



 少しだけ。



 安心した顔で。



 でも。



 そのまま。



 どこかへ行った。



 隣には、座らなかった。



 それが。



 全部だった。



 夜。



 部屋。



 一人。



 静か。



 何もない。



 何も変わらない。



 でも。



 全部変わった。



 手を見る。



 あの力。



 あのズレ。



 あの暴走。



 考える。



 初めて、ちゃんと。



「……使えたら」



 呟く。



 もし。



 制御できたら。



 これは。



 “強い”。



 そう思ってしまう。



 一瞬だけ。



 ほんの一瞬だけ。



 でも。



 すぐに消す。



 そんな考え。



 今の私には、いらない。



 だって。



 その前に。



 決まっている。



 私は。



 ここにいる理由がない。



 必要とされていない。



 関わらない方がいい存在。



 それが。



 今の私。



 だから。



 折れる。



 まだ。



 足りない。



 もっと。



 深く。

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