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灰を抱く少女は、何度でも折れる  作者: ニィギンヤ
第1部

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3/47

壊したのは、私

 実技訓練は、続いていた。


⸻


 昨日の負けなんて、誰も気にしていない。


⸻


 当たり前だ。


⸻


 最初から期待されていないやつの結果なんて、


⸻


 誰の記憶にも残らない。


⸻


 でも。


⸻


 私は覚えている。


⸻


 全部。


⸻


 視線も。


⸻


 声も。


⸻


 あの時の空気も。


⸻


「ミナ、今日は無理しないでね」


⸻


 ユナが言う。


⸻


 軽い声で。


⸻


 でも。


⸻


 少しだけ、距離がある。


⸻


 昨日より。


⸻


 ほんの少しだけ。


⸻


 でも、分かる。


⸻


「分かってる」


⸻


 短く答える。


⸻


 それ以上、何も言わない。


⸻


 言えない。


⸻


 言えば、壊れそうだったから。


⸻


「今日は三人一組での連携訓練だ」


⸻


 教師の声。


⸻


 空気がまた変わる。


⸻


 昨日よりも、実戦寄り。


⸻


 “連携”。


⸻


 つまり。


⸻


 足手まといがいると、崩れる。


⸻


 分かりやすい構図。


⸻


 そして。


⸻


 当然のように。


⸻


 私は——


⸻


「……最悪」


⸻


 小さく誰かが呟いた。


⸻


 聞こえないふりをする。


⸻


 慣れている。


⸻


 そういうのは。


⸻


「私とミナ、それと……エリスでいい?」


⸻


 ユナがまとめる。


⸻


 名前を呼ばれた少女が、少しだけ顔をしかめた。


⸻


「……仕方ないわね」


⸻


 短い返事。


⸻


 明らかに不本意。


⸻


 でも断らない。


⸻


 断れない。


⸻


 それだけ。


⸻


 強い人間ほど、こういうのは割り切る。


⸻


 効率で。


⸻


 感情を切り捨てて。


⸻


「作戦は簡単。私が前、エリスが後ろ、ミナは——」


⸻


 一瞬だけ、言葉が止まる。


⸻


 その“間”が、すべてを表していた。


⸻


「……無理しないで、下がってて」


⸻


 結論。


⸻


 最適解。


⸻


 そして。


⸻


 役割の確定。


⸻


「了解」


⸻


 笑いもせず、頷く。


⸻


 それが一番、楽だった。


⸻


 戦闘開始。


⸻


 魔力がぶつかる。


⸻


 音が、空気が、揺れる。


⸻


 ユナが前に出る。


⸻


 水が形を変え、相手を押し返す。


⸻


 エリスが後方から支援する。


⸻


 精密な制御。


⸻


 隙がない。


⸻


 強い。


⸻


 ちゃんと、強い。


⸻


 だから。


⸻


 私の居場所は、ない。


⸻


 ただ立っているだけ。


⸻


 ただ見ているだけ。


⸻


 それで終わるはずだった。


⸻


 終わればよかった。


⸻


 その時。


⸻


「ミナ、少し前出て!」


⸻


 ユナの声。


⸻


 一瞬の判断ミス。


⸻


 連携のズレ。


⸻


 その“穴”を埋めるために。


⸻


「え」


⸻


 体が、動く。


⸻


 反射的に。


⸻


 考える前に。


⸻


 前に出る。


⸻


 そして。


⸻


 “来る”。


⸻


 攻撃。


⸻


 速い。


⸻


 見えない。


⸻


 でも。


⸻


 また。


⸻


 ズレる。


⸻


 世界が。


⸻


 ほんの一瞬だけ。


⸻


 遅れる。


⸻


 今回は。


⸻


 はっきりと。


⸻


 分かる。


⸻


 避けられる。


⸻


 そう思った。


⸻


 その瞬間。


⸻


 何かが、弾けた。


⸻


「っ——!?」


⸻


