壊したのは、私
実技訓練は、続いていた。
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昨日の負けなんて、誰も気にしていない。
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当たり前だ。
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最初から期待されていないやつの結果なんて、
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誰の記憶にも残らない。
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でも。
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私は覚えている。
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全部。
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視線も。
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声も。
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あの時の空気も。
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「ミナ、今日は無理しないでね」
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ユナが言う。
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軽い声で。
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でも。
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少しだけ、距離がある。
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昨日より。
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ほんの少しだけ。
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でも、分かる。
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「分かってる」
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短く答える。
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それ以上、何も言わない。
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言えない。
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言えば、壊れそうだったから。
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「今日は三人一組での連携訓練だ」
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教師の声。
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空気がまた変わる。
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昨日よりも、実戦寄り。
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“連携”。
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つまり。
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足手まといがいると、崩れる。
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分かりやすい構図。
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そして。
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当然のように。
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私は——
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「……最悪」
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小さく誰かが呟いた。
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聞こえないふりをする。
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慣れている。
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そういうのは。
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「私とミナ、それと……エリスでいい?」
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ユナがまとめる。
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名前を呼ばれた少女が、少しだけ顔をしかめた。
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「……仕方ないわね」
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短い返事。
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明らかに不本意。
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でも断らない。
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断れない。
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それだけ。
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強い人間ほど、こういうのは割り切る。
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効率で。
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感情を切り捨てて。
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「作戦は簡単。私が前、エリスが後ろ、ミナは——」
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一瞬だけ、言葉が止まる。
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その“間”が、すべてを表していた。
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「……無理しないで、下がってて」
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結論。
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最適解。
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そして。
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役割の確定。
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「了解」
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笑いもせず、頷く。
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それが一番、楽だった。
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戦闘開始。
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魔力がぶつかる。
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音が、空気が、揺れる。
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ユナが前に出る。
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水が形を変え、相手を押し返す。
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エリスが後方から支援する。
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精密な制御。
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隙がない。
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強い。
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ちゃんと、強い。
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だから。
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私の居場所は、ない。
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ただ立っているだけ。
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ただ見ているだけ。
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それで終わるはずだった。
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終わればよかった。
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その時。
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「ミナ、少し前出て!」
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ユナの声。
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一瞬の判断ミス。
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連携のズレ。
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その“穴”を埋めるために。
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「え」
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体が、動く。
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反射的に。
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考える前に。
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前に出る。
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そして。
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“来る”。
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攻撃。
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速い。
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見えない。
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でも。
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また。
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ズレる。
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世界が。
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ほんの一瞬だけ。
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遅れる。
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今回は。
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はっきりと。
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分かる。
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避けられる。
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そう思った。
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その瞬間。
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何かが、弾けた。
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「っ——!?」
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視界が歪む。
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時間が、ずれる。
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自分と、世界が。
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かみ合わない。
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動いたはずの体が、遅れる。
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遅れたはずの攻撃が、先に来る。
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順番が、壊れる。
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「ミナ!?」
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ユナの声。
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その位置も。
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ズレる。
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近いのか遠いのか、分からない。
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そして。
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衝撃。
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強い。
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でも、それだけじゃない。
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“巻き込む”。
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私のズレが。
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周りを。
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引きずる。
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「きゃっ——!?」
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悲鳴。
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エリス。
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後ろにいたはずの彼女が。
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前に出ている。
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いや。
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違う。
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“引き寄せた”。
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私が。
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無意識に。
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時間のズレごと。
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位置ごと。
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全部。
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壊して。
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「やめ——」
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間に合わない。
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攻撃が、直撃する。
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エリスに。
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私じゃなくて。
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私のせいで。
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「——っ!!」
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鈍い音。
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倒れる音。
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静寂。
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全部が、止まる。
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「……え」
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誰かの声。
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遠い。
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近い。
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分からない。
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視界が、元に戻る。
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時間が、戻る。
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正常に。
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でも。
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遅い。
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全部。
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遅い。
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エリスが、倒れている。
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動かない。
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呼吸は、ある。
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でも。
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目を開けない。
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「……嘘でしょ」
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ユナの声。
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震えている。
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初めて聞く声。
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「今の……なに」
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誰かが言う。
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ざわめき。
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混乱。
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そして。
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視線。
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全部が。
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私に向く。
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「お前、何した?」
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責める声。
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当然だ。
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当然すぎる。
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だって。
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壊したのは。
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私だ。
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「……違、う」
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言葉が出る。
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勝手に。
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でも。
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意味はない。
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何一つ。
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否定できない。
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「ミナ……」
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ユナが、こちらを見る。
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その目に。
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初めて。
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“分からないものを見る顔”があった。
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信じていたものが、
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崩れた時の顔。
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「……ごめん」
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また、出た。
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同じ言葉。
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何の意味もない言葉。
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何も戻らない言葉。
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その夜。
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一人。
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手を見る。
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震えが止まらない。
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さっきの感覚。
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はっきりと。
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理解した。
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これは。
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ズレじゃない。
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暴走だ。
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制御できない。
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触れたら壊す。
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自分も。
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他人も。
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全部。
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「……最悪だ」
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笑う。
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乾いた音で。
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弱いだけじゃない。
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邪魔なだけじゃない。
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今の私は。
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“危険”だ。
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近くにいるだけで。
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壊す。
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そんなもの。
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いらない。
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いない方がいい。
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だから。
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また折れる。
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今度は。
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ちゃんと、深く。




