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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ


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3/10

壊したのは、私

 実技訓練は、続いていた。



 昨日の負けなんて、誰も気にしていない。



 当たり前だ。



 最初から期待されていないやつの結果なんて、



 誰の記憶にも残らない。



 でも。



 私は覚えている。



 全部。



 視線も。



 声も。



 あの時の空気も。



「ミナ、今日は無理しないでね」



 ユナが言う。



 軽い声で。



 でも。



 少しだけ、距離がある。



 昨日より。



 ほんの少しだけ。



 でも、分かる。



「分かってる」



 短く答える。



 それ以上、何も言わない。



 言えない。



 言えば、壊れそうだったから。



「今日は三人一組での連携訓練だ」



 教師の声。



 空気がまた変わる。



 昨日よりも、実戦寄り。



 “連携”。



 つまり。



 足手まといがいると、崩れる。



 分かりやすい構図。



 そして。



 当然のように。



 私は——



「……最悪」



 小さく誰かが呟いた。



 聞こえないふりをする。



 慣れている。



 そういうのは。



「私とミナ、それと……エリスでいい?」



 ユナがまとめる。



 名前を呼ばれた少女が、少しだけ顔をしかめた。



「……仕方ないわね」



 短い返事。



 明らかに不本意。



 でも断らない。



 断れない。



 それだけ。



 強い人間ほど、こういうのは割り切る。



 効率で。



 感情を切り捨てて。



「作戦は簡単。私が前、エリスが後ろ、ミナは——」



 一瞬だけ、言葉が止まる。



 その“間”が、すべてを表していた。



「……無理しないで、下がってて」



 結論。



 最適解。



 そして。



 役割の確定。



「了解」



 笑いもせず、頷く。



 それが一番、楽だった。



 戦闘開始。



 魔力がぶつかる。



 音が、空気が、揺れる。



 ユナが前に出る。



 水が形を変え、相手を押し返す。



 エリスが後方から支援する。



 精密な制御。



 隙がない。



 強い。



 ちゃんと、強い。



 だから。



 私の居場所は、ない。



 ただ立っているだけ。



 ただ見ているだけ。



 それで終わるはずだった。



 終わればよかった。



 その時。



「ミナ、少し前出て!」



 ユナの声。



 一瞬の判断ミス。



 連携のズレ。



 その“穴”を埋めるために。



「え」



 体が、動く。



 反射的に。



 考える前に。



 前に出る。



 そして。



 “来る”。



 攻撃。



 速い。



 見えない。



 でも。



 また。



 ズレる。



 世界が。



 ほんの一瞬だけ。



 遅れる。



 今回は。



 はっきりと。



 分かる。



 避けられる。



 そう思った。



 その瞬間。



 何かが、弾けた。



「っ——!?」



 視界が歪む。



 時間が、ずれる。



 自分と、世界が。



 かみ合わない。



 動いたはずの体が、遅れる。



 遅れたはずの攻撃が、先に来る。



 順番が、壊れる。



「ミナ!?」



 ユナの声。



 その位置も。



 ズレる。



 近いのか遠いのか、分からない。



 そして。



 衝撃。



 強い。



 でも、それだけじゃない。



 “巻き込む”。



 私のズレが。



 周りを。



 引きずる。



「きゃっ——!?」



 悲鳴。



 エリス。



 後ろにいたはずの彼女が。



 前に出ている。



 いや。



 違う。



 “引き寄せた”。



 私が。



 無意識に。



 時間のズレごと。



 位置ごと。



 全部。



 壊して。



「やめ——」



 間に合わない。



 攻撃が、直撃する。



 エリスに。



 私じゃなくて。



 私のせいで。



「——っ!!」



 鈍い音。



 倒れる音。



 静寂。



 全部が、止まる。



「……え」



 誰かの声。



 遠い。



 近い。



 分からない。



 視界が、元に戻る。



 時間が、戻る。



 正常に。



 でも。



 遅い。



 全部。



 遅い。



 エリスが、倒れている。



 動かない。



 呼吸は、ある。



 でも。



 目を開けない。



「……嘘でしょ」



 ユナの声。



 震えている。



 初めて聞く声。



「今の……なに」



 誰かが言う。



 ざわめき。



 混乱。



 そして。



 視線。



 全部が。



 私に向く。



「お前、何した?」



 責める声。



 当然だ。



 当然すぎる。



 だって。



 壊したのは。



 私だ。



「……違、う」



 言葉が出る。



 勝手に。



 でも。



 意味はない。



 何一つ。



 否定できない。



「ミナ……」



 ユナが、こちらを見る。



 その目に。



 初めて。



 “分からないものを見る顔”があった。



 信じていたものが、



 崩れた時の顔。



「……ごめん」



 また、出た。



 同じ言葉。



 何の意味もない言葉。



 何も戻らない言葉。



 その夜。



 一人。



 手を見る。



 震えが止まらない。



 さっきの感覚。



 はっきりと。



 理解した。



 これは。



 ズレじゃない。



 暴走だ。



 制御できない。



 触れたら壊す。



 自分も。



 他人も。



 全部。



「……最悪だ」



 笑う。



 乾いた音で。



 弱いだけじゃない。



 邪魔なだけじゃない。



 今の私は。



 “危険”だ。



 近くにいるだけで。



 壊す。



 そんなもの。



 いらない。



 いない方がいい。



 だから。



 また折れる。



 今度は。



 ちゃんと、深く。

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