 視界が歪む。


⸻


 時間が、ずれる。


⸻


 自分と、世界が。


⸻


 かみ合わない。


⸻


 動いたはずの体が、遅れる。


⸻


 遅れたはずの攻撃が、先に来る。


⸻


 順番が、壊れる。


⸻


「ミナ!?」


⸻


 ユナの声。


⸻


 その位置も。


⸻


 ズレる。


⸻


 近いのか遠いのか、分からない。


⸻


 そして。


⸻


 衝撃。


⸻


 強い。


⸻


 でも、それだけじゃない。


⸻


 “巻き込む”。


⸻


 私のズレが。


⸻


 周りを。


⸻


 引きずる。


⸻


「きゃっ——!?」


⸻


 悲鳴。


⸻


 エリス。


⸻


 後ろにいたはずの彼女が。


⸻


 前に出ている。


⸻


 いや。


⸻


 違う。


⸻


 “引き寄せた”。


⸻


 私が。


⸻


 無意識に。


⸻


 時間のズレごと。


⸻


 位置ごと。


⸻


 全部。


⸻


 壊して。


⸻


「やめ——」


⸻


 間に合わない。


⸻


 攻撃が、直撃する。


⸻


 エリスに。


⸻


 私じゃなくて。


⸻


 私のせいで。


⸻


「——っ!!」


⸻


 鈍い音。


⸻


 倒れる音。


⸻


 静寂。


⸻


 全部が、止まる。


⸻


「……え」


⸻


 誰かの声。


⸻


 遠い。


⸻


 近い。


⸻


 分からない。


⸻


 視界が、元に戻る。


⸻


 時間が、戻る。


⸻


 正常に。


⸻


 でも。


⸻


 遅い。


⸻


 全部。


⸻


 遅い。


⸻


 エリスが、倒れている。


⸻


 動かない。


⸻


 呼吸は、ある。


⸻


 でも。


⸻


 目を開けない。


⸻


「……嘘でしょ」


⸻


 ユナの声。


⸻


 震えている。


⸻


 初めて聞く声。


⸻


「今の……なに」


⸻


 誰かが言う。


⸻


 ざわめき。


⸻


 混乱。


⸻


 そして。


⸻


 視線。


⸻


 全部が。


⸻


 私に向く。


⸻


「お前、何した?」


⸻


 責める声。


⸻


 当然だ。


⸻


 当然すぎる。


⸻


 だって。


⸻


 壊したのは。


⸻


 私だ。


⸻


「……違、う」


⸻


 言葉が出る。


⸻


 勝手に。


⸻


 でも。


⸻


 意味はない。


⸻


 何一つ。


⸻


 否定できない。


⸻


「ミナ……」


⸻


 ユナが、こちらを見る。


⸻


 その目に。


⸻


 初めて。


⸻


 “分からないものを見る顔”があった。


⸻


 信じていたものが、


⸻


 崩れた時の顔。


⸻


「……ごめん」


⸻


 また、出た。


⸻


 同じ言葉。


⸻


 何の意味もない言葉。


⸻


 何も戻らない言葉。


⸻


 その夜。


⸻


 一人。


⸻


 手を見る。


⸻


 震えが止まらない。


⸻


 さっきの感覚。


⸻


 はっきりと。


⸻


 理解した。


⸻


 これは。


⸻


 ズレじゃない。


⸻


 暴走だ。


⸻


 制御できない。


⸻


 触れたら壊す。


⸻


 自分も。


⸻


 他人も。


⸻


 全部。


⸻


「……最悪だ」


⸻


 笑う。


⸻


 乾いた音で。


⸻


 弱いだけじゃない。


⸻


 邪魔なだけじゃない。


⸻


 今の私は。


⸻


 “危険”だ。


⸻


 近くにいるだけで。


⸻


 壊す。


⸻


 そんなもの。


⸻


 いらない。


⸻


 いない方がいい。


⸻


 だから。


⸻


 また折れる。


⸻


 今度は。


⸻


 ちゃんと、深く。

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